第24話 班決め
二学期。
学期始めの小テストが行われる。高校生活の中で慣れないものの一つはテストだ。なんでまったくジャンルの違う科目を一日でこなさなきゃならないんだ。使っている脳も全然違うし覚えることも大人の倍以上だ。よく俺は乗り切ってたな。今思うと信じられない。
前回の世界線でのテストについて、どうやって勉強をしていたかなんてまるで覚えていない。
それに、1年の時なんかテストを受けなかったことすらある。
1年生の2学期の始め、友人を作れなかたこともあったから9月1日の登校日から一週間ほど不登校になってしまっていた。
不登校が一週間で済んだのはいろいろ理由はあるけど、やはり当時の担任、
1日目から毎日のように家庭訪問をしにうちに来ていた。
うちは両親共働きだから、放課後の時間帯は親がいないので先生がインターフォンを押しても俺は居留守を使っていた。
それでもめげずに毎日来る先生が少し不憫に思えてきて、結局、先に俺が折れてしまった。
あの時の先生の言葉を思い出した。
*
ガチャリ……
そっと玄関ドアの隙間から顔を覗かせると、蝉の鳴き声が一段とうるさく聞こえた。
視線を通りに向けると、そこには頭をかきながら困り顔の先生の横顔が見えた。背中のワイシャツは汗でべっとりと濡れている。
もう帰ってしまうのか……
せっかく顔を出してやったのに……
だが先生はふと、その場に立ち止まった。
何だ……?
公道の真ん中で急に立ち止まると不審な人物かと思われるぞ。
そして、先生はもう一度振り返りうちの玄関に向かって歩いて来るではないか。そこで俺と目が合った。
「佐伯……いたのか!」
一瞬、叱られるかと思った。
でも先生は違った。
「良かった……出て来てくれてありがとな……」
ありがとう……?なぜ感謝する……
その時はよく分からなかったけど、俺は先生の困ったような笑顔を見て、急に自分が恥ずかしくなったんだ。
学校で俺のことを気にかけているヤツなんていないと思っていた。俺が登校しなくったって、特に話題にさえ出ないようなモブだって分かってたから。
「上がって……いきますか……?」
なんとなく俺は気を遣ってしまった。完全に無意識に出た台詞だった。
「いや、いいよ。佐伯の顔が見られたからね。また来るよ」
そう言って先生は去って行った。
俺は先生が通りの角を曲がるまで、先生の背中から目を離すことができなかった。
学校に来いよ、とは一言も言わず、「また来るよ」と先生は言ったんだ。
その時、俺の中で縛り付けていた何かが破れる感覚をおぼえた。
――そして、俺は次の日から学校に行くことにしたんだ。
これが前世界線での俺。
どうしようもなくガキでイタ過ぎるやつだった。
*
小テストも終わり通常授業になった日のホームルームで例の案件が担任から通達された。
「修学旅行の班決めだが、一応、自分らの好みのメンツで3人組を作ってもいい。ただ、難しそうなら先生に言ってくれ」
と、担任教諭が言う。男女それぞれ三人組を作って計6人のグループを作るのだが、それってボッチの自己申告させてるみたいじゃねぇか。実際、前回の時の俺はそうさせられたのだが。修学旅行は沖縄だよ?南国でボッチってなかなかのハードモードだ。
「悪い、佐伯……俺が誰か見繕うよ」
「いや、いいって。それにあてがあるんだ」
「そ、そうか、なら大丈夫だな」
有馬くんが申し訳なさそうにしているのは、有馬、橋爪、伊東の三人組ができてしまい、俺が入れないことを悪く思っているらしい。俺は雅也の班に入る予定だからハブられたなんて全然思ってないんだけど。コイツら本当にいいやつらだったんだな。
そうやってボヤッと佇んでいたのだが、誰もなにも俺に声を掛ける人物は現れない。
あれ……?前回もこんなんだったっけ?余ったなぁと思ったらすぐ雅也が声を掛けてくれたような……
しかし、声は掛からない。雅也の方をチラリと見る。やはりまだ雅也は仲のいい
「なぁ、魚住。俺余ったから班に入れてくれない?」
よくよく考えてみたら物凄くかっこ悪いセリフだ。
「…………なんで?他にも空いてる班、あるじゃん……」
え……ど、どういうこと……
前回と全く違う展開。若干混乱してしまう。
修学旅行は沖縄だぞ?班行動中ずっとボッチか?そりゃキビしいだろ。
うーん、どうしようと悩んでいたら、
「ま、雅也くん!そんなこと言ったらダメだよ!いいよ佐伯くん、一緒の班になろうよ!」
ユズル〜背が低めで女子みたいな可愛らしい顔してるけど決断力ある〜
「あぁ、ありがとな三島。ということだ、よろしくな魚住」
「…………あぁ」
冷たッ!なにその反応……まぁいいや、旅行中に仲良くなれば。あとは女子3人と組むのだが、前回は誰だったかさえ覚えてない。瑞穂たちではないことは確かなんだが。今回は誰でもいいとはいかない。少し抵抗はあるけど瑞穂たちを誘うかな。
「なぁ、永瀬たちさぁー俺らと一緒の班になろうぜぇ〜」
「えぇーどうするユーリー」
「んー……」
あ!クソボケ橋爪!先越されたか!
よく見たら、他の男子の3人グループも瑞穂たちを狙ってるみたいだ。橋爪たちが断られるかもしれないと、わずかな希望を残して次の男グループが何班か待機しているぞ。
クッ仕方ない他をあたるしかないか……
そんなやり取りと橋爪たちがしているところで、峰岸さんがツカツカと雅也の所にやって来た。
「ねぇ、魚住。私らと一緒の班にならない?」
なに?!峰岸さんから?!よく分からないがこれは僥倖だ!
「え……マジで?どうしよ……」
雅也は少し迷っているようだ。なぜ迷う!
雅也はチラッと三島を見て……柚子瑠はブンブン首を縦に振った。
「じゃあよろしく」
「よかったー。プールのときもそうだったけど、魚住、頼りになるからね」
「んまぁ有馬くんいないのは少し残念だけど、楽しく安全に修学旅行を満喫したいもんね!」
「俺はボディガードじゃないからな?よくてカカシだ」
「ふふッ。カカシでもありがたいよ。そうならないように気をつけるけどね」
いい感じだな。一時はどうなるかと思ったけど、なんか修学旅行が楽しみになってきた。
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