4-29:ガレント王
ガレント王国首都ガルザイルのシーナ商会についた私たちは、ユーベルト支店より立派な建物に圧倒されながら店に入る。
「これって……」
ユーベルトもそうだったけど、どう見ても生前の私が知っている百貨店だった。
地下もあるらしく、そこには主に食料品が売られているそうだ。
ただ、ゲートが使えなくなってしまったので物流も何も大混乱を起こしているらしい。
「シーナ商会の売りであった戦争と人身売買、違法なモノ以外は何でもそろうと言う謳い文句が今は出来ない。それどころか通常物資でさえもまっとうに動かない状態よ」
エルさんはそう言ってため息を吐く。
それと、同時に風のメッセンジャーが使えなくなった混乱も大きく、現在シーナ商会や女神信教、各ギルドが協力し合って連絡手段を構築中だった。
「アルム君たちはここでゆっくりしていてね、私は王城に行ってスイフト王と会ってくるわ」
「え? 王様に??」
「スイフトとは幼馴染なのよ。小さい頃は私の方がお姉さんだからよくついてきたもんよ。あの頃はかわいかったけど、今は立派な髭おやじよ?」
そう言ってエルさんは楽しそうに笑う。
長寿族なのでエルさんはまだ十五、六歳くらいにしか見えない。
しかし人族はどんどん年を取っていってしまう。
「ガレント王ですか…… ドドスに対して量産型の『鋼鉄の鎧騎士』を売り渡すとは」
マリーはそう言ってぎりっと歯をかみしめる。
いったい何があったと言うのだろうか?
「まぁ、戦争は色々あるニャ。ガレント王国だって王様一人で全部動かしてるわけじゃないニャ」
なんかカルミナさんが真っ当なこと言ってる!?
ちょっと意外な感じでカルミナさんを見ると、それに気づいたカルミナさんは面白くなさそうにふんっと鼻を鳴らす。
「あたしもいくつかの戦場に立ったことはあるニャ。そこでは自国の武器がこちらの兵士に向けられることだってあるニャ。仲間が自国の武器で倒れてもそれは戦争だから仕方ない事ニャ」
そういうカルミナさんはちょっと悲しそうな、それでいて少しいら立っているようだった。
「ま、そういう事で私は城へ行ってくるけど…… ちょっと待って。アルム君も一緒に来なさい! ガレント王と会っておくのは今後のイザンカにとってもいい事よ!」
「はいぃぃ??」
エルさんはそう言ってすぐに馬車の準備をさせるのだった。
* * *
「あの、僕が行ってもイザンカにいた頃の事全然覚えてないんですが…… と言うか、いきなり言って王様になんか会えるんですか?」
「大丈夫、大丈夫。私に任せておきなさい!」
馬車に揺られながら一同お城に向かっている。
シーナ商会の隠密部隊が先行で城には通達に向かっているとの事だけど、本当に大丈夫なの??
一抹の不安を感じながら私たちはガレント城に到着した。
「うわぁ、近くで見ると確かにすごく高い!」
「塀の高さが約十五メートル、その上にお城が建っているから少なくともてっぺまで五十メートルくらいあるんじゃないかしら?」
馬車はすんなり中庭に通され、お城の入り口で止まる。
入口から城を見上げるとてっぺんが見えないほど高い。
「エル様、よくぞおいでになられました。陛下はいつもの部屋でお待ちしております」
「ありがとう、それじゃぁアルム君行こうか」
「いいんですかこんなに簡単で……」
少なくとも私の知っている範疇では一国の王にそうそう簡単には会う事は出来ない。
王様ってああ見えて結構忙しいのだ。
一般人には玉座に暇そうに座っているように見えるが、時間時間で仕事に追われているのが事実。
しかしそんな私の心配をよそにエルさんはずかずかと城の中に入ってゆく。
近衛兵たちもエルさんを見ると何も言わずに敬礼をして通す。
まるでエルさんがこの城の主人ように。
*
「ぜぇぜぇ、ま、まだつかないんですか?」
「もうちょっとよ、がんばれアルム君」
なぜ私が息を切らせているかと言うと、永遠と上るような階段を上がっているからだ。
なんなのよこれぇっ!?
どっかの神社じゃあるまいし、永遠と上へ上へと上らされている。
エルさんやマリーたちはぜんぜん平気のようだけど、まだ少年のこの体ではきついって!
「ほら頑張れ、もう少しよ」
「ほ、本当でしょうね!?」
息を切らしながらそう言う私の前に衛兵が守る扉が見えてきた。
エルさんはニコリと笑いながら言う。
「お疲れ様、着いたわよ」
そう言って衛兵がいるのに勝手に扉を開けるのだった。
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