4-31:宴
「非公式だ、遠慮なく飲み食いしてくれ!」
そう言ってガレント王スイフトその人はジョッキを一気に飲み干す。
「それじゃぁお言葉い甘えるニャ!」
「アルム様、どうぞ」
「うふふふふふ~、流石スイフトわかってるじゃない♪」
非公式という事と、エルさんが来たという事でささやかな宴というのを開いてもらっているのだけど……
なにこれ満漢全席!?
ガレント王国は豊かな大地のおかげで穀物の生産が世界一。
余剰の穀物を海外に輸出してもなお、毎年蔵が穀物であふれるほどらしい。
当然穀物の生産がそれだけ多ければほかの作物も豊富に作られ、栄養価の高い穀物を使って家畜もよく育てられる。
領土の東には海もあるから海産物だって手に入るし、この国は「鉄の船」と言う帆の無い船を所有していて海上貿易も盛んらしい。
生前の知識で分かるけど、たぶんスクリューを持った船だろう。
どうもこの世界は要所要所であちらの世界の技術やら何やらが流れ込んできている気がする。
記憶には薄いけど、どこかでピザやパスタを食べた気もする。
それにシーナ商会。
各支店をいくつか見たけど、どう見ても百貨店だった。
それもあちらの世界を模した感じの。
まぁ、考えてみればすぐわかるけど私のような転生者や召喚者がいてもおかしくはない。
何せあの駄女神だ。
あちらの世界もこちらの世界もあの駄女神には暇つぶしでしかないのだろうから。
「どうしたアルムエイド殿? 若いのだからじゃんじゃん食って飲むがいい」
「あ、どーも。ちゃんといただいてますけど、お酒はまだ勘弁してください」
「ん~? 貴殿は年はいくつだ? 儂が貴殿くらいの時は浴びるように酒を飲んだものだがな」
いや、未成年に酒すすめちゃダメでしょう―が。
この世界では子供に酒を飲ませても問題はないが、体が出来上がっていないうちに酒を飲ますのは何となくよくないって分かっているようで、普通は子供にはすすめない。
例外はあるだろうけど、普通はすすめない。
「こらこら、スイフト。アルム君は確か十一歳くらいなんだから無理矢理に飲ましちゃだめよ?」
「しかしエル姉、男たるもの酒の一つや二つ飲めんでどーする?」
「あんたを基準にするんじゃないって。アルム君こういう不良老人の言うこと聞かなくたっていいわよ?」
「え、えーとぉ……」
自ら酒瓶を自分のジョッキに注ぎ込んでるこのご老人、絡み酒か?
「しかし貴殿はうらやましい! こんな美人のお付きが二人もいるとは!! 儂にも一人回してくれんか?」
「あ、あのぉ……」
この老人、絡み酒のほかにもまだ枯れてなくて色ボケかぁ!?
どう見ても六十はゆうに超えていそうだけど。
「こらこら、スイフトあんたまた人の女に手を出そうとする! マリーもカルミナもアルム君の大切なお付きなんだから、変に口説くんじゃないわよ?」
「そうは言ってもなぁ、美人ではあるがエル姉と違いこれだけ豊満なものを持っている美人となれば放っておけんだろ?」
「おいこら、誰の何が豊満じゃないって!?」
ざわっ!
スイフト王が思い切り口を滑らせた瞬間周りの空気が変わった。
いや、私でもわかるほどの殺気がエルさんからあふれている。
「小さい頃は一緒にお風呂入ると散々人の胸触ってきたり吸いついてきたりしてのは誰だぁ? 私の何が豊満じゃないってぇ?」
「あ、いや、エル姉のはその、ほらあれだ美乳ていうやつだ! そう、美乳!! デカければいいってもんじゃないんだよ、うん」
「ほほぉおおぉぉ、遺言はそれでいいのかしら?」
「ちょ、エ、エル姉ここは城の中だぞ? やめろ、ちょ、ちょぉおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
ぶおんっ!!
バキッ!
思い切りフォローを入れようとするスイフト王。
しかしそれフォローになってないって。
怒り心頭なエルさんは風の精霊をまとってスイフト王に怒りの鉄拳をお見舞いする。
そのアッパーブローは見事にスイフト王の顎を捕らえ、上空へときりもみをさせながらぶっ飛ばす。
「だーれがまな板どころかえぐれた盆地胸よ!!」
いや、誰もそこまでひどいこと言ってないと思うんだけど……
でもまぁ、エルさんの胸は小学生じゃないかってくらい薄い。
生前の私でも余裕で勝てるほどに。
ちょっと自尊心が保たれた感じだけど、反面同情もする。
「確かに、ガレント王家は変態が多いと聞きますが本当でしたね」
「何それ?」
ジト目で自分の胸を手で隠しながら吹き飛ばされたガレント王を見ているマリー。
あー、確かに胸の大きな女性からすればそこだけ評価されているようで気分が悪いんだよねぇ~。
「いつつつつつ、エル姉俺一応国王なんだけど……」
「うるさい! 今度私の胸の事言ったらアノ事ばらすわよ!!」
「なっ! それはやめろってエル姉、これでも一応国王やってんだからよ!!」
「ふんっ!」
「あー分かった、俺が悪かったから機嫌なおしてくれエル姉」
なんと言うか、目の前に十五、六歳くらいの少女に土下座しそうな勢いの六十過ぎた爺様がいる。
実際にはエルさんの方が年上なんだろうけど、ガレント王としての威厳も何もないよなぁ、これじゃ。
まぁ、自業自得なんだけど……
「それで、エル姉はいつまでここにいられる?」
「ん? 二、三日で出ていくわよ。ボヘーミャへは馬車使ってもひと月近くかかるでしょ?」
「そうか…… エル姉、南に向かうなら一応気を付けてくれ。まだ情報が定かではないが南方の砦でうちの『鋼鉄の鎧騎士』が何者かによって倒されたという情報がある。うちの『鋼鉄の鎧騎士』が手も足も出せずに倒されるとはな。しかも相手は普通の人間くらいの大きさだったらしい」
エルさんに拝み倒していたスイフト王はそう言いながらエルさんが差し出した杯にミード酒を注ぎ込みそう言う。
「『鋼鉄の鎧騎士』が? それいつの話??」
「ついぞ二日くらい前の話らしい。他の国の『鋼鉄の鎧騎士』とぶつかり合ったならまだしも、単体とは言えうちの『鋼鉄の鎧騎士』を人が倒せるとは思えないんでな。用心に越したことはない、エル姉も言っていたジュメルの可能性ならばな」
エルさんの杯にミード酒を注ぎ終わったスイフト王はそう言って自分のジョッキに別の酒度注ぐ。
「ま、杞憂であればいいんだがな」
「……そう、ね」
言いながらエルさんとスイフト王はお互いの杯をこつんとぶつけるのだった。
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