第19話 夏祭り
若干早く起きてしまった。別に楽しみだったということじゃないのに……
特に予定もなかったから早めに家を出てモールをぶらぶらすることにした。今あるこの店舗は20年後ほとんど残っていない。懐かしさを感じながらしばらく過ごしたあと、待ち合わせ場所に向かう。
そして駅側の入り口に向かおうとした時だった。
「おお、佐伯っち。早いね」
「永瀬さん……峰岸さんも」
「こんなに早く来て〜そんなにウチに会いたかったのかな〜?」
ああ、そうだ。今日はこの2人も来るんだっけ。それにしてもなんだよ佐伯っちって。
「いや、別にそんなことはない」
ガキの戯言には冷静な返しが有効だ。
「ふーん……なんか、一瞬がっかりした顔しなかった?そんなに瑞穂ンと2人がよかったの?」
なんなんだコイツは。出会った早々イライラさせやがる。人と一日過ごす気があるのか?
「なんか変な組み合わせ。瑞穂はトイレ行ってるからちょっと待ってよ」
「分かった」
さすがは峰岸さん。3人の中でも一番大人。
それにしても美人と呼ばれている女子3人に男俺一人って……さすがに無理があるだろう。それに永瀬さん、スーツケースまで転がして来て、旅行でも行くのか?いろいろ違和感しかない。
「おう、いたいた!」
「おはよーヅメ〜。有馬くんと伊東も〜」
あ?!コイツらも呼んでたのか?なんだよ。知らなかったのは俺だけか。女子たちを見る視線に不純物が混じっている。特に橋爪。
「よう佐伯。お前さ、うちのクラスの美人3人独り占めしようとしてただろ?」
憎まれ口たたいても有馬くんは爽やかだな。
「させねーよ?!マジさせねーよ?!」
うるさいなぁ橋爪は。独り占めとかそんな面倒なことするわけないだろ。
「いや、そんなことないって。有馬くんたち来るって知らなかったから正直ホッとしてるよ」
本当に。コイツらの陰に隠れて過ごせばいいだろう。
「ごめん!お待たせッ」
小走りで瑞穂が現れた。前回世界線で付き合っていた時とはまた違ったコーデ。少し子供っぽい感じがする。
ぬ?バカ3人の目つきがまた変わった。
させねーよ?!マジさせねーよ?!
「ねぇゲーセン行こうよ〜プリクラ撮ろー」
「いいねぇ行こうぜ」
陽キャの溜まり場、プリクラコーナー。なんせ俺は高校生の時は一度もプリクラなど撮ったことない。この時代、プリクラコーナーは男子のみは禁制のところが多かったからな。
こうやって男女関わらず遊ぶのって、亘とあかね以外なかったと思う。俺も若干高揚しているのかもしれない。やったことないシューティングゲームに手を出してみたり、特に欲しくもないのにUFOキャッチャーの人形をムキになって取ろうとしたり。多分、今俺、楽しんでいる。
「佐伯くんはそのぬいぐるみのキャラクター好きなの?」
おや?いつの間にか瑞穂と2人きりに。
「うーん、好きかと言われたらそうでもないけど。ここまで移動させたらなんか取りたいじゃん?」
「ふふ。分かる。私、やってみてもいい?」
あ、思い出した……瑞穂、やたらUFOキャッチャー得意だったんだ……
ガゴンッ
「やた!」
ほらな。一発で取りやがった。
「すごいな吉沢」
「ううん、佐伯くんが取りやすい場所まで動かしてくれたからだよ。はい、これどうぞ」
そう言って瑞穂はアニメキャラの人形を俺に寄越した。
「いや、いいって。吉沢が取ったんだし」
「じゃぁ、これまでのお礼だと思って受け取ってよ」
そこまで言うなら仕方ないか。それにこれ以上のお礼などいらないからな。
「分かった。ありがとう、大切にする」
「…………うん」
……これは照れている顔だ。瑞穂ってこんなことで照れたりするんだ。
「ああ〜すごい!取れたの?」
いつも良いタイミングで来てくれる永瀬さん。
「うん、吉沢が取ってくれたんだ。吉沢って器用なんだな」
「マジ?!ウチも取ってほしいのあるんだけど」
そう言われて永瀬さんが狙っているUFOキャッチャーの前に来た。
「これ、デッカくね?」
見ると、両手で抱えなければ持てないほどの大きなポ◯モンのぬいぐるみだった。
「美羽……こ、これがいいの?」
瑞穂も若干引いている。
「うん!抱っこして寝たい!」
たかだかゲーセンのUFOキャッチャーのぬいぐるみなのに、瑞穂は真剣な眼差し挑んでいる。本当真面目な。
「一回じゃ取れないかもしれないけどいい?」
「おお!そんな先読みできるんか瑞穂ンは」
もはやプロだな。こういう仕事があればいいのに。
瑞穂は一回目でぬいぐるみの頭の位置をずらして、取りやすい向きに変えた。二回目……これ、マジでイケるんじゃないか?
「おお……掴んだ!いけ!そのまま……」
どッ
「おおー!やった!これいいんだよね?取れたんだよね?」
ぬいぐるみが大き過ぎて落とす穴に引っかかってしまった。
「俺、店員さん呼んでくるよ」
店員を連れてきて、無事大きなぬいぐるみをゲットできた。いいなぁこういうの。ぬいぐるみを得たことより価値がある気がする。
「よかったね永瀬さん」
「うん!瑞穂ンありがとッ!」
「ううん、たまたまだよ。喜んでもらって私もよかったよ」
女子高生だなぁ。こういうところだけは健全だと思う。
……そうだよな。亘たちも言ってた。瑞穂は今高校生なんだから。あの時の冷たい瑞穂じゃないもんな。きっと純粋な部分もまだ全然残っているんだ。
分かってる。俺はちゃんとそれを理解しなきゃいけないんだ。
しばらくキャイキャイ盛り上がる2人を見守っていると、峰岸さんを囲んで男子どもがやって来た。
「おお〜すげぇのゲットしたなぁ」
男子も混ざってみんなで瑞穂を讃える。うむ。そうであろう。皆で瑞穂を敬うがいい。胸ばっか見てないで。
その後、フードコートに行って遅めの昼を食べることにした。俺は断ったが、お礼だという瑞穂に押し切られる形で奢ってもらうことになった。そのあとしばらく橋爪と伊東がうるさかったが……
しばらくダラダラと過ごしていた時に、
「少し早いかもしれないけど、場所取りに行かないか?」
「あ〜混むもんね。離れた所でもいいから座りたいな」
うん?何の話をしている?もう帰るんじゃないのか?
「……佐伯っち。花火大会行くでしょ?他に何か用があるの?」
うッ……帰りたい気持ちを見透かされていた?!いや、確かに瑞穂からのメールでは花火大会のはの字もなかったから知らなかったけど……いくら陰キャの俺でもここで一人帰ると言ったら場が冷めてしまうってのは分かる。
「いや、何も。花火大会なんて何年ぶりだろうなと思って」
そうだ。花火大会は瑞穂と付き合っていた時に一度行ったきりで、依知佳が生まれてからは行ってない。
「そっか。んじゃウチらは着替えてくるから男子は適当に過ごしてて〜」
着替える……?ああ、浴衣か。そのためのスーツケース。こういう時の女子高生の行動力ってすごいよな。大人になったら面倒になって浴衣なんか着たりしないからな。
「おうー分かった。楽しみにしてるぜ〜」
調子いいな橋爪は。そのあと、俺たち男子組は特に目的もなくダラダラと店舗を冷かしながら過ごした。
ムダだと思うような時間かと思ったけど、おバカ3人が楽しくて高校生らしいかわいさみたいなものもあって、でもちゃんと友達思いで。まぁ、結論、すごくいいヤツらだということが分かった。
一時間くらい待っただろうか。待ち合わせ場所にて4人で待っていた。
「お待たせ〜どう〜?イケてるでしょお」
「「「おおッ!」」」
おおー。いいね。可愛らしい。3人とも美人だし福眼だなこりゃ。
「お、俺、今日来てよかった……」
泣いているヤツがいる……高校生だもんな。
「俺もだよ。ありがとな佐伯!」
「本当だよ!ありがとう!」
「お、おう」
なぜか感謝された……だが悪い気はしない。
少し薄暗くなってきた。
俺たち7人は、モールから少し離れた広場の一画を陣取った。
俺たちの街では毎年、このショッピングモールの隣にある湖のように大きな人工調整池で花火大会が行われている。確保した場所は花火が打ち上がる場所からも少し離れていることもあって人もそれほど多くないし、なかなかの穴場と言えた。
しっかり者の峰岸さんがレジャーシートを持ってきていたから、場所取りを完了してから俺たちは屋台に行くことになった。そして荷物番として公正な選別(ジャンケン)を行い、結果、無事に橋爪が残ることとなった。
「じゃあヅメ、荷物番よろ」
「クッソ!俺も浴衣女子と屋台回り行きたかったー!」
別に俺が残ってもよかったんだが、瑞穂にセクハラまがいなことされるのも嫌だったので代わらなかった。
不憫な橋爪を置いて俺たちは屋台回りに出た。
「人が多くなってきたね」
「はぐれないようにしなきゃ」
屋台で買い物なんて本当に覚えてないくらい昔だ。祭の屋台とかで買う焼きそばとかかき氷って、なぜだか家で食べるより美味く感じるんだよな。
陽も暮れ提灯や屋台の照明で照らされたこの光景に映る人混みの画。なんとも言えない乙な気持ちになる。
そんなノスタルチックな想いに馳せていたら、皆からはぐれてしまう俺。
あああ……こういう空気読めないところだよなぁ。
こんな人混みじゃ簡単にみんなを見つけられないぞ。
立ち止まり、キョロキョロと探していた時だった。
「ああ、やっと見つけた……」
俺の背中側から聞き覚えのある声がした。
「永瀬さん……?」
永瀬さんの表情、仕草
普通じゃない雰囲気を感じた……
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