6-2
「ベルタさん。何か隠してることがあるんじゃないですか」
数刻前。馬車の客車にて。
作戦会議の最後に手を挙げたアッシュは、その言葉から話を切り出した。
「隠し事……?」
ベルタの怪訝な表情に、慌てて両手を振って言葉を付け足す。
「嘘をついてるとかそういう事じゃなくて! ただ、どこか苦しそうに見えたので。だから、まだ言ってないことがあるなら、言った方がいいんじゃないかと思って……」
ほとんどただの勘めいたその指摘に、彼女は眼を見開いた。
「参ったねぇ。やっぱり分かっちまうものかい」
どうしたものかと、窓の外を見遣りながら頭を掻くベルタ。緩やかな「へ」の字に曲げられた唇は、恥ずかしさを隠しているようにも見えた。
「可能な限り要望はお聞きしますよ。こちらとしても、協力頂いている身ですから」という教授の誘いに、「じゃあ、一つ我儘を言わせてもらっても良いかな」とベルタは姿勢を正して、身を乗り出す。
「一瞬で良い。あの怪物と話をさせてほしい」
自らを怪物をおびき出す囮にする代わりに提示する条件としては、あまりに不可解なその内容に、白楊とローズは顔を見合わせた。
「本気ですか? 貴女は〝490246〟に、あまりいい印象を抱いているようには見えませんでしたが」
「――私はこの街のことは大嫌いだけど、祖母のことはけっこう好きだったのさ。だから、もしあれが本当に祖父ならば、私はアレに安らかに逝ってほしい。せめてあの世くらいでは、祖母と一緒に過ごしてほしいからね」
「言葉を交わせば、思いが通じると?」
「アタシだって.馬鹿げてると思うさ。これはただの自己満足に過ぎないんだって。でも、殺す以外の選択肢があるなら――あってほしいと、思ったのさ」
絞り出すようなベルタの声に、教授も何か感じるところがあったらしい。
何かを考えこむように額を抑えて、深く考えこんだ後に、ようやく口を開いた。
「……残念だけど、それは難しいかもしれないわね。怪異も、人も、どんな存在も、何らかの要因によって存在の劣化を起こすことがあって、私たちはそれを〝モルフォ病〟と呼んでいる。〝490246〟もその一種だと考えられるけれど、あそこまで症状が進行した個体が治癒した例を、少なくとも私は知らないわ」
「……そうか。先生が言うなら、きっとそうなんだろうね。――でも、やらせてくれないだろうか。迷惑をかけて悪いとは思うけど、生まれてこの方諦めが悪くてね」
「うーん。私としては、あまり一般人を危険に曝すような真似をするのは避けたいところだけれど……」
そこで、これまでじっと話を聞いていた白楊が口を挟んだ。
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