第12話 やさしさ

始業式の日のトラブルは無事回避できた。それどころか、前回じゃ目の敵にされていたサッカー部のヤツらと友達になってしまった。


そしてじんわりと掘り起こされてきた記憶のピースをより集めてつないだ結果、今日は高校2年の前半において重要な日だということを認識した。

それはクラスの委員決め。前回はどの委員になったか憶えてないけど、今回は無関心ではいられない。これから起こるあるイベントにおいて重要となる某ポジションにつく必要があるからだ。


「よーし、学級委員は、有馬と皆川でいいな。じゃぁここからは委員の2人で進行頼むぞ。いいかぁ、これが決まらないとお前ら全員帰れないからな〜」


ええ〜とクラスからため息が漏れる。ああ分かるよ。いつの時代も、どの立場であろうと係決めというものは仕事が増えるだけで何の実入もなかったりするから敬遠されるもんな。


「それじゃみんな、決めていくぞ。必ず何かしらの係にはなるんだから協力してくれよな」


爽やかだなぁ、有馬くんは。20年後は何してるんだろ。いや今は気を引き締めないと!


「……んじゃ次、保健委員。まずは立候補。誰かいない?」


そう、俺が狙っているのは保健委員だ。保健委員は結構面倒らしいからみんなあまりやりたがらない。でもすぐに手を挙げるのは得策じゃないと思っている。がっついているように見られないようにしたいからな。


「……誰もいない?誰でもいいんだけど……」


有馬くんが困り出した……ここだ!


「……誰もいないなら俺、やります」


「おおッ佐伯。いいのか?」


「いいよ。早く帰りたいし」


よし。仕方なく手を挙げました感が出せたかな。


「あと、女子なんだけど……誰かいない?」


「はいは〜い!佐伯くんがやるならウチもやる〜」


は?何だそりゃ。手を挙げたのは瑞穂の友達の永瀬美羽だった。


「あ、ああそうか、ありがとな永瀬。次、体育委員……」


「へへ〜よろしくね、佐伯きゅん⭐︎」


「うん、よろしく永瀬さん……」


怖ッなんなんだよこの子!

まぁいい。これで第一段階の下地準備はオッケーだ。あとは大人しくしておこう……







「ねぇ、美羽。本当よかったの?保健委員で」


「なに瑞穂ン。もしかして嫉妬してんの?」


「いや、そうじゃなくて、佐伯くんて結構雰囲気怖い人だったんでしょ?優里も言ってたじゃん」


「ええ〜でも2年になって雰囲気変わったよ?それにウチ去年も保健委員でさ、よく保健室でお昼寝させてもらってたんだよね〜」


「ああ、そういうこと……でも佐伯くんがやるならって言ってたから……」


「やっぱ嫉妬してんじゃ〜ん。まぁ、ちょっと興味があるっちゃぁはあるんだけどね〜有馬くんほどじゃないにしても、佐伯くんもどっちかっていうとイケメンの部類だし?それに、なーんか他の男子と比べて雰囲気が違うのよねぇ」


「ま、まぁ陰キャ特有のオーラ?みたいなのがあるのは分かるけど……」


「違う違う!そんなんじゃなくて、なんて言うのかなぁ説明しづらいけど、この世の者じゃないような……ふわふわしてて遠いんだよなー存在が」


「ふふふ、何それ。佐伯くんを化け物かなんかだと思ってるの?失礼だよ」


「まぁいいじゃない。同じクラスなんだしその内分かるかも〜」


化け物か……人のこと言えないかも……

ううん、私は高校卒業まで静かに過ごすって決めたんだから。

1組になれて本当に良かった。中学からの友達の美羽とも同じクラスになれたし、美羽の友達の優里とも仲良くなれた。この2人といると嫌なこと忘れさせてくれるから……


 


 



「瑞穂〜私たち移動教室の準備あるから先に行ってるねー」


「うん、分かった」


4月も後半になり、クラスメイトの顔と名前もそこそこ覚えてきた。相変わらず大半の男子から向けられる視線は気持ち悪いけど……誰かに絡まれる前に私も準備して行こ。


「おいマジか佐伯。休み時間に勉強なんて」


サッカー部の男子たちと佐伯くんだ。最近あの人たちなんか仲良いな。


「学年始めのテストがボロクソだったから。このままだと中間試験は赤点必至なんだよね」


「なーに言ってんだ。橋爪なんて万年赤点だぞ?」


「そうだ、俺は万年赤点だ!俺を敬え!」


「いや、偉そうにするなよ。いいから早よ行け。次移動教室だろ」


「はっはっ!お前も遅れるなよ〜」


美羽が佐伯くんのこと、[遠い人]って言ってたけど、よく分からないな。私には普通に見える。

あ、目が合っ……


「……あ?……何?」


つ、冷たッ!目が合っただけなのに!2人とも佐伯くん2年生になってから変わったって言ってたのに、やっぱり怖い人じゃん〜!


「あ、ごめ……」


ん゛ん゛……なんで謝ってるの私……てゆうか、佐伯くんて他の人には普通に接しているのに、私だけなんか冷たくない?!

……まさか……あのこと知って……


「何してんだ吉沢、ほら行くぞ。早くしろ」


「う、うん。分かった……」


……一緒に行ってくれるんだ。

口は悪いけど、悪い人ってわけじゃないのかな……


でも、翌日、そういった私の考えは甘かったと思い知らされた。




 

その日、総合学習の授業中にグループで話し合いを行う必要があった。たまたま私は佐伯くんと同じグループになったんだけど……


「……という感じでいいかな?皆川さんどう思う?」


「うん、特に私は異論はないよ」


「そうか、今田は?」


「ぼ、僕は吉沢さんがよ、良ければ……(フヒッ)」


「あ、わ、私は……」

「よし、じゃぁ決まりだな。あとはこの画用紙に意見をまとめて、皆川委員長が発表でいいな?」


「うんいいよ」


あれ……?今、私のこと無視したよね……?


始めは気のせいかなぁって思ってた。佐伯くんとはそこまで接点があるわけじゃないし、お互い積極的に話す方でもなかったから気にしなかったんだけど、こうやって班での話し合いの時とか、休み時間に何気なくみんなで話している時とかも、まるで私の存在が無いかのような振る舞いをする時がある。


「どいてくんない?」


「あ、ごめん……!」


またぼーっとしてた。佐伯くん、普通にどいてって言えないのかな?何であんな冷たい言い方しかできないんだろう。







ダメだ。どうしても瑞穂に優しくできない。面と向かうとイライラが増して感情的になってしまう。

いや、俺は大人だ。精神的に余裕のある大人なんだ。16、7歳のガキどもに振り回されたくない。


「ふぅ〜」


深呼吸して、依知佳のことを思い出そう。


……うぅ会いたい……今度は涙が出てくる……だいぶ落ち着いてはきたけどまだダメな時がある。とりあえず、次だ。次の大きなイベント、体育祭で瑞穂に俺を印象付ける。なるべく良い印象を。


それにしても、違和感……

俺が高校を卒業して瑞穂と再会するのが俺が浪人して入学した大学1年のとき。その時の瑞穂はけっこう明るい性格だったと思う。

でも今の瑞穂はそんな明るさはなく、どちらかというと大人しめで少し陰があるようにも見える。

俺は前回の世界線では高校のとき瑞穂と一切関わっていないので、その時の瑞穂の状況がどのようになっていたのかは知らない。それに瑞穂はあまり高校時代のことを話さなかった。

まぁいい。今は俺のやるべきことははっきりしている。たとえどんな瑞穂だろうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る