第64話 前世界線 2007年冬〜2008年春
「瑞穂ンお久ー!」
「いらっしゃい美羽ー久しぶりー!優里はもう来てるよ」
夏休みぶりかな?今日は高校の時の友だちと同窓会を兼ねたクリスマスパーティを私の家ですることになった。優里は専門学校、美羽は短大にそれぞれ進学して、みんな忙しい日々を送っている。
「ウチら3人でクリスマスパーティするのなんて初めてじゃない?」
「そうだよ。去年はあんたたち2人は受験があったし、その前は予定が合わなかったんじゃなかったっけ?」
それは私が行けなかったからかなぁ。あの時は本当にツラかった……
「なんか瑞穂、ちょっと変わった……?」
「んねー。メイクもちょい派手になったしなんか明るくなった」
「そうかな?あれかな……お父さん、何年かぶりに関東に戻って来たんだよね」
「お。再婚すんの?」
「違うよ。近くに住むようになったから、おねだりしたらいろいろ買ってくれるようになって」
「そりゃご機嫌になるわ!かァ〜ねたましい!」
「でもまぁ、瑞穂ンが明るく可愛くなったことは喜ばしいことだよ。高校の時はたまにすっごい暗い時あったよね〜」
そうか……そうなのかも。私、性格的に明るくなった。
[彼]が逮捕されて、私は被害者として警察にたくさんたくさん話を聞かれた。中には言いたくないような恥ずかしい内容もあって本当に辛かった。
でもそれは私が蒔いた種でもある。だからすべてを受け入れて、すべてを話した。
あんなに慎重な性格だったあの人がこんなにあっさりと?警察官の人が「調子に乗っていた」と言っていたから少しは納得したけど、完全に不安を拭い去ることができないでいる。
私は、心にこびり付くように残っている不安を振り払うように気丈に振る舞った。それが他者から見ての"変わった"ということなんだろう。
このことは友だちも知り合いも、母親以外誰も知らない。これから先も誰かに話すことはない。例え私に恋人ができたとしても話すことなんか絶対にないだろうな……
そういえばみんなはどうなのかな。色恋沙汰あまり聞かない。
「美羽は彼氏つくんないの?」
「ウチ短大だし出会いがなあ〜」
「旅行先とかで一目惚れするタイプだよね美羽って」
「ウチ、スノボ行きたい!」
「運動神経ゼロが何を言うかーwゲレンデで雪だるまになってそう。漫画みたいに」
「ユーリひどッ。瑞穂ンよりかは良いよ!」
久しぶり大笑いした。この3人でいるときにこんなに笑ったのって初めてかもしれない。これからは高校生時代にできなかったこと、もっとたくさんやってみたい。男の人はまだ怖いって思うけど、いつかはちゃんと恋だってしてみたいな。
*
なんとか単位が取れて、私は2年生に進級できた。勉強も忙しかったけど、サークルの飲み会やバイトも忙しくてあっという間に1年が過ぎしてしまった。
今日は、そのサークルの新歓コンパだ。私が入っているサークルは主に夏に開催されるロックフェスにみんなで参戦して楽しむ会。実際去年もフジロックにサマソニは行ったから、ちゃんと活動している……ということにはなっている。
「ウーロン茶は誰?」
「あ、私です!」
「吉沢ちゃん〜お酒のまないの?」
「私、まだ未成年なんで……」
「ええ〜マジで?!超えてるかと思ったよー」
酔っ払って絡んでくるこの木村先輩という人、シラフの時もちょっと苦手。いつも
席、間違えたな……
「お疲れー遅くなってスマン!」
「高橋会長〜遅ぇよ!」
「あたし1年生を引っ張って来たんだよ、大目にみてよ。さ、キミ。みんなに軽く自己紹介して!」
「……あ、はい。経済学部1年の佐伯です。よろしくお願いします」
「おお!いいぞー!」
え……あれって確か、高校の時、同じクラスだった……?佐伯って言ってたよな。多分そうだ。
「ここ!私の隣、空いてるよ!」
「佐伯くん、あそこ、吉沢さんの隣の席空いてるって」
さっきの先輩がトイレに行っている隙に席を埋めてしまおう……
「どうぞ座って」
「はぁ、ありがとうございます……」
やっぱり見覚えある。同じクラスだった人に間違いなさそう。そういえば、この人バンドもやってたはず。
でもこんな感じだったっけ?もっとツンとしていたと思うんだけどオドオドしていてなんか面白い。
飲み物を頼んであげてもアウェー感がすごいな。
「佐伯くんてさ、松越高校じゃなかった?」
「え?そうですけど……なんで知ってるんですか?」
「やっぱそうだよね!私、吉沢、吉沢瑞穂!覚えてない?同じクラスだったじゃん」
「えぇと……あ。あぁなんとなく、覚えています……?」
「なぜ疑問符wていうか、敬語やめてよタメなんだから」
「そうですか?……いや、そう?じゃそうする」
「本当に覚えてない?私のこと。ライブだって見に行ったんだよ?」
「本当に?そりゃどうも」
「ライブは?やっぱりもうやらない?」
「まぁね……それに雅也が、魚住が去年留学しちゃったから、難しくなっちゃって」
「魚住くんかぁ。懐かしい〜そうなんだ〜」
そんなことを話しつつも、佐伯くんは私のことをほとんど覚えていなかった。高校生の時の私をあまり知らないってだけで、高校の時のネタとかクラスの友だちのこととか共通の話題があったから話していてとても楽しかった。佐伯くんも徐々に慣れてきたのかいろいろ話をしてくれた。佐伯くんは話していてすごく面白い人だなぁって思った。高校生の時はほとんど話したことなかったしこういう人だとは思わなかったなぁ。
また一つ、大学での楽しみが増えた。素直に嬉しい……!
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