第6話 街の様子


 「おお…。映画で良く見る風景だ…」


 「最初の反応がそれですか。遥人様はズレてらっしゃますね」


 「人ってね、許容範囲を超えると思考を放棄して、物事がどうでも良くなるんだよ」


 寝てる間に世界が変わっただの、ソロモン72柱の悪魔の復活だの、意味の分からない事を一気に聞いて、俺はキャパオーバーした。


 まあ、それはさておき。


 俺の体調が完全に復活するのに半月ほど掛かった。三ヶ月眠りっぱなしだったんだから仕方ない。


 それにアスモデウスっていう美女にお世話されるってのは悪い事ではなかった。これまで女性に縁がなかった訳ではないが、絶世の美女に甲斐甲斐しくお世話されるのは、中々出来ない体験だろう。


 食料とか日用品は、俺が寝てる間にアスモデウスが回収してくれてたらしい。何もしなくてもしばらく引きこもれるぐらいの物資はある。


 俺のスキルが一部共有されてるお陰で『アイテムボックス』が使えたから、ここまで回収出来たらしいが。その辺も今後調べていきたいところ。


 「マジで人が全然居ないな」


 都会って訳じゃないけど、そこそこ人通りが多いところには住んでたのに、通りには人が全然居ない。なんだが、不思議な気分だ。


 「ここら一帯のほとんどの住民は、避難するか、魔物の餌になりました。未だに残ってるのは、遥人様のような特殊なケースを除くと--」


 「ひっひっひ! マジで女が居るじゃねぇか」


 「でしょ、風太さん! しかも美女! さっさとやっちまいましょう!」


 「ああいう猿にも劣る下等種達です」


 「なるほど」


 道を歩いてると、如何にもクズですって感じの男二人がニヤニヤしながら、建物から出てきた。アスモデウスにこういうのも増えてきてるって聞いてたけど、やっぱり居るんだなぁ。


 「おい! そこのガキ! 女を置いてさっさと失せろ! 今なら見逃してやるよ!」


 「風太さんの寛大さに感謝しろよ!」


 ぎゃーぎゃー騒いでる猿二人の横を普通に通り過ぎる。猿達は俺達に無視されたのにも関わらず、ずっとある方向を見てぎゃーぎゃーと騒ぎ立てている。


 「ふーん。それが闇魔法? 便利だね」


 「まあ、そうですね。あまり殺傷能力がないので、直接戦闘には不向きですが様々な弱体効果や、思考誘導、洗脳などに使えます」


 猿達は今、アスモデウスが使った幻覚を見せられているらしい。相手の強さ次第で成功しない場合もあるらしいが、アスモデウスは俺が目覚める前に、事前にここら一帯は調べていたらしく、通用しない相手は居ないだろうとの事。


 だから、俺もアスモデウスに護衛を任せて呑気に出歩いてる訳だ。


 「しかし、よろしいのですか? ああいう手合いは幻覚で躱すより、始末した方が早かったのですが」


 「俺はまだそこまで覚悟が決まってないの」


 生物の死なんて、蚊を叩き潰すぐらいしか経験がないのに、いきなり人の死なんてハードルが高すぎる。そりゃ、いつかはやるかもだが、もう少し待ってほしい。


 まずは魔物とやらで段階を踏みたい。


 「まあ、外の感じは大体分かった。一旦、帰ろうか。これからどうするか決めよう」


 変わった世界がどうなったか、肌で感じてみたかったけど、ああいうのがいるなら、まだ出歩かない方が良いだろう。自分のスキルの事もよく分かってないし、何かしら行動するにも、まずはしっかりと自分の事を理解してからだ。


 命大事に。

 結局これが一番大事って訳よ。




 「さて。そろそろ俺達がどうするか決めないとな」


 これまでは俺の体調が万全じゃなかったから、具体的な話は避けていたが、そろそろ現実と向き合わないといけない。いつまでもダラダラしてたら、変わっていく世界に置いて行かれてしまう。


 「何から手を付けるべきか…」


 アスモデウスが機転を効かせてくれたお陰で、当面の食料や日用品の心配はない。電気ガス水道は止まってるから、色々不便はあるけどね。勿論スマホも圏外だ。


 まだ電波が飛んでるところもあるらしいが、避難が済んだとされてる場所は軒並み圏外になってると思われる。


 スマホが使えないって現代っ子には中々厳しいよねぇ。


 「やはり強さを手に入れるのは最優先でしょう。この近辺は魔物も弱く、今は安全ですが、将来的にどうなるか分かりません。周囲の脅威度が上がる前に、ある程度の強さを手に入れるべきです」


 「やっぱりそうなるか…」


 因みに避難所に行くって選択肢はない。

 既に出来上がってるコミュニティに、遅れて行くのは中々勇気がいるし、避難所は避難所で結構えぐいらしい。


 一部の権力者や力がある奴が好き放題やってるとアスモデウスに聞いている。本当かどうかは知らないが、なんにせよ面倒な事になるのは間違いなさそうだし、俺のスキルも少し特殊っぽいし、行かない方が賢明だろう。


 「俺のスキルは何をするにも魔石がいるんだよね。魔石は魔物を倒したらゲット出来るって認識でオッケー?」


 「はい。素材をドロップするかは運ですが」


 「え? 魔物の死体って残らないの?」


 あ、そういえばさっき通りを歩いた時、そこそこ荒れてたものの、魔物の死体とかは無かったな。そこらに居た荒くれ者達が魔物を殺した後、綺麗に処理するとは思えないし、魔物は倒したら消えるって感じなのか。


 「魔物は倒すとその場で魔力に還ります。稀に残滓として魔石やその他素材をドロップする事もありますが」


 「へぇ」


 苦労して魔物を倒して報酬無しとか、俺ならキレるけど。場合によっては命懸けの戦闘になるだろうに。


 そう考えると俺の『ドロップ確率上昇』のスキルはマジで神スキルになりそうだな。


 たった500円の課金なのに。

 マジでもっと色んなスキルに課金しておけば良かったぜ。

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