第14話 体育祭
体育祭当日。
学校のこういったイベントってあまり好きじゃない。たくさん人と関わるし余計な思考に振り回されてしまうから。
私は、美羽に誘われるがままに障害物競走に出場することになった。
「女子、第一走者前へ!」
しかも第一走者って……
「瑞穂ン!ガンバ!」
美羽は最後の方か。あれ?美羽って保健委員の仕事がある言ってたけど大丈夫なのかな?
保健委員といえば、最近佐伯くんとよく放課後残ってるみたいだけど、佐伯くんは美羽にに対しては普通の態度だって言ってた。どう考えても思い出してみても、私は嫌われるようなことしてないと思うんだけど……
「……ヨーイ……」
タンッ!!
わッ気持ちと身体が全然追いついてないー!
『先頭は青4組!少し遅れて黄色の2組です!さぁ先頭が最初の障害物の平均台に差し掛かりました!』
マズい!集中しなきゃ
…………あ。
『あーっと!赤の1組、平均台から転落!……大丈夫でしょうか……ちょっと立ち上がれないみたいですね……』
「救護、救護!」
「大丈夫?!吉沢さん!」
「……平気です……痛ッ」
「変なふうに足を着いたみたい。無理しないで保健室に行った方がいいよ。保健委員いない?」
「2年1組の保健委員は永瀬さんだよ。障害物競走の走者だから今並んでると思う」
もうッ!ツイてない!みんなに迷惑かけて。恥ずかしい……
「……俺がついていきます」
え、佐伯くん……?
「俺、保健委員だし、この後、保健室待機の当番で交代の時間なんで」
「じゃぁお願いしてもいい?吉沢さん、いいよね?」
「え、あ、わ、私……」
「歩けるか吉沢?」
よりによってなぜ佐伯くん?!
ここは無理してでも歩かなきゃ!
「だ、大丈夫、ほら、……あ痛!!」
「足がつけないっぽいな……仕方ない、俺が背負うから乗ってくれ」
「え?!い、いいよ!悪いよ!」
「そんなこと言ったってお前歩けないだろ?それともお姫様抱っこでもするか?」
「わ、わ、分かった!分かったから!」
「よし、しっかり掴まれよ」
う゛う゛〜恥ずかしいよぉぉ。
*
「ね、ね、あれ見て!」
「うわ、ヤダちょっとなにあれ!吉沢さん男子におんぶされてる?!」
「ねぇ、永瀬さん!あれって1組の男子だよね?!」
「……ああ、佐伯くんだね……」
「ええ〜!マジ〜!」
……そっか。保健委員だから付き添ってるんだよね。
図書室の一件から、なぜだか佐伯くんのこと、より気になるようになった。しかもあの後、何事もなかったかのように振る舞ってる……図書室での佐伯くんの様子、明らかに瑞穂ンのこと嫌ってる感じだった。なのにああやっておんぶまでして、あの時の態度と今の行動が伴っていない。
「次の走者!」
「ほら、永瀬さんの番だよ!」
「おら、永瀬!ボサっとすんな!準備しろ!」
「あ、は〜い」
……なんだろう。なんかモヤモヤする。
*
おんぶなんて、お父さんやお兄ちゃんとか、家族以外の男の人にしてもらったの初めてだ……
佐伯くんて優しいのか冷たいのかよく分からなくなってくる。
あ、すごいうなじキレイ……
よく見たら頭に大きなケガ?の痕。縫った痕も痛々しい。そんなに古くなさそう。
肩幅もあって意外とガッシリしてるんだな。やっぱり佐伯くんも男の子なんだなぁ……
って何ジロジロ見てんだ私ッ。
「着いた。降ろすぞ」
「うん」
「肘もケガしてるな……そこの水道で傷を洗い流してくれ。ひとりでできるか?」
「…………」
「?……何?俺の顔になんかついてる?」
「ご、ごめ……ひとりでできるよ!」
「そうか。俺は保健室からタオル取ってくるから」
ヤバ……無意識に凝視してた……?
キモい女だと思われたかな……
「ちゃんと洗えたか。保健室で足の処置するから俺の肩に掴まってくれる?」
「うん……」
私は佐伯くんに促されて、肩に掴まって片足でヒョコヒョコ歩きながら外の扉から保健室に入った。保健室はいい感じにエアコンが効いていて気持ちがいい。
「靴は履いたままでいいから、そこ座って」
言葉尻はキツいけど、やっぱりいつもと違って今日の佐伯くん、優しいな。
佐伯くんは、手際よく私の肘に絆創膏を貼ると、保健室の冷蔵庫から湿布を持ってきた。
「靴と靴下脱がすけどいいか?」
「え?!いや自分でやるからッ……痛ッ!」
「無理するな。俺がやる」
ううぅぅ……は、恥ずかしい……
「……あぁやっぱり足首がちょっと腫れてきたな。湿布貼る時ちょっと痛むかも」
「――ッい!」
「これは病院に行った方がいいな。固定して包帯巻いたら、保健の先生呼んでくるよ」
包帯巻くの上手だなぁ。すごく手際がいい。
他の女の子がケガをしても同じようにおんぶしたり、ケガの手当てをするのかな……
するよね。佐伯くんは。別に私じゃなくったって……
「…………あ、あの」
「ん?なに?」
「……ありがと……」
「いいってことよ」
なんだろう……
「んじゃ俺、先生呼んでくるから。待ってる間これ飲んどけ。水分補給大事だからな。いいか、ちゃんと大人しくしてろよ」
「わ、分かってるよ」
やっぱり佐伯くんは他の男の人とは違う――――
*
瑞穂に対する今日の俺はよくやったと思う。怒りをしっかり抑えることができた。でもやり過ぎた感は否めない。急激に態度を変えていくのは危険だと思うからしばらくはガッツリ瑞穂と関わるのは避けよう。
「おーい、佐伯ーリレーだって。出番だぞ」
「んー今行く」
そうだった。今日のもう一つの重要なミッションであり最後の難関、クラス対抗リレーが残っていた。リレーは男女4人ずつ混合8人で構成され、順番はチーム毎に決める。俺はアンカーの一人前の第7走者だ。
俺は組のカラーである赤色のハチマキをしっかりと頭に結びつけた。
『位置について――ヨーイ……』
ターン!!
『さぁ始まりました、2年生による最後の種目、クラス対抗リレー!早くも飛び出してきたのは、白の3組!その後を、緑5組、赤1組、青4組、黄色2組、桃6組、僅差で続きます!』
いい位置だな。リレーなんか何年ぶりだろう。前回はクラスで力を合わせてってスローガン、クソくらえだって思ってた。でも今俺は2回目の高校生を楽しんでいる自分に気付いた。
「第7走者、用意して!」
俺の前の走者は峰岸さんだ。一つ順位を落としたな……3位か。2位とも少し差もついてしまったようだ。
「ッ佐伯!」
バトンパスは上々!
「ナイスラン峰岸さん!」
「悪い、あと頼んだ!」
任せとけ、なんて言えない。俺だって転ぶかもしれないし順位を落とすかもしれない。
ああ、歓声が遠くに聞こえる――
『1位の白、速いです!あ、赤1組、2位の青4組を捉えました!』
クッ!この4組のヤツなかなか速いな……こりゃヘタこくより3位キープがいいか?
――その時
視界に永瀬さんに抱えられながら俺に向かって叫んでいる瑞穂を捉えた。
「佐伯くんッ!!行けー!!」
ぼんやりと聞こえていた声援の中、はっきり聞こえた。瑞穂の声が。
あいつ……大人しくしとけって言ったのに……
……しょうがないな……
『あー!赤の1組、4組を抜かしました!速いです!1位に追いつく勢いです!』
「ッ有馬くん!」
「よくやった佐伯!」
俺は1位と僅差の2位でアンカーの有馬くんにバトンを渡した。背中で「あとは任せておけ」って言っているみたいだ。有馬くんの主人公感がハンパない。
「行けー!!!」
俺は力いっぱい叫んだ。
ああ、いいなぁこういうの。一つになっている感じがする。前回の俺は何でこんな貴重な経験、自ら捨てるようなマネしたんだろう。苦しいしキツいけど、それがなぜだか今は心地良く感じる。
ワァッ!!
歓声がより一層大きくなった。
「……はは、さすが陽キャ」
『赤1組、逆転1位でゴール!!』
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