第4話
不気味なことが続いていて、俺は気が立っていた。妻もさちもなにも恐れていないようで俺だけが怯えて馬鹿みたいだ。一体なにが起こってるんだろう。
「どうしたの。顔色悪いよ」
同僚の古賀が言う。
「最近色々あって」
「なになに話聞くよ?」
「ありがとう。でも信じてもらえるかどうか……」
「信じる!だからさ、飲み行こうよ今日」
「うん。ありがとう」
俺は古賀に全部話そうと決めてその日の仕事に打ち込んだ。
「なにそれ!怖いじゃん」
俺は古賀に洗いざらい話した。
「ですよね!でも妻も子供もなんともないみたいで」
「それも逆に怖いね」
古賀は声を潜めて言う。
「聞いたことあるよ。本当にやばい心霊スポットはさ、『安心』するんだって。そうやって来た人を取り込もうとするんだって。今起きてるのもそう言うことなんじゃないの」
「そんな……どうしたら」
「俺こそ胡散臭いこと言うんだけどさ」
言うと古賀は紙ナプキンにさらさらとどこかの連絡先を書く。
「ここ、そういうの専門のところ。困ったら連絡してみて」
紙ナプキンを渡される。
「専門……」
確かに胡散臭いが、正直藁にも縋りたい気分だ。俺はその紙ナプキンを財布にしまった。
「じゃあな。しっかりしろよ」
「ああ。いろいろありがとう」
古賀と別れる。時刻はすっかり遅くなって二十四時近かった。酔いを覚ますように夜風に当たりながら歩いていると、目の前に人影が現れた。
じりじりとこちらに近づいてくる。体格は自分と同じくらいの大柄の男だ。道の端によって相手の通る道をつくる。しかし男は自分の数歩先で立ち止まった。なんだろうと相手を見る。顔は見えない。暗闇のせいか、相手の服装のせいか。知り合いにこんな体格のやつはいない。
「あの」
声をかけてみる。夜の住宅街に虚しく声が響いた。
「なにか俺に用ですか?」
男は答えない。答えないまま、構えの姿勢をとった。
「……!」
咄嗟に自分も構える。こんな時代に親父狩りか?考えているまもなく相手が距離を詰める。
前蹴り。
閃いて後ろ蹴り。
突き、突き、前蹴り。
それらをなんとかいなす。こいつは相当手練だ。俺が酔ってるとはいえ手が出せないほど隙がない。
シューと相手の呼吸が聞こえる。次の瞬間喉元に突きを喰らって俺は気絶した。視界がブラックアウトしていくなか聞こえた。
「約束……約束……」
気がつくと俺は道端で伸びていた。謎の男にくらったはずの身体的ダメージはない。酔った末の幻覚か? いやそれにしてはリアルだった。それにあの声。電話口で聞いた男の声によく似ていた。俺は古賀にもらった連絡先にすぐにでも連絡しようと心に決めた。
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