第45話 はじまりのこと

プレゼントを渡す時って、やっぱりデートとセットにしなきゃならんのか?そもそも高校生のデートって何ができるんだろうか?普通の高校2年生であれば、俺のようにバイトをしてない限りお小遣いなのだろう。小遣いなんてたかが知れてるから自ずと行く場所も限られてしまう。カフェとかでお茶して映画を見て近場のイルミネーションが綺麗な所に行って……

ああ、考えるだけで憂鬱だ。だいたい瑞穂のクリスマスの予定はどうなんだ?確認しなければならない。

今更だが、クリスマスのイベントってこの上なく面倒だな!


その日の放課後、俺は何とか瑞穂がひとりになるタイミングを見つけて声をかけることにしたのだが……これがなかなかひとりにならない。

仕方ない、まだ少し時間に猶予がある。何も今日にこだわらなくてもいいか。


俺はトボトボとひとりで駐輪場に向かって行った。すると、3年生だろうか、陽キャ男子学生が何やら校門の方で賑わっている。


「あれ、ゼッテー誰か待ってるよな!」

「いや分かんないって!声かけてみようぜ!」

「歳上彼女ってめちゃくちゃ萌える〜一体誰の彼女だよ!しかもあんな可愛いんだぜ」


何の話だ……盛り上がっているな。

俺は、ふーん、程度に半分聞き流してチャリを押して校門から出た。


「あ、来た来た。お疲れ〜」


え……


さっき3年生が騒いでいたのは、ユキノ先輩のことか!

ユキノ先輩は校門から出て直ぐの道路わきに自分の軽自動車を置き、それに寄りかかりながら俺に向かって手をあげた。


「ユキノ先輩!何やってんだよこんな所で!」


「サプラーイズ!ってやつ?ちょっと近くに来たんで寄ってみただけだよ。ここがショウタロくんの学校かぁ〜」


「と、とにかくここじゃあんたは目立つんだから、話があるなら別の場所で聞くから!」


「えーなんでぇ。まぁ別にいいんだけどさぁ。大した用でも無かったから。ショウタロくんはチャリか。んじゃ駅前通りのファミレスで待ってるからヨロ」


何なんだあの中身オバハンは!サプラーイズ……じゃねぇよ!こんなところ瑞穂になんか見られでもしたら……


「あ……」


それ見たことか……

ちょうど永瀬さんと瑞穂が2人でチャリで校門から出てこようとしているところだった。


「むぅ……あのヒト誰ぇ?」


「あ、いや違うんだ永瀬さん!あれはバイト先の先輩で、その……」


「ふーん……まぁいいや。行こ瑞穂ン」


「……」


ぅおーい!瑞穂よーぃ!無言のまま去るんじゃない!

誤解だからー!何の誤解だ?よく分からないが余計な疑いがかかったのは間違い無い。ひとまずユキノ先輩と合流しなくては。

俺は自転車を走らせ、瑞穂たちとは違うルートで駅前通りのファミレスへ向かった。





 


「えッ?!そうだったの?」


「はい……」


「ごめん。だ、大丈夫かな?絶対勘違いしてるよね……今からでも弁明を……」


「いや!マジでこれ以上何かあると余計言い訳がましくなるので!完全に俺の落ち度です。ちゃんと事前にユキノ先輩に言っておくべきでした……」


ユキノ先輩はけっこうなお値段のパフェを注文していたようで、モシャモシャとプリンを頬張りながら言った。俺は、いつものとおりドリンクバーです。

 

俺はユキノ先輩に瑞穂のことや、永瀬さんのことを全て話した。瑞穂との関係性のことを話すのをすっかり忘れていたのだ。


「へぇ。意外とモテるんだショウタロくんは」


「自分でもびっくりですよ。前回の世界線ではクラスの女子に告白されるのなんてなかったから……嬉しさもあるけど、正直困惑しています」


「なーんか浮ついてるな。まさかその告白、曖昧な返答なんかしてないでしょうね?」


持ち手の長いスプーンを俺に向けてクルクルと回しながらユキノ先輩が聞く。


「し、してないですよ。これでも中身は大人ですよ。そこはきっちり断りました」


「まぁそうだよね。で、どうすんのさ。フォローは必要でしょ?瑞穂ちゃんだっけ」


「まぁ、正直に話すとクリスマスプレゼントをあげようかなと。それはフォロー云々よりも前から考えていたとろこですがね」


「ふーん。それは考えてたんだ。いいんじゃない?何だって喜ぶよ初めての彼からもらう物だったら」


相変わらず軽いな。こういう初めてのデートとか彼氏からのプレゼントをもらう感覚とか、やはり歳をとると忘れてしまうものなのかな。実際、前回の世界線で俺から瑞穂にあげた初めてのプレゼントが何だったかなんて全然憶えてない。




 


「で、ユキノ先輩の用ってのは何なんですか?」


「あぁそうだった。昨日ふと思ったのだよ。あたしたちはこの世界線を全力でいいものにしようと誓ったじゃない?」


いや、そんなふうに誓ったりはしていないが……まぁいいだろう細かいことは。


「その時に、私とショウタロくんとの共通点ってなんだろなと考えたのね。で、真っ先に思いついたのが、タイムリープの瞬間の日時とその瞬間に何をしていたか」




 

ドクッと心臓が跳ね上がるかのような感覚を覚えた。

思い出した……あの時の眼前に迫る光景と衝撃を。


「……あのとき、俺は……俺は、死んだんだ」


「やっぱり!あたしもそう」


え?!

驚いて思わずコップを手から落としそうになってしまった。


「ど、どういうことですか……?まさかユキノ先輩も誰かに落とされて……」


「落とされた?!……落下死ってこと?!……それはまたなんというか……でもどういうことだろう?」


なんだ?……ユキノ先輩は何が言いたいんだ?


「何ですかいきなり。一体なんの話ですか?」


「落ちている時かその前に、雷に打たれたような衝撃なかった?」


「雷に打たれたような衝撃……?」


はっ!そうだ!マンションから落ちて、地面に当たる直前、視界が昼間以上に真っ白く光ったと同時に、物凄い衝撃を受けたんだった。あれは地面に当たった衝撃だと思っていたけど、多分地面に当たる前だった気もする。


「た、確かにそうだったような……でもはっきりとは思い出せません……」


「やっぱりそうか……ああ、でもそうだよね、ごめん嫌なこと思い出させちゃって……」


少し俺たちの間に沈黙が流れる。それなのに心臓がドクドクと脈を打つ。痛いほどに。


そうだ、俺は誰かに足を持ち上げられて落とされた……

あれは意図的な殺意があったはずだ。

これまで犯人のことやタイムリープの始まりのこと、俺は記憶の中に無意識のうちにしまっていた。だって、今こうやって口にしただけで冷や汗が出ている……


そして、沈黙を破りユキノ先輩が口を開く。


「そうだよね……あたしが言いたいことはさ、憶測なんだけど、タイムリープのトリガーが雷だったのかなって思ったんだ」


タイムリープの原因が分かったとして、一体何になるんだろう?


「……まさか、ユキノ先輩、同じ要領で戻れるとか考えてる……?」


「んー、まぁそうだね」


なんだって……

なんてこと考えてんだこの人……


「いやさ!ショウタロくん未来に大切な人おいてきたみたいなこと言ってたじゃん?前にも聞いたかもしれないけど帰りたいのかと思って……」


「帰りたい……ですか……」


「うん、それに犯人のこと知りたいとか思ったりしない?」


犯人……なぜ俺は殺されなきゃならなかったのか……

仕事柄、罵声浴びせられたり、辛辣な態度を取られたことはたくさんあった。

でも、それが殺意につながるか?

じゃぁ犯人の突発的な行為なのか?それとも無差別的に?


現時点で分かっているのは、俺は恨みを買ったとか、そういった認識がまったないということだけ。


「犯人のことは、当然知りたいです。でも、今はそういったこと、あまり考えられないです……」


始まりの日のことを考えただけで、こんなにも心が恐怖に染まるだなんて……


「すべては憶測だよ。ショウタロくんが本気で帰りたいって思うんだったら、可能な限り手伝ってあげようかと思っただけ。なにができるかさっぱりだけどね」


俺は、戻りたいのか?あんな未来に?

依知佳に会いたいという気持ちは変わらないけど、俺は現世界線で前にはなかった多くの人たちと関わりすぎた……


「でも……ごめんね。そんなにショウタロくんがトラウマになっているなんて知らなかった……あたしは全力でこの世界線を楽しむ。そう決めたの。でも同じ境遇にいる人がタイムリープのことで悩んでたら嫌だもん」


……そうか、俺はそんなふうに見えたんだ。


「いつかは犯人のこと、しっかり考えなければならないと思います。そうしなければ、俺がこの世界にいる意味がなくなっちゃいますからね……」


「そうだよね、タイムリープ自体、人知を超えた奇跡だもん。あたしたちが考えたってどうこうできるもんじゃないかも。犯人のことは追々考えましょう。ただ、注意はしようね。どこでどう関わるか分からないんだから」


「……はい。ありがとうございます。なんか私事ばかりで申し訳ないです……」


俺は、全部いい方向に持っていくと決めたんだ。

それに、同じ境遇の人が協力してくれると言っている。

今は、一つ一つ、こなしていこう……

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