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「そうね。先に訊きたいのだけれど、アッシュちゃんは今の状況をどれくらい把握している? この街のこととか、あの怪物のこととか」

「実はあんまり……、乗ってた魔導機関車が急に止まっちゃって、町を歩いてたらあの怪物に遭遇したって感じです」

「オーケー。では最初に言っておくけれど、現在私たちが居る場所――DE78地区は形而障害によって周囲から分断状態にある」

「……〝けいじしょうがい〟? とは何でしょう?」

「御免なさい。研究者の悪いところが出たわね……、直接見てもらった方が分かりやすいかしら」


 ローズは両手の親指と人差し指を直角に組み合わせて、横長の長方形の印を結ぶ。

 すると彼女の作り出した形の面に沿うように、青白い光で構成された四角いホログラム――テレビの液晶だけが空中に浮遊しているのを想像してもらえれば分かりやすいだろうか――が形成される。

 地元では見られなかった本物の魔術に、アッシュは眼を輝かせながら画面に食いついた。

 ホログラムの窓には、街を中心にした衛星写真のようなモノが映っている。しかし、街の中心部が鮮明に映っているのに対し、一定の距離が離れるごとに映像にノイズが入ってゆき、ある程度から先は完全に見えなくなっている。

 まるで、そこから先がなにも存在していないかのように。


「この街から少し行ったところに、正体不明の霧があるの。さっき九龍公安隊のグループが調査に入ったけど、ある程度まで行ったら、通信が途絶えて帰ってこなかったって」


 ローズが今度は人差し指をフリックすると、二枚目の窓が現れる。今度の映像は地上から撮られたもので、何処かの森林の様子を映したものだった。森には街道が敷設されていて、それは森の奥の方へと続いているが、遠くに行くに従って著しく視認性の低い霧が立ち込めていて、道は得体のしれない化け物に飲み込まれたみたいに、消えてゆく。


「公安隊ってのは……ああ、あの眼鏡が率いてたヤツか。通信が途絶えたのは普通に圏外だからって話では無いんだな?」

「分からないわ。大抵の科学的・魔術的・形而上学的妨害にも対応している強い回線だって聞いたけど、単純にそれを超える何かが施されてたら分からないもの。どちらにせよ、そんな正体不明な霧の中に策なしで突入するのはあまりに無謀だわ」

「それじゃ、俺は何をすればいいんだ。俺にできんのは敵をぶっ殺すことだけだぜ?」

「いえ。原因はもう分かってるの。――あの獣の怪異。アレが全ての元凶なのよ」


 そこで、暫くじっと身を縮めて話を聞いていたベルタが、手を挙げた。


「それについては、アタシが説明するよ」

「……この町にはね、昔からとある伝説があるんだ。町の外れにある沼地に住む怪物の話さ」

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