第89話 裁定
「時間だ……」
「やめなさい!!」
「嫌ァ!!瑞穂!!」
黛が瑞穂を落とそうと、黛の首の前で交差された瑞穂の手を解こうと触る――
――
「……ん?なんだ?」
そう言う黛。
どうしたんだ?
「手を離せ!まさか?!吉沢、お前、起きているのか?!」
……何を言っているんだ黛は?
俺と黛までの距離は5メートルくらい。瑞穂の顔を見ても起きているようには見えない。
「グッ離せ!!」
よく見ると、瑞穂の腕が黛の首を絡めてロックしているように見えなくもない。それを外そうと黛はもがいていた。
これは……チャンスだ!
俺は植木鉢を足場に、柵に跨っている黛と瑞穂に飛びかかった。
そして、瑞穂に掴みかかり、ありったけの力で柵の内側に引き込む!
「グッ…く、苦しッ!お前ッら!!」
のけ反りながらも黛は瑞穂を離さない。
「それなら……お前も一緒に道連れだ!!」
グイッと俺の身体ごと引っ張られる。
この体勢でどこからそんな力が出てくるんだよ!
あ、これは
まずい
引き込まれる
片手で柵を掴み、残った手で何とか瑞穂を抱え、掴む
それでも……
少しずつ角度を変える体勢
徐々に見えてくる遠い地面
手も出なければ
足も出ない
それなら……!
「黛ぃいいい!!」
黛が首をこちらに向けた瞬間
ゴッ!!!
崩れかけた体勢だろうと構わず
俺は、渾身の力を込めて
黛に頭突きを放った
「ガ……」
一瞬、白目をむく黛
黛が怯んだ瞬間、瑞穂の絡まった腕が黛から離れたのが分かった
俺はその隙を逃さなかった
「うおおああ!!」
身体捻って再度力一杯、瑞穂をテラス側に引き込む
ドンッ
「グッ……!」
背中を床に叩きつけ、一瞬息が止まりそうになる。
受け身は取れなかったけど、瑞穂を受け止めることができた!
でも無理やりに瑞穂を引っ張り倒してしまったからどこか打っているかもしれない。
「瑞穂!……怪我は、ないか?!」
見たところ大きな怪我は確認できない。
しかし、安堵も束の間
「佐伯ぃぃ!!!」
鬼の形相で黛が柵を越えようとこちらに向き直っていた。
床に横たわった状態の俺と瑞穂は完全に無防備だ。
が……
柵を跨いだ状態の黛は、バランスを保てなかったのか
ガクッと体勢を崩す
両手は完全に柵から離れ、体勢を戻そうと腕をブンブンと振っている
まるでスローモーション
黛の身体が傾いていく
身体を支えようと右足をついた
が、激痛が走ったのか、斜めになっていく身体を止めることができず
ズルッと足場を踏み外した――
「あ」
手すりを掴もうとした左手は空を切り、反対の右手を思い切り伸ばす。
タシッ
かろうじて右手が柵の縦棒の部分を掴めたようだ。
しかし、すでに身体は完全に断崖の外側
掴んだ右手はズルズルと下がっていく
瑞穂を受け止めて寝転んだ状態の俺からは、ハート型の火傷の痕がある右手しか見えない。
今井さんが叫びながら走ってこちらにやって来る。
なのにヤケにゆっくりと動いていて
もう一度、柵に目をやる
ハートマークは、もうそこにはなかった……
ドスンッ
――
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