2-3
「まぁ、お姉さんは助けられましたし。私も生きてるんで儲けものでしょう! ――それより、あの、すみませんでした」
「うん? 急にどうした」
唐突な謝罪に、
「私、命を助けて頂いたのに、こんな目に合わせてしまって。もしかしなくても、お兄さんが捕まってるのも私の巻き添えになったせいですよね。それに、危うく殺しかけてしまうところでしたし……」
「ああ、そういう。気にしなくても良いぜ。木枯の
前半部分だけ聞いて一瞬やっぱり実は優しい人なのかもなと思ったのも束の間、一コマおいて「――ヘッ⁉」と声が漏れる。
「当然だろ。死神の人助けは高くつくぜ。それとも、俺に人情でも期待したか」
青年は皮肉っぽく唇を歪める。
心の内でひそかに上がり始めていた死神の株を自分で暴落させるのはどうかと思うが、それはそれとして彼の言ってることが正しいのも事実だ。見かえりを求めない心こそ美徳だと聖典には書いてあるけど、命を救ってもらったお礼が言葉だけというのもケチ過ぎると思う。
「でも……、私あんまりお金は持ってないのですが……」
ポケットをごそごそと探ると、青銅製の硬貨がわずかばかりと、くしゃくしゃになった列車のチケットが一枚出てきて。最後に綺麗な形の石が一つ、コロンと音を立てて床に落ちた。
――――うん。金欠だ。
確か今日の朝に、夕食のパンを我慢したら明日の宿代くらいは払えるかなとか、皮算用していたのがなんだか懐かしい。本当は今日にでもちょっとした日雇いをしてお金を稼ごうかと思っていたのだけど、多分今の感じで行くとそれは叶わぬ夢となりそうだ。
とにかく、これしか出せるものが無さそうなので、ちっぽけな全財産をホッケーの要領で滑らせて青年の方に飛ばしてやる。
「これで足ります……?」
「……なんだこのゴミ」
「エヘヘ。後出せるものといえば、もう身体ぐらいしk――グファッ⁉」
硬い物体が前頭部に直撃して、アッシュは仰け反る。
柔らかなマットレスに逆戻りすると、ややあって枕元に今しがた青年に渡した硬貨が落ちてきた。
「冗談だ。こいつは返すから大事にポッケにしまっとけ」
どうやら、口を開けば嫌味と皮肉ばかりの青年も、アッシュのお財布事情にはさすがに絶句したらしい。呆れと心配が混じったような表情――それはどこか作り物のような青年の振る舞いの中で、初めて見た素に近い色合いだった――で、心もとない小山の硬貨を、パチンコみたいに指で打ち出してゆく。
アッシュは次々と精確に胸元に飛び込んでくるそれらを何とか掴み取って、ほっと息を吐いた。
「あ、あの! いつかちゃんと恩返しはしますから。今回のことは、私にも責任がありますし……、こう見えても私、義理堅い方なので!」
「おう。出世払いで頼むぜ。今日は大損したからな」
青年は、心底どうでも良い風にひらひらと手を振った。
うむ。この人って、やっぱり実は良い人なのだろうか。
……絶対的に口は悪いけれど。
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