第11話 陽キャと陰キャ

高校2年の始業式の日のことを思い出した。

前世界線、この日俺はあかねに振られたという事実を引きずっていて、この世の全てが敵かのように振る舞っていたんだ。


――2年1組。

うちの学校は基本的に3年進学時にクラス替えはない。つまり、ここでの人間関係の構築は非常に重要となる。

でもこの時の前世界線での俺は学校に来ること自体が憂鬱だから非常に機嫌が悪かったんだと思う。


そうだ……あの時はなかなか教室の中に入れなかったんだ……


あの時の俺と今の俺が重なる。

蘇る記憶と共にノスタルジックで不思議な気分になってしまった。


と、


「佐伯……やぁ、おはよう!よく来たね!」


教室の入り口でボサッとしていた俺に声をかけてきた人物がいた。


マユズミ、先生……?」


俺に声をかけてきたのは、1年生の時の担任だった黛先生だった。

先生の声を聞いた瞬間、再び記憶が広がっていった。懐かしいなぁ。

この教師は女子バスケ部の顧問で、俺もバスケ部だったから何かと世話を焼きたがる感じだった。

それに不登校気味だった俺をいつも気にかけてくれていた。

確か、20代半ばの年齢で若いから女子生徒にも人気あったよな。しかもイケメンなのに、結構ドジっ子でいじられるところも皆から好かれていたんだ。

俺の数少ない大人の理解者だった。


「意外だな。僕の名前覚えていたんだ」


「1年生の時の担任教師の名前、忘れるわけないじゃないですか。ていうか普通に登校しただけですけど?」


「そうだよね。でも僕は嬉しいよ。君が学校に来てくれただけでね」


じゃ、と言って黛教師は去って行った。


まったく。

お人好しだな、あの人も。

未来ではどんな教師になってるんだろうな。先生のおかげでまたいろいろと蘇ってきたよ。


さぁ、ここからだ。

俺は意を決して教室に入る。

実は前の世界線の俺は2年の初日からやらかしてしまう。その後の学園生活に大きく関わることだ。思い出して本当に良かった。今度は失敗は許されない。


俺はよりにもよって陽キャの筆頭とも言える、サッカー部の有馬くんの椅子を蹴ってしまうのだ。

しかも「退け!」という暴言つきで……

以来、俺は卒業までサッカー部の皆さんから目の敵にされてしまうのだ。

今回はそんな失敗はしない!仲良くしてあわよくば陽キャの末席にでも加えてもらうんだ。いや、俺なんか陽キャになれないか。

そうやってブツブツ考えごとをしていたら、


ガッ!


椅子を蹴ってしまった。


あ、有馬くん?!それに取り巻きのおバカ橋爪と伊東まで!


「あ、ご、ゴメン有馬くん!よそ見してた!」


何やってんだー!!言ってる側から同ルート辿ってるじゃねぇーか!!


「……いや、いいよ別に」


……普通にいいヤツだ有馬くん。


「……2年間よろしく、有馬くん」


「ああ、こっちこそよろしくな」


……何とか同じ轍を踏まないで済んだようだ。でも同級生だし、あまり下手シタテに出る必要もないだろう。

俺は自席を確認してから座ることにした。


 



 


「なぁ有馬、今の誰?」

 

「さぁ、知らない」


「元4組の佐伯だよ。俺同じクラスだった。すっげ暗くていつもボッチのイメージだったけどな。なんか雰囲気全然違うんだけど。あんなヤツだったかな?」


「普通そうじゃん」


「それよりさ、今回のこのクラス超ラッキーじゃね?」


「ああ〜美女が集まってるってさっきサッカー部のやつらがうらやましがってた」


「俺は[永瀬 美羽ナガセ ミウ]ちゃんかな〜背が小さいけどあれはアイドル並の可愛さでしょ」


「いやいや、美人さで言えば[峰岸 優里ミネギシ ユウリ]さんだろ。去年芸能事務所にスカウトされたらしい」


「マジかぁ〜でもやっぱり、俺は――」


「ああ、俺も吉沢さんだな。美人のうえにグラビアアイドル並みのあのスタイルは反則だろ」


説明ありがとうよ。全部聞こえてるんだよ。やっぱ男子高校生って本当バカだな。そしてお前らが一番と言っている女はとんでもない悪女なのに……


「何にも知らないって幸せだよな……」


「んん?佐伯、なんか言った?」


ヤベッおバカ橋爪に聞こえてたか!


「あ、ああ、美女揃いで本当ラッキーだよなッ」


「だよな!お前も分かるか!なぁ佐伯、メアド交換しようぜ!」


「俺もいいか?」


「うん、是非に」


「佐伯、お前意外と話が分かるヤツだなッ!知らなかった」


ふぅ、さすが陽キャ。バカで助かった。

やはりコイツらとも適度な距離を保っていこう。同じ轍は踏まないぞ……



 


 


「よ、吉沢さんッ、こ、今年も同じクラスだね。2年間よろしくね(フヒッ)」


「う、うん。よろしく今田くん……」


「……瑞穂は本当モテるね」


「え、優里だってさっき声掛けられてたじゃん」


「ウチも声掛けられたよ〜3人もッ!」


「その内の2人は私と瑞穂でしょ」


「ユーリのイヂワル〜」


「はいはいよしよし。しかし、サッカー部の男子のヤツらバカばっかね。全部聞こえてるっつの」


「そんなこと言ってユーリだって嬉しんでしょお。ほらぁ。有馬くんだっているし……あれ?あの端っこの人もサッカー部だっけ?」


「何で有馬がいると嬉しいのよ。あの端っこの人は佐伯でしょ。1年の時、美羽も同じクラスだったじゃん。すっごく暗くて近づくなオーラ出してたよね?」


「ああそうだった。なんか闇の者って感じ?」


「闇の者って(笑)でもなんか印象違うよね。瑞穂、バスケ部でしょ?佐伯も男バスだから知ってるんじゃないの?」


「え……いやぁ、分からないな。春休みの時の合同練習の時もいなかったし辞めたんじゃ……」


「……あ、あの吉沢さ、ん……」


「ほら、また来たよ瑞穂ン」


「おれ、木村っていいます……2年間よろしくね(ウヒッ)」


「……よろしく……」


「すごいね瑞穂……」


はぁ……ちょっとウンザリ……

ほとんどの男子はみんなで私のことを見てくるし、中には教師だって……

いや、私には何も言う資格なんてない。無難に静かに学校生活が送れたらそれでいい。

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