第13話 難題

俺が保健委員になった理由は、高校2年の体育祭の時、瑞穂が出場した競技で足をケガしてしまうんだが、保健委員の立場を大いに利用して恩を売りつつ俺のことをより認識させるという計画を遂行するためだ。

結構なケガだったみたいで、確か松葉杖を使って登校してたはずだ。


今、順調に体育祭で出場する役割を決めていて、瑞穂は障害物競走に出ることになった。

俺はこの時間帯の前後は何も出場しないことにして、逆にこの時間帯だけ保健委員の仕事の順番が回ってくるよう仕向けた。体育祭での保健委員の仕事は、保健室に待機してケガ人の手当てや、熱中症になってしまった人のお世話がメインとなる。

ここまでは順調だったのだが思惑通りにいかなかったこともある。


「じゃあ実績も兼ねて、リレー最後のメンバーは佐伯ということでいいな?」


「「賛成!」」


先日の体育の授業で真面目に50m走を走ったら、なかなかの好タイムを叩き出してしまったのだ。

だって仕方ないじゃないか。若い身体は軽い!それに走っても脚がもつれたりしない。だからつい調子に乗ってしまった。まぁ、計画に支障はなさそうだからいいんだが。







その日の放課後、俺は保健委員の仕事について甘く見ていたことを認識させられた。

保健委員が敬遠される理由の一つがこの、保健だよりの作成の仕事だ。毎月学年毎に発行される保健だよりの内容を委員がネタを探して記事にする。クラスに一つのコーナーが割り当てられるからネタが被らないように調整するのも大変なのだ。

そして、のっけから俺は壁にぶち当たっていた。


「……あのさ、永瀬さん。ちょっとは起きて一緒に考えてくれないかな……」


「んん〜眠くてーちょっと寝たら手伝うから〜」


そう言ってからかれこれ1時間近く経つんだが……

俺たち保健委員は、保健だよりを作成するために、放課後に残ってこの図書室で記事になるネタを探している。

そもそも、記事を書くこと自体、毎日嫌になるほどクレームの報告書を書いていた俺にとっては大した作業じゃない。それにもう何となく構成は決まっていて,この時期はだいたい5月病だとかがネタにされやすいからストレスの発散方法とかをネタにしようとそれらしい本を探しているんだけど……相方の永瀬さんがまぁ働かない。姫は机に突っ伏してスヤスヤお休みになられているのだ。


「相方にやる気出させる方が報告書書くよりよっぽど難題じゃねぇか……」


ついつい愚痴ってしまうのだ。







ダルいなぁ〜早く帰りたかったのに。でもまぁ佐伯くんは優秀だし、ウチがあれこれ口出さない方が効率がいいから早く終わるでしょう。

それにしても、佐伯くんはなんか変わった。始業式の日に瑞穂ンにも言ったけど、佐伯くんの変わり方はなんだか言葉では説明しづらい。同じ保健委員になってよく喋るようになったけど、時々先生と話をしているような錯覚に陥るんだよなぁ。大人っぽいと言えばそうなんだけど、それでは説明がつかない[儚さ]とか、[妖艶さ]がある。

性格の豹変といい、この雰囲気といい、この人なんか……

 

面白い!







なに?なんなの?起きたと思ったら俺のことジロジロと見てるんだけど、この子……


「永瀬さん……もうほとんど終わったから帰ろう……」


永瀬さん……あまり関わりたくないな……


「前から気になってたんだけどさぁ。何でウチには[さん]付けで、瑞穂ンは呼び捨てなの?」


「え……そう?気が付かなかったな……特に意味はないよ」


「えぇ?瑞穂ンが言ってたけど、佐伯くん他の人には普通にしてるのに、自分にだけ態度が冷たい気がするって言ってたんだよね〜」


な、なに?!それは本当か?!

マズい……それはマズいぞ。瑞穂の心象を悪くできない。でも瑞穂のこととなると怒りの感情をコントロールすることがすごく難しいんだ……!


「男子ってェ〜好きな女の子に対して意地悪しちゃうっていう心理あるじゃん?」


ぬ。俺、そういう話好きじゃない。


「いるよね〜反対の態度取っちゃうっていうやつ?」


……ヤメロ。


「それって、もしかしてぇ〜」


ダマレ……それ以上……


「佐伯くんって瑞穂ンのこと、す……」


ガタンッ!ガッ!


静かな図書室に椅子が倒れた衝撃音が響く。俺が勢いよく立ち上がったため、倒れてしまったのだ。

俺は、次に続く永瀬さんの言葉を聞きたくなかった。



 


…………し、しまった!

永瀬さんに当たってどうする!今の俺、鬼の形相だよな。永瀬さん固まってるじゃねぇか!笑顔だ。笑顔を見れるんだ……


「下校時間だし、帰ろうか(ニチャぁ)」


「え、あ……うん……」


本丸を攻める前に外堀を渡れなかったら詰むぞ。

……いや待てよ。逆に考えればこの子を味方につければ状況がより好転するのでは?


「来月は永瀬さんが記事書いてね?手伝うからさ」


俺はできるだけ自然な素振りで永瀬さんに言った。


「う、うん……分かった」


……ビビらせてしまったか?!

まぁ時間はある。一度地に着いた信用は取り戻すのは大変だが上がるしかないからな。じっくり慎重にいこう……

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