第5話
翌日、仕事前に早速古賀にもらった専門家とやらに連絡する。コール音は長く続き十コール目、もう切ろうと思ったタイミングでやっと相手が出た。
「はい」
特に名乗りもしない。訝しみながら話しかける。
「あの。最近奇妙なことが起こってて。友人からそういうのの専門だと聞いて……」
「なるほど。いつ来れますか」
「明日なら」
「わかりました。時間はいつでもいいです。待ってますね」
それだけ言ってガチャリと電話は切れた。相手の態度に若干不安になりながらも、どうにかなるかもしれないという一条の光が見えた。
また翌日。古賀にもらった紙ナプキンに書かれた住所に向かう。来てみると不安は一層深まった。廃ビルと見紛うほどのボロいビル。テナントにはスナックと心霊相談室と書かれた看板だけが入っていた。目的の心霊相談室は三階だ。なんとなくエレベーターは不安を覚えて階段で登っていった。日が差さないからかひんやりしている。目当ての階に着くとこれまたボロい木の扉があった。
コンコンコン
ノックをする。なんの反応もない。と思う寸前中からバサバサっと音がした。
「はーい」
続いて間延びした声が聞こえる。間違いない。電話の声のあるじだ。
ガチャリ
扉が開けられる。姿を現したのは大きなメガネをかけた中性的な容貌の女性だった。
「昨日電話したものです」
なんとか要件を思い出して言う。
「ああはい。待っていましたよ」
そう言って中に案内された。促されるままソファに座り、出されたお茶を一口飲む。麦茶だった。所在なく周りを見渡していると声がかかった。
「詳しく話してもらえますか。何が起こっているのか」
「はい。でも信じてもらえるかどうか」
「全部信じます。霊の仕業かどうかは別の問題ですけどね」
はじめに感じた胡散臭さとは打って変わり堂々とした物言いに、この人ならなんとかしてくれるかもしれないと思えてくる。
「実は……」
俺は全てを話すことにした。
「霊の仕業ですね」
専門家とやらはあっけないほど簡単に言ってのけた。
「じゃあなんとかしてもらえるんですか? 祓ったりとか」
「それはできません」
きっぱりと言われてしまった。迷いもしない言いように腹が立つ。
「なんでですか」
「祓う祓わないじゃないからです」
意味のわからないことを言う。
「それはどういう」
「家族を大切にしてください。わたしから言えることは以上です。」
「なっ」
一瞬、怒りが湧いたが何を言ってもダメそうな雰囲気に無理やり鎮めた。やはりこういう怪しいところでは解決できないのだ。はじめからわかっていたことじゃないか。俺は相談料を払い、部屋を出て帰路についた。
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