5-3
「大丈夫かよ。さっきはアレに襲われて泣きそうになってた癖に」
「な、泣きそうになんてなってませんし! 当たりさえすれば、あんなのいちげきですから!」
「そうか? マ、実行するならなるべく俺から離れた所で頼むぞ」
なんか、風当りが強い。気がする。
強火の煽りに何も言えないでいると、ローズ教授が口を挟んできた。
「大丈夫よ。いざとなったら白楊君が守ってくれるから。その為に彼を呼んでる訳だし」
「おいおい。俺が契約したのは、怪異をぶち殺すことだけだ。子供のお守りは契約外だぜ」
「なら、その子を守ることも、怪異を倒す布石の一つだと思って頂戴。後はアトリビュートの安定化をどうするかね……、本当は高位の聖職者しかアレの加工はできないのだけれど――」
ローズは何か言いたげな顔でこっちをチラと見る。
何か疑っているような、だけど期待しているような感覚は伝わってきたが、具体的な意図を組み切れなくて、曖昧に首を傾げてみる。すると何事もなかったかのように、彼女は目を逸らした。
えっ、なに。何か悪い事でもしたかな。
結局、その答えは得られずに、話はそこで終わる。
「まぁその辺は後で考えましょう。まずは病原の切除が先ね」
ローズ教授がパチンと指を鳴らすと、展開していたホログラムが全て消え去った。
「――まぁ、正直おチビに関してはそんなに心配してないんだけどよ。ベルタお嬢様はあの留置場にでも籠って、守って貰ってた方が良いんじゃないか? 勝手に期待してくれるのは良いけどよ。死んでも文句は受け付けないぜ」
白楊の語り口は相変わらず嘲るように軽いが、言ってることはとても当たり前で、現実的だ。行動も同じくらい現実的であって欲しい。
「それに関しては申し訳なく思っているわ。でも、どうにもあの怪物はベルタさんに固執しているみたいだから。万が一すれ違いになって、街に危害が及んだら最悪だから」
「つまりは囮役ってことか。教授も意外と冷酷なもんだな」
「それは……、そういう言い方もできるかもしれないけれど……」
顔を曇らせるローズ教授。
それを庇うようにベルタはきっと白楊を睨みつけて、毅然と答えた。
「ご心配痛み入るけど、アタシも覚悟はしてきているさ。一応ここらの総締めとして、自分のシマで起きた問題は自分で解決しなければ格好がつかないからね。あんな忌々しい怪物なんて一思いにやってしまってくれよ」
「その勇気に感謝いたします。――ということらしいけれど、白楊君は納得してくれた?」
「俺はママじゃねえんだから、いちいち同意を求めるなよ。――マ、本人が良いなら、良いんじゃねぇの。地獄で泣きつかれたって助けてはやらないけどな」
「OKってことね。後、何か質問とかある人、いるかしら?」
沈黙が、三つの拍を刻む。
教授は面々を見渡し、意見が無い事を確認する。そしてまとめの言葉を発しようとしたところで、視界の隅におずおずと手が挙がった。
「あ、あのー。一ついいですか?」
まとめの雰囲気を壊すように手を挙げたアッシュは、集まる視線に軽く顔を赤らめながら、言葉を切りだした。
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