第40話 一進一退
「はい、そこまで!解答用紙裏返して、席の後ろから回してくれ」
ふーっ。なんとか平均はいけたかな。
前回の世界線での俺にはまだ及ばないにしても、1学期よりかはマシだろう。
今日は、一旦帰宅してから柚子瑠の家に集合ということになっている。後から峰岸さんが見学に来るそうだ。
まったく柚子瑠のやつ、可愛い顔してやることはやってんな。ちゃんと峰岸さんとの関係を前進させてる。あいつ、ああいうところは男前なのな。
「翔太郎くんッ」
永瀬さんだ。
「な、なに?」
「一緒に帰ろ?」
「えーっと……」
チラリと瑞穂を見る。こっちには気付いていないようだ。
最近、永瀬さんが俺のことを名前で呼んでくるようになった。それにやけに馴れ馴れしい。当然、前回の世界線ではこんなことはなかったから困惑しかない。
「悪いけど、俺、雅也たちと一緒に帰るから……」
「ふーん、そうなんだぁ。じゃぁまた今度だね〜」
もう……なんなんだよ。まーた変な誤解されるじゃねぇか!まぁ、下の名前で呼ぶようになったのは永瀬さんだけじゃないけど。俺も雅也、ユズって文化祭を境に呼ぶようになったけどさ、1対1で帰るとか、周りから(特に瑞穂)どんなこと言われるか考えただけでも恐ろしい。
そして、下駄箱付近で瑞穂を見かけた。
なんだ結局永瀬さんは瑞穂たちと帰るのか。
すると俺に気付いた瑞穂はスッと俺に近づいて来て、
「明日よろしくね」
こっそりと囁いてきた。
瑞穂も楽しみにしているのかな。亘とあかねたちの学校の文化祭。ああいうところはやっぱり子供なんだなって思う。
*
翌日。
昨晩は急遽夜勤に入ることになり、朝の6時まで作業だった。まぁ、時給は良い方なので別に構わないんだが。
しかし若い身体はイイ。夜勤明けで眠いは眠いのけど、栄養ドリンクと気合いでなんとかなってしまう。
俺は帰宅後仮眠をとって少し早めに家を出た。
待ち合わせ場所は亘たちの学校の校門前に11時。すでに文化祭は始まっていて、賑やかな音楽や人のざわめきが校内から聞こえてくる。
瑞穂も時間前に来ると思っていたけど、なかなか来ないな……
そして――
結局、瑞穂は約束した時間には現れなかった。
*
今日何度目か分からないメールや着信が来ていないか確認するため携帯電話を開いた時、ちょうど亘からメールが届いた。今はあかねと合流して教室にいるらしい。
事情をメールで説明してもう少し校門で待つと返信した。
瑞穂のやつ、あんなに楽しみにしてたのに……まさか、事故が何かに巻き込まれたんじゃ……
可能性は0じゃない。少し気が引けたけど、瑞穂の携帯電話に電話をかけてみることにした。
トゥルルル……
コールはするが一向に出ない。これはいよいよ怪しくなってきたな。メールもしてみよう。
「くそ……LINEだったら既読付くから安否が分かるのに……!」
無意識に声が大きくなっていたのか、俺の独り言によって周りから痛い目で見られてしまっていた。
30分が過ぎた。
これはもう家まで行った方がいいだろう。事故に遭っていたなら道の途中で異変に気付くはず。
と、
ピコンッ
俺の携帯電話にメールが届いた。瑞穂からだ。
『ごめん、昨日の夜から体調が悪くなっちゃって寝てました。だから今日は行くことができません。連絡できなくて本当にごめんなさい…』
体調不良か……少しホッとした。
『そうだったんだ。事故とかじゃなくて安心したよ。こっちは気にせず、ゆっくり休んでくれ。お大事に。』
そうメールで返してもきっと瑞穂は気にしてしまうだろう。かく言う俺も、こんなにもがっかりするものなのかと自分自身に驚いている。
「そっかぁ〜瑞穂さん来れなくなっちゃったか。ま、しょうがないよ体調不良じゃ」
あかねも少し残念そうだ。
「でも翔太郎が来てくれたし、せっかくだからあかねが行きたいって言ったとこ行こうよ」
「うん!茶道部がカフェやってるんだよね。毎年話題になるんだよ。手作りのケーキがすごく美味しいって」
さすが私立。金かけてんな。そもそも学校内の装飾からしてうちの学校とはクオリティが違う。ていうか、カフェテラスってなんだよ。なんでたかが高校にお茶を楽しむスペースが?これが格差社会か……
「うわ……結構混んでる」
「さすが話題に上がるだけあるね」
カップルが多いかと思いきや、意外とここの生徒や子連れ、男子のグループもいる。
15分ほど待っただろうか、俺たちは四人掛けのテーブルに案内された。
瑞穂が来てたら俺の隣に座るんだろうな……そんなしょうもないことを考えている時だった。
「わ、ちょーカワイイ!
な、なんだって……?!
今なんて言った?!
俺は思わず立ち上がり、声の主に顔を向けてしまっていた。
見覚えのある顔ではない……
その声の主は隣の席に一人で座っていた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます