第63話 ダメなんかじゃないよ
正直、怖い……
瑞穂ンがどんな状態なのか分からないし
病院だってそんなに来ることないから
受付を済ませて、ユーリと瑞穂ンの病室に向かう。
部屋は個室になっていて、ドアは開いていた。でもベッドの周りをカーテンで閉められているから部屋の外からじゃ瑞穂ンの姿は見えない。
「し、失礼しまーす……」
なぜか声が小さくなってしまう。
病院特有の匂いがした。
部屋に入るとカーテンの向こうから、何やら話し声が聞こえてくる。
誰かお見舞いに来ているのかな……
「永瀬さん?……峰岸さんも……」
カーテンが少し開いたと思ったら、そこから顔を覗かせていたのは翔太郎くんだった。
*
「ありがとな2人とも。瑞穂も喜ぶよ」
「翔太郎くん、来てたんだね……」
「まぁ、暇だし」
そうやって言う翔太郎くんは少しやつれているように見える。
きっと無理している。
そして……
「瑞穂ン……」
「…………」
そのベッドに横たわっているのは、頭や足、腕などに包帯を巻かれた瑞穂ンだった。
ショックだった。
分かってはいたけど、こんなに酷い状態だったなんて……
「そこ座りなよ。おい、瑞穂、峰岸さんと永瀬さんが来たぞ。喜べ」
翔太郎くんが2つ椅子を用意してくれて、そこに座ったんだけど……私はどうしたらいいか分からなくなっていた。
ユーリもきっと同じだ。
「あ、あのさ……瑞穂のやつ、少し顎のラインが細っそりしたと思わない?ダイエット成功したってことかな?」
翔太郎くんは無理をしている。
そうやって私たちの緊張をほぐそうとしている。
それが、見ていてとてもツラい……
「そうだ、ウチ、お花買って来たの。花瓶も。お水入れてくるね」
「……私も」
「ああ、そうか。ありがとう」
居た堪れなくなった。
瑞穂ンを見るのも翔太郎くんを見るのも。
私は買ってきた花束を花瓶に入れる口実で、その場から逃げた。
「あら?もしかして、ミウちゃん?」
瑞穂ンのお母さん!
久しぶりに会ったな……
「あ、おばさん……こんにちは。お久しぶりです」
「やっぱりそうよね。永瀬美羽ちゃん。瑞穂のお見舞いに来てくれたの?」
「はい、お花、買ってきて……飾ろうかなって」
「ありがとう。瑞穂も喜ぶわ」
軽く会釈をして洗面所に向かった。
おばさんだってツラいだろうに……
「はぁ……ウチってば、ホントにダメダメだな」
好きな男子があんなに弱ってる。
不謹慎かもしれないけど、今の翔太郎くんを支えられるのは私しかいないのかもしれないのに。
「ふぅー……」
翔太郎くんにも瑞穂ンにもちゃんと向き合わなきゃ!
鏡を見て気合いを入れ直す。
あれ?
ユーリ……
病室の前で突っ立ってどうしたんだろ。神妙な顔して。
まぁお母さんが来たらそうなるか……
「大丈夫?ユーリ……」
「あ、うん。なんか、瑞穂のお母さんと佐伯が話をしてるから邪魔しちゃ悪いかなって、部屋の外に出てきちゃった」
「……そっか。じゃ一緒に待ってよっか」
カーテンの向こうで翔太郎くんとおばさんが話しているのが聞こえる。
開け放たれた個室のドアを背に、私とユーリは待つことにした。
「あなたなのね……瑞穂がこんな姿になってまで助けたかったって子は」
おばさんの声が聞こえる。
「まったく。瑞穂も隅に置けないことするわよね。自分を犠牲にしてボーイフレンドを救うなんて。よっぽど好きなのね。この子、家じゃ浮いた話まったくしないのよ?」
やっぱり、おばさんもそう思ってたんだ……
あんなことがあったんだ。そりゃ浮いた話なんかしないよね。
瑞穂ンは誰にも相談できなかったんだね……
「あれ?瑞穂の大事な人かと思ったんだけど……」
「!!」
「美羽……」
心臓が跳ね上がった。
私の心がざわついたのを、ユーリは気付いたのだろう。
翔太郎くんはなんて答えるのかな……
お願い
そうじゃないって
違うって
言って……
「はい、そうです……!」
「2人は付き合っているんだ?」
「あ、いや……はい、付き合っている、というか……」
「まぁ、瑞穂がこんな状態だからね……」
「…………」
ダメ……
ダメだよ……
この涙は、ここでは相応しくない
我慢だ
私……!
「お花、持って来ましたよー」
「あら、ありがとう。綺麗ね。ほら、美羽ちゃんのお見舞いよ、瑞穂」
「私たち、そろそろ帰りますね」
「あら、もう帰るの?」
「はい、また来ますから。じゃあね瑞穂ン、またね!」
「ありがとね、美羽ちゃん、優里ちゃんも」
よ、よし……
耐え切った!なんとか病室を出ることができた。
あんなところで泣いちゃったら、ある意味失礼だからね。
私、勝った!
病院のロビーと待合室を横切り正面玄関に向かう。
病院の雰囲気ってやっぱり慣れないな。少し早歩きになってしまう。
「それにしても、翔太郎くん、親に面と向かって付き合ってます的なこと言っちゃうんだ!すごいよね〜あんな状況で」
「美羽……」
「瑞穂ンのお母さん、結構元気だったね。看護師さんだから病状分かるのかな?少し安心した」
「美羽ってば」
「瑞穂ン、案外すぐ目覚めたりして。あ、瑞穂ンが起きたらさ、みんなでサプライズしない?20年寝てたんだぞって!老け顔メイクとかしてさ!」
「美羽ッ!」
「…………何よ」
「ん」
ユーリはそう言って私にハンカチを差し出した。
そう、私
本当はもう
視界がぼやけて何も見えないくらい
涙が溢れて零れ落ちていた
全然、我慢なんかできてなかった
「ウチって、本当にダメダメだなぁ。こんな状況で…泣くの、我慢できないなんて。瑞穂ンのお母さんとか翔太郎くんの方がよっぽどツラいのに」
「美羽は……ダメなんかじゃないよ……我慢なんかしなくて、いいよ」
私は泣いた
もう何が何だか分からなくらいに
病院の外だろうが敷地内だろうがお構いなしに
ユーリはそんな私のそばで泣き止むまでいてくれた
「ありがと。もう大丈夫」
病院の敷地内にあるベンチに2人で並んで座る。
お見舞いなのか外来なのか、結構人が行き交っている場所だ。
「あーぁ、1度目フラれた時はまだ希望があると思ってたんだけどな。あんなこと聞かされたらもう絶対瑞穂ンには勝てないや」
「……そ。まぁ……なんだ……男は佐伯ひとりじゃないし?もっとイイオトコ探せばいいっていうか……」
「フフ……だね」
ユーリなりの激励ってやつかな。
……あれ?
そういや、ユーリ、三島っちと付き合ってるんじゃね?
なんかムカついてきた……
「チッ」
「美羽……今、舌打ちしなかった?」
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