4-30:姉貴分
「スイフト、来たわよ!」
エルさんはそう言って無作法に扉を開けて中に入ってゆく。
いや、仮にも一国の王に対していいのかこれぇ!?
ものすごく心配になるけど、衛兵は逆に笑いをこらえている。
いったい……
「エル姉! いくらなんでもいきなり入ってくるんじゃねーよ! 衛兵、お前らも少しはエル姉に注意しろ!!」
中を見ると大きな机に座った白髭白髪の人がいた。
見た感じは威厳のある雰囲気だが、エルさんに対してはかなり砕けた感じだった。
「まったく、年ばっか取って変わらないんだから~。昔はエル姉、エル姉ってくっついてきてかわいかったのにぃ~」
「何十年前の話だ! それより今の状況少しは分かったのか?」
ニコニコしながらからかうエルさんにその老人は面白くもなさそうに腕組みをして椅子に座りなおす。
「ぜ~んぜん。だからボヘーミャに向かうわ。うちの仕入れた情報じゃ裏で何かが動いていそうよ。こういう時はママからも聞いたけど学園都市ボヘーミャの学園長を頼る方が良いらしいからね」
「……シェル様はどうした? それにあのお方は??」
「二人とも変な宗教にはまって家を出たわ。そっちも問題だけど、私の正義の味方の血が騒ぐのよ! この件はきっと大きな裏があるわ!!」
ふんすと鼻息荒くそう言い張るエルさんに呆れた顔のガレント王と思しきその老人は私たちに気が付く。
「時に、こいつらは誰だ?」
「ああ、イザンカ王国の第三王子、アルムエイド君よ♪」
エルさんがそう言った瞬間その老人は椅子を立ち上がる。
「第三王子だと!? 行方不明で大騒ぎになっている、イザンカの第三王子か!?」
「そうよ♪」
それを聞いた老人は一変厳格な表情になって私に向き直る。
「貴殿がイザンカ王国第三王子、アルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカで間違いないか?」
「あ、えっとそうらしいんですが……すみません記憶をなくしているので多分そうです」
私が素直にそう言うと、その老人は思わずエルさんを見る。
するとエルさんはいたずらが成功したかのように笑っている。
「驚いたでしょ? アルム君には危ないところを助けてもらったのよ」
「エル姉、何があった?」
「その辺も含めていろいろ話がしたいのよ。だからアルム君にもついてきてもらったの」
エルさんはそう言うとぱちんと片目をウィンクするのだった。
* * *
「非公式ですまないが、改めてガレント王スイフト=ルド・シーナ・ガレントだ。エル姉がいるとどうも調子が狂うが、非公式の場だ。堅苦しいのは無しで行こう」
スイフト王はそう言うと執務室のソファーにドカリと座る。
そして給仕にお茶を出させ手から下がらせる。
「えっと、改めましてアルムエイドです……」
私も一応双あいさつすると、スイフト王は頷いてから話し始める。
「貴殿がイザンカからいなくなった話は各国に伝わっている。ドドスとの戦争で異界の悪魔の王と共に化け物に飲み込まれ消えたともっぱらの噂だ。それがなぜこんなところに?」
「あ~、えっと、その、たぶん(駄)女神様の仕業かと……」
言われても私だってその辺の記憶があいまいだ。
でもあの駄女神になんかされたのは確実だろう。
自分の事やイザンカ王国にいた時の記憶がすっぽりと抜けている。
ただ、大宮珠寿だったこととそのあとにこちらに転生するときにあの駄女神に出会ったのは覚えている。
ちょっと不明瞭なところもあるけど、少なくとも男性同士のイケナイ恋愛が間近で見られると言う特典付きだったはず。
「そうか……あのお方がな。しかしならば何故シェル様は一緒じゃないんだ?」
「さぁね、それがどの女神様かが問題な感じよ。何せこの世界には現役の女神様が少なくとも四人はいるわ。冥界の女神、天秤の女神、破壊と創造の女神、そして赤き炎の女神がね」
エルさんはそう言うとため息を吐く。
それを聞いたスイフト王も椅子に座りなおし大きくため息を吐く。
「女神様のお考えは我ら凡人では理解できないからな。しかしエル姉もその内情を知らないというわけではないのだろう?」
「残念がら今回は全く分からないわ。ママもお母さんもいなくなってしまったからね。うちでもいろいろ調べていたけど、もしかしたらあのジュメルが暗躍しているかもしれないわ」
「ジュメルだと!? それは本当かエル姉!?」
スイフト王はエルさんからジュメルと言う言葉を聞いて思わず腰を浮かす。
それほどまでにその秘密結社ジュメルは影響があるのだろうか?
「確定ではないわ。だから余計にボヘーミャに行って学園長に助言をもらおうと思っているの。それで、スイフトに一つお願いがあるんだけど」
「なんだエル姉?」
「隣国と提携を組んで戦争を起こさせないようにしてほしいの。イザンカやドドスの事だってもしかしたら裏でジュメルが動いていた可能性があるわ。だって異界の悪魔の王なんて代物が出てくるのは百年前の魔王復活以来の事よ?」
エルさんがそう言うとスイフト王はうなりながら首を縦に振る。
「わかった、シーナ商会とも密に対応をしていこう。確かに今は情報封鎖と重要人物の往来ができない。これは今までのバランスが崩れる要因だ。ガレントも総力を挙げて協力しよう」
「うん、ありがとうスイフト。ガレント王国が旗振りをしてくれれば隣国は協力してくれるでしょう。あとは他の大陸だけど……」
エルさんはそう言って窓の外を見る。
「いち早くボヘーミャへ行って英雄ユカ・コバヤシに相談してみるわ」
どうやらその英雄ユカ・コバヤシと言う人が要になりそうだったのだ。
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