6-3

「いや、先生は難しく考えすぎだと思うぜ。要するにお嬢様が考えてるのは、ジイさんに正しい死を与えてやりたいってことだろ?」

「そういうことなのかね――あぁ、そうだね。そうだ。兄ちゃんの言う通りかもしれない」

「なら、アレを治療する必要は別にないな。あんたが小粋なトークで説得して、ちょっと正気に戻してくれれば、後は俺が何とかしてやるよ」


 白楊はそう言って、懐から真っ黒な拳銃を取り出した。

 それは初めて白楊と対面した時に、彼が怪物に向けた、あの銃だった。

 飾りのない銃身には艶消し加工が施されて、亡霊のようにその黒を空間に馴染ませている。

 相変わらず、不気味な気配を衣のように纏う物体だった。

 白楊は慣れた手つきでそれをクルクルと回しながら、肩の高さで水平に構えた。

「こいつは俺の仕事道具の一つなんだけどよ。この銃は少し特殊でな。命中させた相手に〝死〟の概念をぶち込むんだ。不老不死だろうが当てさえすれば、そいつは死ぬ」


 文字通り規格外の性能に、あんぐりと口が開く。

 初めて見た時から異様な気配を放つ道具だとは思っていたが、そこまで常識外の存在だとは思わなかった。

 エニグマのことに詳しい訳ではないが、死という概念を操作するその銃が、超自然的な力を持つエニグマの中でも特に異端な性能を持つことは、容易に察せられる。というか、こんなものが社会に溢れていたら、とっくに世界は滅んでいることだろう。


「なんですか、それ。そんなチートアイテムを持ってるなら、お兄さん一人で全部解決しません?」

「もちろん、制限はある。制限っていうか、正当な用法を誤った時のペナルティって感じだけどな」

「正当な用法?」

「一言でいえば、対象に希死念慮があるかどうかだ。死を望む人間に安らかな死を与える。これに反すると、その度合いに応じて効果が下がるし、撃った側もダメージを負うことになるんだよ」

「……つまり、安楽死のための銃ってことですか?」


 口を三日月に開いて、悪魔のように白楊は笑った。


「今どき需要が多そうだろ? あの怪異みたいにな。本来の存在意義を忘れて、訳も分からず暴れるだけの存在になっても、死ぬことができない。そういう奴の為なら、反動も軽めで済む。仏さんが自分で納得して死を望むなら、なおさらだ」


 やっぱり死神じゃないですか、と軽口が飛び出しかけて――、心臓がトクンと跳ねる。

 彼はきっと気にしないのだろうけれど。

 結局、「そうですね」とだけ返して、アッシュは白銀の横髪をクルクルと指で遊ぶ。


「てなわけで。ベルタお嬢様のひと手間で仕事が楽になるなら、俺は賛成に投票するけど、教授はどうだ」

「具体的な方針は一任するわ。そこは貴方の専門でしょう?」

「じゃ、決まりだな。ただ一つだけ言っとくぜ。アレは人間の認知を遥かに超えた存在だ。基本的に人の思うようにどうこうしようってのは、愚かな考えなんだよ。――つまり。何か可怪しなことが起こった場合、俺はすぐに方針を抹殺に切り替える。いいな」


 ベルタは、頷いた。


「ああ。その時は、一思いに頼むよ」

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