第31話 目撃

無事にお土産は買えた。

瑞穂も少し機嫌は治ってきたっぽい。

さっきも思ったが、最近の瑞穂の言動からすると、俺のことを嫌ってはいないようだ。もう少し踏み込んだことをしてもいいのかな?例えばお揃いのキーホルダーとか……

うッ……我ながら発想がキモいな……

こういうことは直接本人に聞いてしまえばいい。思い出になんか買ってあげるって言って、オソロにするかーとか?

うん、安定してキモい。嫌がられるかもしれないけど、どうせならこのままキモ道を突き進んでいくか。


「なぁ、瑞穂……あれ?」


近くにいたはずの瑞穂がいつの間にかいなくなっていた。その他の班のメンバーは思い思いに商品を手に取って冷やかしているが、瑞穂だけが見当たらない。

辺りを見回したら、店の入り口付近で店から出て行こうとする瑞穂の後ろ姿が少しだけ見えた。

隣の店にでも行くのかな?班行動なのに。

別に班のメンバーとは別行動で隣の店に行ってはいけないというルールはないが、俺はなんとなく瑞穂のあとを追って行った。


店の前の大通りに出る。

確かこっちに行ったな……瑞穂が行ったであろう方向を向くと、路地に曲がっていく後ろ姿が一瞬見えた。


「どこまで行くんだよあいつ……」


少し心配になってきたのでそのまま追うことにした。

路地を曲がったところに瑞穂はいた。正確には誰かといたのだが。

俺は思わず反射的に物陰に隠れてしまった。俺たちの他にこの裏の路地には誰もいない。


「……………………さ、………………………るよ」


男だな。瑞穂と一緒にいるのは。会話が少ししか聞き取れない。またナンパか?

チラッと物陰から様子を伺うと、瑞穂の後ろ姿の奥にうちの高校の制服を着た男子生徒が立っていた。


「あれは……山崎か……?」


山崎はバスケ部のキャプテンだ。まぁ、3年が引退したばかりだからなりたてなのだが。

背が高くて、それなりに女子に人気がある。俺はバスケ部を辞めてしまったからそれ以降は挨拶程度で山崎との接点はあまりないんだけど、女バスの瑞穂は部活で一緒だったりするから関わりもあるのだろう。

だとしてもだ、これがどんな状況なのかはさすがに分かる。

これはどう見ても告白する状況だ!







シーサーや海亀のかわいいキーホルダーがあって思わず手に取ってしまう。

佐伯くんはこういうの好きかな……これまでのお礼にしては少しショボいかもしれない。


「よぅ、吉沢」


「……あれ?山崎くんじゃん」


山崎くんは男子バスケ部の新しいキャプテンだ。女バスとの合同練習で取りまとめくれたり後輩の面倒見も良くて人気がある。中学からの同級生で、私がまともに話ができる数少ない男子の一人でもある。


「山崎くんたち4組も国際通りで買い物?」


「そうなんだよ。班のやつらもまだ買い物しててさ。それでさ、吉沢に見てほしいものがあるんだけど……ちょっといいかな」


「え、なぁに?」


「店の中じゃちょっと無理だから外行かない?」


うちの班もまだ買い物をしているみたい。佐伯くんも……まだ真剣な顔をしてお土産を見てる。少しならいいかな。


「うん、分かった」


私は山崎くんに促されて店外に出た。大通りを少し歩くと、人通りの少ない路地を曲がって山崎くんは立ち止まった。


「これなんだけどさ、ほらこれ、つけてみて」


そう言って山崎くんはカバンの中から袋を取り出し、さらにその中から何かを出して私に見せた。


「リストバンド……?」


「柄がいいなぁって思ってさ、練習の時にも使えるだろ?それ吉沢にやるよ」


「え、いいの?もらっちゃって」


「いいんだよ。俺も同じの買ったから」


そう言って山崎くんはカバンから私にくれたものと色違いのリストバンドを取り出して自分の腕につけた。


「え……これって」


「そうだな、オソロってやつだ」


そして、山崎くんは真顔になり私に向き直った。

私は山崎くんの醸し出すただならぬ雰囲気に息を呑んだ。


「もしかしたら気付いていたかもしれないけど、俺は吉沢のことが好きだ。中学の時からずっと」


え、え、え……知らない!そんなこと気付くわけないじゃん!中学の時からだなんて!そんなふうに山崎くんのこと思ったことなかったし……


「吉沢がよかったらなんだけど、俺とつきあってほしい……」


「え、わ、私は……」


「そりゃ混乱するよな。急にこんなこと言われたら」


ど、どうしよう……頭が働かない。今この場でなんて言えばいいのか、言葉が出てこない……

 

……………でも!

はっきりしていることはある。伝えなきゃ、ちゃんと。山崎くんのためにも!


「ごめん……山崎くんとはつきあえない……ごめん」

 

「そう、か……一応、理由を聞いてもいい?」


「私、好きな人、いるから……」


心拍数が上がっているのが分かる。きっと今、私、顔が真っ赤になってる。


「そうなんだな……分かった」


「だ、だから、これは受け取れない」


私は腕にはめられたリストバンドを外して山崎くんに戻した。


「だよなぁ〜はぁー……まぁ気持ちが伝えられてよかったよ。ありがとな吉沢。……じゃ俺行くわ」


「うん……」


そう言って山崎くんは大通りに戻っていった。

私は路地にひとりポツンと取り残された形になってしまった。

頭の中がグルグルとさまざまな感情が渦巻いている。

この感情、どう整理をつけたらいいの……! 

頭の中がぐちゃぐちゃなのに、それなのに。

どうしよう……今、すごく佐伯くんに会いたい……

会って……会ってどうするんだろう?

うぅ〜分からない!


「あ、こんな所にいた。勝手にうろつくなよ、瑞穂。探したんだぞ」


「佐伯くん……」

 

ああ…ああ……私、今、どんな顔してる……?

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