第25話 修学旅行

修学旅行初日。

慌ただしく始まったその日、いくつかの小さなトラブルがありながらもなんとか参加者全員が飛行機に乗り込むことができた。

はっきり言って飛行機は苦手だ。前回の人生では仕事や旅行で何度か乗ったことはあるけどどうしても慣れない。

俺はそんな気持ちを誤魔化すため、始めは文庫本を読んでいたが、せっかくなので隣の席になった魚住雅也と積極的に話をすることにした。

やはり前回の世界線の高校2年の時に仲が良かったやつと友達になれないのは物凄く寂しい。この修学旅行の目的の一つ、雅也たちと少しでも距離を縮めておくということ。楽しい思い出も雅也たちがいたから作れたんだし、今回同じ思い出が作れなかったとしても、雅也たちと別の新しい思い出は作りたいと思う。


「魚住ってさ、軽音部じゃん?俺、洋楽結構聞くけど、このバンド知ってる?」


そういって雅也に音楽プレーヤーの画面を見せる。これらのバンドは全部雅也から教えてもらったんだ。大人になってからも好きで聞いていた。


「ああ、スイートチルドレンにバラクーダマインド……ミッションオブゴッツも聞いてるのか……意外だな……」


なかなかいい反応だ。そりゃそうだろう。お前のおすすめだったんだから。

 

「うん、去年の文化祭だったかな?先輩たちが演奏してるの見て、すげーいいなって思って聞くようになったんだよね」


「それ、僕も見たかも!先輩のボーカルがミッションオブゴッツのマットにすごく似てて感動した!」


ああ?適当に言ったつもりだったんだけど、なんか合ってたみたいで盛り上がってきた。しかもそれが同じ班の三島柚子瑠ミシマユズルに飛び火して。でもまぁいいか、共通の趣味嗜好って類友だから。

前回の俺たちは卒業するまで4人でバンドを組んでいた。俺たち3人と、ドラムは1学年下のアキラっていう女子だ。アキラは習い事でドラムをやっていた経験者で、なかなかの歯に物を着せないものの言い方で、人を誤解させやすい性格だ。元々は柚子瑠の知り合いで必然的にメンバーになったとか。

俺も何度もアキラに叱られたっけな。でも今はまだそのことも知らないことになっているから興味があるよう振る舞って俺の記憶と擦り合わせていくことにした。

 

「そういえば、魚住と三島は2人とも軽音部だろ?お前らはバンド組んでるの?」


「ああ、組んでるよ。俺は一応何でもできるけど今はベース。三島はギターボーカル。ドラムは経験のある1年のアキラってヤツだけど、あいつ洋楽あんま聞かないんだよな」


「そうそう。だから洋楽ロックの中でも聞きやすい、スノーズ226ってバンドをおすすめしてるんだよね。日本でもアニメの主題歌になった曲があったりで有名だから。僕らのバンドでもやりたいんだけど……雅也くんが嫌がるんだ」


「スノーズ226知ってる。俺も最近よく聞くよ。メロディがキャッチーだよな。ハモリも最高だし。あ、ツインボーカルだからか」


「そうなんだよ!雅也くん頑なに歌おうとしなくて……」


そうだったっけ?雅也は上手かったからコーラスもしてたんだけどな……


「俺もそこそこギター弾けるよ。さっきのバンドだったら大体。テクニカルなソロとかは無理だけど」


「え?!ほんと?すごい!僕たちリードギター探してたんだよ。あ、でも佐伯くんはバスケ部だったよね……」


「2年になって辞めたよ」


「そうなの?!じゃぁさ、もし良かったら僕たちと一緒に……」


「ユズ。勝手に話を進めるな。アキラにだって確認してないだろ」


「え、でも……」


やはりだ。雅也の言葉にはトゲがある。俺に対して拒否的だ。なぜ俺を拒むのか分からない。だが、間違ったことは言ってないんだよな……


「魚住の言うとおりだよ。バンドはメンバーのシンパシーとか大事だから俺が異物だったら成り立たなくなる。俺はいつでも歓迎だけどドラムの子にも相談しなきゃだろ」


「分かったよ。ごめん佐伯くん……」


「いいよ。紅一点なら尚更だ。気にすんなよ」


「うん。帰ったらちゃんと話すね。ああ、スノーズ226やりたいなぁ〜めっちゃ楽しいんだよな〜」


チラリと雅也を見る柚子瑠。柚子瑠め、コイツはやはり変わらない。

柚子瑠は雅也と一緒に仲良くなったクラスメイトだ。音楽が好きで、雅也と同様にたくさんのバンドを教えてくれた。家がめっちゃ金持ちで防音設備がある地下室もあって、音楽室が使えない時のバンド練習はいつも柚子瑠の家でやっていたっけ。

金持ちなのにそれを鼻にかけず大人しく温和な性格だ。女の子みたいに可愛いって一部の女子からすごく人気があったんだよな。ライブの時も柚子瑠目当てで来る女子も多かったし。バンドのフロントマンとしてこの上ない人材だ。


そんな話で盛り上がっていたらいつの間にか空港に到着していた。俺たちは飛行機を降りると修学旅行一日目の行程である某有名水族館に向かった。幸い天気も良く、9月末だがやたら暑い。さすが南国だ。


「南国の空って感じー!ねッ佐伯っち!」


「え?あぁうん、そうね」


「なんか、話聞いてなかったでしょ佐伯っち?」


なんで俺に話を振るのだろう。しかも唐突に。峰岸さんも瑞穂もすぐ隣にいるじゃないか。

プールの時もそうだったけど、花火大会の時から永瀬さんがやたらと絡んでくるようになった。前回の高校2年の時はまったくなかったパターンだから戸惑う。瑞穂との関係もあるから邪険にもできないし、正直言ってあれこれ対応するのも面倒になってきたな……

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