第50話 事情聴取

「翔太郎くん入院しちゃったって!!」


え……

何で……

それって私のせい?

それほどショックだったってこと?

分からない。

でももしかしたら原因の一つかもしれない。

だとしたら、なんて私はバカなんだろう。

本当に大バカ者だ……


「こらッ三島!入院って言っても一泊だけみたいだしもう退院したって言ってたんだ。大袈裟に話すな」


そう担任の先生が言っていた。

どうしよう

どうしよう

私、どうしたら……


「なぁ、吉沢」


魚住くん……


「なんか知らないか?お前、佐伯と仲良いだろ」


「!!」


マズい……今そんなこと聞かれたら……

この前のことが蘇ってきて、自然と涙が溢れてきた。


「あれ?おい、吉沢……大丈夫か?」


「魚住!!アンタ、瑞穂になに言ったのよ!!」


ちょっと……優里、気持ちはありがたいけど今はやめて。涙が抑えられなくなる。

 

「え、佐伯のこと何か知らないかって聞いただけなんだけど……」


「チッ、瑞穂、行こう」


「はぁ?なんなんだよ……」



 

あの日から

何かある度に涙が溢れて

本当に酷くて

みんなから心配されているのに

何も言えない自分が情けない


「瑞穂、本当に何があったの?」


「……ぅぅ」


「泣いているだけじゃ分からないよ……佐伯に何かされたんでしょ?!どうして佐伯の友達が瑞穂に手を上げなきゃならないの?」


「……ごめん……本当に……ぅぅ……」


優里ははぁ、とため息をして、

それから何も聞かなかった。







「子供、か……」


俺には分からない感覚だな。

俺に子供がいたら夢の兄貴みたいに家族を大切にする人間になれるのだろうか。

俺は瑞穂との関係がうまくできなかったから。

他の女性と結婚していたら違った結末だったのか……


昨日一泊だけ入院してさっき退院後自宅に戻って来た。

そんな生産性のない考えが渦巻いていたのは、相変わらず特定の場所にモザイクがかかっている[俺ノート]を見ていたからだろう。

心なしかモザイク部分が前よりも小さくなっているような気がする……

もう無理に思い出そうとすることはやめた。

もし、本当に俺の記憶から誰かが完全に消えたとしても、その時の俺は当たり前のように何も感じないだろう。

だって最初からその人物に対しての感情なんてものは無いんだから。


両親には心配させることになってしまうけど、翌日から俺は学校に行くことにした。

正直、瑞穂とどんな顔をして会ったらいいのか分からないけど、4月当初に決めていた[適度な距離]を改めて取ろうかと思っている。




学校に着くと、柚子流ユズルが近づいて来た。


「翔太郎くん!大丈夫なの?!もういいの?!」


「ああ、大丈夫。大したことないよ」


「先生から入院したって聞いた時はびっくりしたよ。とにかく無理はしないでね」


「分かった。ありがとな」


「おい、佐伯……」


今度は雅也だ。

そんなに俺のことが心配か。

たまには入院でもしてみるもんだな。


「おはよ、雅也。どした」


「いや、お前さ、吉沢となんかあったのか?昨日、お前の様子を吉沢に聞いたら急に泣き出しちまって」


ああ〜……

雅也ってたまにこうやって地雷踏むよな。


「ああ……ちょっとした勘違いというか……まぁいろいろあってな……それがうまくいかなくて。雅也には迷惑かけないようにするから」


「ユズにもだろ」


「だね」


「……佐伯、お前も無理すんなよ」


「うん、ありがと」


ふぅ……

クラスメイトにも少なからず影響が出ているのか。

これはもう関係ないからといって瑞穂を意図的に避けるようなことはできない状況かな……


案の定。

昼休み、今は使われていない空き教室に峰岸さんから呼び出された……あぁ申し訳ないけどすごく面倒だ……




 


「佐伯、病み上がりのところ悪いんだけど。何で呼び出されたか分かってるでしょ?」


「まぁ、なんとなく」


「説明してよ。瑞穂のあの状態を。なんでアンタの友達が絡んでるのかを」


どうしたもんか……

いくらなんでもあの日、瑞穂がどこにいたのかなんて俺から言えることじゃないからな。


「吉沢がああなった理由は、俺からは言えない。俺の友達が絡んでいるのはそれに関わる話だから、やっぱり言えない」


「何でよ?!瑞穂のあの状態、アンタだって見たでしょ?!今日だってやっと学校に来たんだよ?!アンタにあんなこと言われたから瑞穂があんなふうになっちゃったんじゃない!!」


峰岸さんは俺に怒りをぶつけながらそう言った。

ああ、峰岸さんは本当に瑞穂のことを心配しているんだな……本当に良い友達だ。


「……もう、いいよ優里……」


永瀬さんに付き添われて瑞穂が教室に入って来た。

様子を見に来ていたのかな。


「だって!瑞穂のそんな……そんな状態、もう私見てられないよ……」


俺の中で峰岸さんてクール女子のイメージが大きかったんだけど、友達のこととなるとこんなに熱くなるんだ。初めて知った。


「私、話すよ……」


「瑞穂……」


意を決したように瑞穂が一歩前へ出た。







「私、話すよ……」


全部話してしまったら楽になるだろうけど、その代償として、きっとみんなは私に幻滅しちゃうだろうな。私から離れるだろうな。

佐伯くんもきっとそうなる……


でも……

秘密にするのも、もう限界だから。

 

どこから話せばいいんだろう。

でもこれは私の想いを知ってもらういい機会かもしれない。言い訳がましいけど、最初から話した方がいいよね。


私は[彼]と出会うきっかけとなった状況から話すことにした――

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