第15話 約束
「それじゃいくぞー2年1組、体育祭学年優勝を祝してー」
「「「かんぱ〜い!!、」」」
ウェーイ、ウェーイ
おぅおぅ若者が生き生きしておるな。
体育祭の翌日。今日は土曜日だが学年優勝の祝賀会と称してクラスのみんなでカラオケに来ていた。カラオケなんか何年ぶりだろう。前回の俺は来てないから、呼ばれなかったか意図的に行かなかったんだろう。
正直、20年前に聞いていた音楽はあまり覚えてない。ああ、バンドで何曲かやったかなぁ。でもここではちょっと歌いたくないな。こういう時、陽キャでバカ橋爪は役に立つ。歌が下手でも選曲が何であろうと盛り上げてくれるからな。
少し場が温まった時に、
「はろー。遅れてすまーん」
「おぉ!永瀬さーん!」
「ど、どうも〜」
「吉沢さんも!」
「遅いよ〜」
「ごめん、優里。家出る時手間取っちゃった」
げッ。瑞穂のヤツなんで来るんだよ!
ケガしたから来ないと思ってたのに!やりづらくなったな……
あれ?松葉杖使ってないんだな……
前世界線で瑞穂は松葉杖をついて登校してたと思ったんだけどな。あの状態じゃこのカラオケには参加してなかったんじゃないかな。
「吉沢さんが来たぞッ」
「永瀬さんもだ」
「これで美少女3人が揃った……」
男どもが何やらソワソワし始めた。分かりやすいヤツらだ。まだ女子たちが瑞穂を囲ってくれている。そのままその輪から出すんじゃないぞ、女子たち。
「吉沢さん、ケガ大丈夫?」
「あ、うん。足つくと少し痛いけど全然歩けるよ」
「平均台から落ちて動けなくなってたからびっくりしたよ〜」
「へへ。心配かけてごめん。骨までいったかと思ったんだけど、意外と平気だったんだ。整形外科の看護師さんが、応急処置がしっかりしてたからだろうって」
おいおい、なんか嫌な予感がするぞ。瑞穂よ。俺を見るな。俺の方へ話を振るな!
「え、それって……佐伯くんのことだよね?おんぶもしてもらってたね」
俺のことを女子のキャイキャイトークに織り交ぜるんじゃない!
「大丈夫?佐伯くんに変なところ触られなかった?」
ほぉーら!やっぱりな、やっぱりな!そう言うと思ったよ!見くびらんでほしい!そんなことするわけないだろう!だが俺本人が目の前にいるのにそんなこと聞くかー?!
「全然!ケガの処置も手際よくて丁寧だったし、すごく紳士的だったよ」
「へぇ……意外」
「うん、意外だね」
「ちょっと信じられないね」
このクソメスどもがぁ!!!
「佐伯キュ〜ン。本当にやましい気持ちはなかったのかなぁぁ?」
ぐッ!永瀬さんまで!
「ないよ。ケガの状態わからなかったし急がなきゃって。俺だって必死だったんだ」
「へぇ!必死だったんだってぇ〜瑞穂ン!」
「…………う、うん」
おい、瑞穂!そこで照れてどうする!クッソッどいつもこいつも!これだからガキは嫌だ!
「……おい佐伯」
「うぉッ?!」
ビビった!今度は男子どもかよ……
「な、なに?橋爪クン……」
「お前は俺たちに報告する義務がある……」
「はぁ…………なにを?」
「お前のッ(バンッ)この背中にッ(バンッ)当たったッ(バンッ)2つの山脈について、ダッ!」
「痛い!痛い!痛いから!背中叩くな!何だってんだよ!」
橋爪の目が血走っている。完全にヤバいやつだ。
「とぼけてんじゃねぇぞ佐伯ぇ。お前、昨日吉沢さんをおんぶしただろうが!お前のこの背中に触れたものについて、何も感じなかったとは言わせねぇぞ!」
「背中だけじゃねぇ……お前のこの両手は、昨日何を抱えていた……あぁ?!!」
「伊東まで!何なんださっきからお前ら!」
「男子、サイッテー」
「クズだな……」
どう考えても俺に過失はないだろ!トバッチリだ!
「だから知らないって。さっきも言ったけど必死だったんだよ俺も。吉沢も恥ずかしがってるだろ」
バカかこいつら。一応俺の嫁なんだぞ。ひとの嫁の身体の感触なんて言うわけないだろうが。
「ちょっと、有馬くん、笑ってないで助けてよ!」
「あははは!自業自得だろッ!ひーッ」
ひーッ…じゃねンだよ!自業自得って悪行したヤツに言うセリフだろうが!
もういい。ここは強引にこの話題をぶった斬る。
「ま、まぁ、とりあえず!永瀬さんと吉沢が来たんだから仕切り直して乾杯しようぜ!なッ?」
「おお、そうしよう!」
「さんせー!」
……バカで助かった。飲み物を取りに行くフリをしてここから一旦離脱だ。
カラオケに来て一曲も歌ってないのになんでこんなに疲れるんだろう……
俺はドリンクバーのコーナーでひとり、ため息をついた。
「……佐伯くん」
げッ……瑞穂……
「そんなあからさまに嫌な顔しないでよ」
バレてる……
「してないし……ケガはもういいのか?」
「うん、応急処置が良かったからだって。佐伯くんのおかげだね」
「別に。誰だってああする」
「……うん、そう、だよね……あ、でもちゃんとお礼させてよ」
「えぇ……いいよ。気つかうなって」
目的は達成されたんだ。これ以上、現段階で瑞穂と関わるのは今後の出来事にどう影響するか分からない。しばらくは距離を置きたいのに……
「ダメッ!こういうのはちゃんとしたいの!そうだ。今度ランチか何か奢らせてよ……だ、たからさ、メアド……教えてくれる?」
うーむ……断りたいが、ここで断ったらそれはそれで心象は良くないよな……メアドくらいいいか。
「分かったよ……ホラ。本当気をつかうなよ」
「なーにやってんのーふたりでー」
お、ナイス、永瀬さん!
「あぁーメアド交換してるの?そういえばウチ佐伯くんと同じ保健委員なのに教えてもらってない〜。瑞穂ンにだけズルくない?」
「そうだった。悪い。永瀬さんのメアドも教えてくれ」
変な流れだが、まぁいざというとき永瀬さんが瑞穂との間の緩衝材になってくれたらいいな。
「で、2人でなんの話してたの?」
「あ、えっと、あの……」
瑞穂が言い淀んでいる。……なんか楽しそうだなぁ永瀬さん。あ、いっそ巻き込むか。
「あ、いや、今度ランチにでも行くかって話だよ」
「ええっ!ウチも行きたい!いつにする?!」
「わ、私、佐伯くんにお礼を兼ねてと思ってたんだけど……」
「いいじゃないか。人数が多い方が楽しい。あぁでも、期末終わってからでいいか?中間の結果が良くなくてこれ以上順位落としたくないんだ」
先延ばしにすれば、なあなあになって自然消滅するかもしれないし。所詮、高校生の約束事だ。
「オッケー!ユーリも誘うっと。いいよね瑞穂ン?」
「え…………うん」
何だか不満気だな瑞穂。もしかして俺と2人で行きたかったのか?
いや、だとしてもこれでいい。今更だが前回とは大きく人間関係を改変させてしまった。瑞穂との関係性はできればこれ以上あまり変えたくない。高校生の間はクラスメイトとして適度に距離を取って、前回同様大学の時に付き合う。俺の目的はあくまでも依知佳との再会なんだから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます