第43話 決意
――放課後
「んじゃねー。私、先帰る〜」
美羽が私と優里を横目にさっさと帰って行った。多分、佐伯くんがひとりで帰って行ったから追いかけていったんだろう。
私だってその状況を黙っていられるほどお人好しじゃない。
「……行くの?」
帰り支度を終えた優里が聞いてきた。
「うん、ごめんね」
「なんで謝るのよ」
よく見ると、優里の後ろの陰に隠れて、三島くんが話しかけたそうに私たちの話が終わるのを待っていた。
「ふふ。そうだね。じゃあね」
「ん」
優里、三島くんに気付いたみたい。少し頬を赤らめている。
本当は私も優里たちみたいになりたい。追いかけてどうなるかなんて分からないし何もできないのは分かりきっている。
でも、見過ごせない。
なぜなら、美羽も佐伯くんのことが好きなんだってちゃんと認識したら、どうしようもない焦りが生まれてしまったから。
これまで事があるごとに佐伯くんに助けられていて、私はその境遇に甘えていたのかもしれない。心のどこかで佐伯くんはそばにいてくれているって勝手に思って自惚れていたんだ。
しっかり現実を見ないと。きっと今の私には佐伯くんが必要なんだと思う。そうじゃなければとっくに私は病んでいた。
いた!
佐伯くんと美羽は下駄箱から出入り口に向かって歩いているところだった。
2人は肩を並べて歩いている。
美羽、楽しそう……それを見るだけですごく胸が締め付けられたように苦しい。
私は2人に気付かれないよう後をつけて行った。
なんか私すごいキモいな……
2人はジュースを買って、話しながら校舎の裏側の方へ歩いて行った。
……すごく嫌な感じがする。
「永瀬さん、この間も言ったけど、俺さバイトやバンドのことがあって最近忙しくて。その話って今日じゃないとダメかな」
2人は校舎の裏側の普段誰も来なさそうな場所に来ていた。これって……やっぱり。
私は2人の声が聞こえそうなところまで行って、2人からは見えない位置で見守ることにした。校舎にもたれかかって何かを話している。もう少し近づいてみようかな……
「ごめん、分かってるんだけど、どうしても早い方が良くて……すぐ終わるから」
「わ、分かったよ」
あ!美羽、佐伯くんの腕にしがみついて!佐伯くんも何顔を赤くしてんのよ!
「ありがとッ」
うう……なんの話だろう。あまり聞き取れなかったけど、やっぱり……告白……?
「あ、あのね。ウチら1年生の時、同じクラスだったじゃん?その時の翔太郎くんて、いつも自分の席に突っ伏してて、あんまり他の人と関わってないみたいだったけど、2年生になってすごい変わったなって思った。友達に囲まれてたりバンドでも活躍して。なんでかなーって思ってさ」
それは私も気になってはいた。といっても、1年生の頃の佐伯くんのことよく知らないから比べようもないんだけど。でもそれって今聞くことなのかな?
「ああ、そんなこと。結論から言っちゃうと、俺、記憶喪失っぽいんだよね」
「(え?!!)」
「部分的にだよ?春休みに頭に大怪我をして入院したんだ。今もたまに意識がトぶこともあってさ。親とか友達とか人の記憶はあるけど、それまでの出来事とかほとんど憶えてなくて。性格が変わったと思われたならそれが原因かもしれない」
いつだったか、佐伯くんの頭に比較的新しい大きな傷の痕を見たことがあった。大怪我ってあれのことだよね……
「そうだったんだ……まだ記憶戻らない?」
「うん、戻らない。…………別に戻らなくてもいいんだ。これから俺が思い描く結末を作っていけばいいんだから」
なんだろう。最後の言葉、独り言みたいに小さい声で言ってたみたいだけど、すごく寂しそう。
「そう、なんだね……そんなこと全然想像もしてなかったよ。大変な目にあったんだね……」
私も知らなかった。佐伯くんは私なんかより頭が良くてずっと大人でなんでもこなせる人だと思ってた。そんなハンデを持ってたなんて……
「つっても、寝ぼけて自宅階段から落ちただけなんだけどね。情けないったらありゃしない。そんなこと聞きたかったの?」
「ううん。それだけじゃなくて……えと、ウチ、2年生になってからずっと翔太郎くんのこと気になってたんだよね。始めは面白い人だなーって思ってただけで、接してみて分かったけど、他の男子と違って大人っぽくて気遣いとかもできてて……いつの間にか翔太郎くんのこと好きになってた……」
言った……美羽、言ったよ……
どうしよう……心臓が破裂しそう。
佐伯くん、どうするの?今どんな顔してる?
「…………うん、まぁ、なんとなくそうじゃないかと思ってたよ。でも、ありがとう。勇気を出して言ってくれて。こんな俺に好意を持ってくれて」
「ウチッ!翔太郎くんとつき合いたい!もっと翔太郎くんのことが知りたい!……ダメ、かな……?」
今さらだけど私なんで追いてきてしまったんだろう。逃げたい、この場から。でも足が言うこときいてくれない……!どうしようもなく身体が動かなければ息もできない。
「ごめん、それは無理だ」
「(!!)」
強い鼓動を感じた後、頭からつま先まで安堵という血流が巡っていく。ダメだ私、私……!
「やっぱり、翔太郎くんは瑞穂のことが好きなの……?」
え、え、えー?!どうして私のこと聞くのよ!
「うーん……正直よく分からない。でも俺にとって瑞穂は特別な存在。それは間違いないかな」
特別……私は佐伯くんにとって特別な存在……
どうしてそうなる?ダメだ……頭が働かない。
でも、今はっきり分かるのは私の心が嬉しさに支配されていっている……!
「……翔太郎くん、それを好きっていうんだよ?もしかして初恋なの?」
「いいや?俺、中学のとき彼女いたし」
「え?!……ええ!!今日一日驚いた……でも、そっか……やっぱり瑞穂か。ということは、つき合ってるんでしょ?」
「いいや、まだつき合ってないな」
「まだつき合ってない、か……ならウチにもチャンスあるってことだよね……?」
「ごめん……それはないよ」
「…………ウチ、簡単に諦めないから」
佐伯くんと美羽の会話はまだ続いていたけど、私はフラフラと無意識にその場を離れていた。
[まだ]って佐伯くんは言った……
まだってことは今後私とつき合うつもりがあるということ?
佐伯くんから私に告白してくる……?
どうしよう……ドキドキが止まらない……
いや……
待っているだけなんて嫌だ!
私の心は決まった。
必ず
そして、すべて終わったら、佐伯くんに気持ちを伝えるんだ……
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