第16話 邂逅
そんなこんなで期末テストが終わり、もう直ぐ夏休みという時期がやってきた。
今日はサッカー部のバカどもに絡まれることもなく、また永瀬さんに揶揄われることもなく帰れそうだ。
俺はひとり、駐輪場から自転車を押して校門から出た。が、
「あ、佐伯くん」
ぬぅ……瑞穂め……今日はひとりで帰宅したい気分だったのに。なんか待ち伏せされてたみたいで嫌だな……
「…………なに?」
俺は目を合わせず瑞穂の前を通り過ぎながら答えた。
「か、帰ろうとしてるところゴメンね……カラオケの時に話したお礼のことなんだけど――」
チッ覚えていたか……
「ああ……別にいいって言ったのに」
なんだ?このまま一緒に帰る流れか?
瑞穂は俺の後ろをついてくるように自転車を走らせた。このままでいいのだろうか。適度に距離を置こうと決めたばかりなのに。
でも……高校生の時、彼女とかと一緒に下校するのって結構憧れてたんだよな……
「――ていうことでいいかな?」
「え、ああ。分かったよ……」
話が半分も入ってなかったー!
「後で内容をメールで送ってくれる?俺、忘れっぽいからさ」
「うん、分かった……あれ、雨?」
「あ、本当だ」
なんて話しをしていたら、雨の雫がポツリと頬に落ちた。
ああツイてない!天気予報では傘はいらないって気象予報士が言ってたのに!
空を見上げると、真っ黒な雲が迫って来ていた。遠雷も聞こえる。
「これ、ヤバくない?ちょっと強くなってきた」
「ああ、飛ばすぞ」
ポツリポツリと降っていた雨が、次第に勢いを増してきた。
「ヤバッ!ゲリラ雷雨だ」
「きゃー!」
これはマズい。雨が滝のように叩きつけてきて、あっという間に2人ともずぶ濡れになってしまった。
「俺んち、あそこの角、曲がったところだから、とりあえず避難しよう!」
「う、うん!分かった!」
立ち漕ぎでスピードを上げる。なんとか自宅に辿り着き、自転車を適当に停めたら、俺と瑞穂は急いで家の中に入った。
「うわぁ、びしょびしょだぁ〜」
「ちょっと待ってて。タオル持ってくるから」
「うん」
俺はバスタオルを2枚脱衣所から取ってくると、玄関にいる瑞穂に手渡した。
「おい、大丈夫か瑞穂。カバンまでずぶ濡れじゃん」
「?!…………うん、な、中までは濡れてないから大丈夫……」
「ちょっと待ってろ。着替え持ってくるから。ちゃんと拭いておけよ」
「あ、あの……」
瑞穂が何か言いかけていたけど、後でいいかな。全身ずぶ濡れだった俺は自室に行ってワイシャツとズボンを脱いだら部屋着に着替えた。そして瑞穂に渡す着替えを持って下階に降りて行く。
「ほら、俺のジャージ。予備のやつだし洗ってあるから問題ないと思うよ。今誰もいないから脱衣室で着替えてこいよ」
瑞穂は戸惑っているようでなかなか玄関から上がらない。
「このままだと風邪引くから。上がれって」
「……う、うん……お邪魔します……」
あぁ、そうか、仕方ないか。誰もいないなんて言ったから警戒してるのかな。
「ハイ、濡れた衣類はこのビニール袋に入れとけば。それとドライヤーも勝手に使っていいから」
「ありがと……」
ふぅ……世話が焼ける。このまま風邪を引かれても俺が困るからな。気は進まないがちゃんとお構いしますか……
「……あ、あのぉ。着替えました」
瑞穂は少しサイズ感の大きい俺のジャージを着てリビングに現れた。
「ん。そこ座って」
キョドった様子でリビングに入って来た瑞穂は居心地悪そうに佇んでいたから、とりあえずソファに促した。
「はいコレ。スープ、熱いから気を付けて」
「え?!」
そんな驚くか?俺のもてなしがそんなに珍しいのだろうか。俺は元々ちゃんともてなすことができる人間なのに。
瑞穂はおずおずとリビングのソファに座るとスープの入ったカップを手に取った。
「美味しい……」
瑞穂の表情がふわっと解けた。
そうか、お前はそんな顔もできるんだよな。いつも俺の前では緊張した面持ちだから忘れかけてたよ。
「そりゃよかった」
「あのさ、佐伯くん、さっき……」
そう瑞穂が言いかけたところだった。
ガチャリッ
玄関のドアが開いた音がした。
「ひゃぁッ。冷たぁい。おぉい、翔太郎いるー?」
あかねだ。
「んー」
適当に返答すると、あかねは当たり前のように俺の家に入って来た。ギクシャクしていた時期もあったけど、おかげさまで俺にとってはいつもの光景になった。
逆にそれが裏目に出たのかもしれない。
しかも実家のリビングに瑞穂がいるという状態は、前回の世界線では幾度となく見てきた。だからこの見慣れた光景に俺は油断していたんだ。
「お母さんから頼まれてた物持って来た〜。お邪魔しまぁす…………?」
この時、瑞穂とあかねが初めて顔を合わせるということを。
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