第6話 友との再会

おお

亘……若いな

ちょっとした興奮を抑えながら俺たちはコンビニを出た。


「亘〜ありがとな。本当助かった。金渡すからさ、俺んち行こうぜ」


「……いや、いいんだ。奢るよ」


ん、なんだ?怒ってるのか?

亘の表情は硬く微妙な表情をしていた。


「そう?サンキューな。…………あれ、あかねもいるじゃん」


背の高い亘の後ろ側、隠れて分からなかったけど、これまた若いあかねがいるではないか。

そうか!高校生だもんな。恋人同士2人でいる所を見られて恥ずかしいのかな?

ニマニマが止まらない。いいなぁ。なんか初々しい。


「あのさ、翔太郎。ちょっと話があるんだけど、今からいいかな」


お悩み相談だろうか。2人はうまくいってないのか?いや、コイツらは高校生の時に付き合い始めて、そのまま一度も別れることなく結婚しているはずだ。うまくいっていないなんて聞いたことないけどな。まぁ、俺が知らないだけで何かあったのかも知れないけど。


「いいよ。お兄さんに何でも聞きなさい」


中身は36のおっさんなんだよ。お前らよりは大人なんだからな。


俺たち3人は近くにある公園に来た。

公園では小学生くらいの子供たちがバスケットボールに興じている。


ベンチに座ると、重苦しい空気感が漂っていた。

これは恥ずかしがっているわけじゃないな。なんなんだ。とりあえず2人が言葉を発するまで待ってあげることにした。


「……ケガ、大丈夫か?おばさんから聞いたよ」


沈黙を破って亘が問いかけてきた。


「ああ、まぁな。記憶以外はなんともないよ」


「そ、そうなの?!記憶が……僕たちのことは覚えている……みたいだね……」


「あぁ、嫌になるくらい覚えてるね」


ハハハと軽薄気味に笑った。なんとかこの空気感を壊したい……でも、さっきよりさらに空気が重くなった気がする……特にあかねが。


「あ、あのさ、話ってなんなの?」


耐えきれず俺から切り出してしまった。


「……そのことなんだけど……」


急に2人とも襟を正したように姿勢をシャンとしやがった。


「僕たち……付き合っているんだ……」


「……うん、そうだな」

 

そんなこと百も承知だが……?


「……ごめんなさい……翔太郎がケガで大変な思いをしてるのにこんな話……でも!私たちが付き合っていることどうしても翔太郎に伝えなきゃって、言わなきゃって!」


やっと口を開いたあかねは必死にそう言った。


「ああ、わざわざありがとう?」


適当な返答になってしまった。


「……僕は謝らないよ。本気、だから……」


よく、分からない……でも亘もあかねも真剣な眼差しだ。


「なんで謝る必要がある?それがお前らの意思だろ」


2人は岩のように固まってしまった。

なんでそんな辛そうな顔をするんだよお前ら……


「もう、帰らなきゃ……」


そう言ってあかねは走り出して行ってしまった。


「あ、あかね!じゃぁ翔太郎、またね」


「お、おう」


気まずいな……帰る方向同じなんだぞ。

俺は少し時間を置いてから帰ることにした。




 



俺は記憶の引き出しを再度開いてみる。どういうことだ?なぜこのタイミングでお付き合いの報告を?俺の自我がこの身体に定着する前に何かが起きたということなんだろうけど……

自席に座って[俺ノート]を開いた。何かヒントになることが書かれているかも知れない。


「まったく先が思いやられるなぁ。こんなエピソード知らないし。それにしても2人とも初々しかった。沙耶香ちゃんが大きくなったらコッソリ教えて……やろ、う……」


――――あれ?


サヤカちゃん……?


サヤカちゃんて誰だよ。


でも確かにノートにサヤカって……


俺は亘とあかねの名前が書かれた相関図ジェノグラムに目を落とした。

亘……あかね……その下に名前が書いてある……が。

モザイクがかかったように文字が……見えない!

目をこすってもう一度見てみる。

……見えない。


「なんだよこれ……」

 

なんだ……気持ち悪い……物凄く嫌な感じがする!

今度はPCやスマホの文字化けみたいに、ウネウネと文字が現れたり消えたりして、気持ちが悪い。

それとリンクしているかのように、俺の記憶も沙耶香ちゃんが現れたり消えたりしている。


考えろ……!何が起きている!


無い知恵を絞り俺は一つの結論、というか可能性に辿り着いた。

沙耶香ちゃんの記憶や文字が消えたり現れたりしたのは、沙耶香ちゃんが生まれない可能性が出てきたということ。つまり、存在しないのだから俺の頭から記憶だって消える。


「沙耶香ちゃんが存在しない……亘とあかねの関係が終わる……」


冗談じゃない!

あんなに元気で可愛くて友達思いの子が存在しなくなるだと?!そんなことあってはならない!

それに……沙耶香ちゃんが存在しなければ……


「依知佳はどうなる……?依知佳は沙耶香ちゃんのお陰でちゃんと学校に通えるようになったんだぞ……」


ウッ……グッ……頭痛だ。記憶が混濁している。沙耶香ちゃんが現れたり消えたり……沙耶香ちゃんの記憶は完全には消えていない。ならば、2人の関係が微妙になっているということだ。


俺はいても立ってもいられなかった。今すぐ行動を起こさなきゃ!


「……もしもし亘?遅くに悪い。今からさっきの公園に来れないか?あかねも一緒にだ」

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