4-28:ガルザイル


 ガレント王国首都ガルザイル。



 この世界にある四代大陸の中で一番大きな大陸であるウェージム大陸。

 その中でも国土も何も最大の国がガレント王国だ。

 世界の穀物庫と呼ばれるほど作物の出来が多く、世界中にその穀物を輸出している。


 人の世界を作ったと言われる魔法王ガーベルが最後に作った王国で、初代国王を務めていたという国でもある。

 そして今のガレント王国は魔法ガーベルの血を引く王家であると共に魔法王国時代からの責務を果たすために「落ちてきた都市」の監視もしている。


 どういうことかと言うと、古代魔法王国時代にガレント王国の城は空に浮かぶ島の上にあった。

 しかし魔力暴走により一夜にして魔法王国時代は終焉を迎え、その結果空に浮いていた王城も今のガレント王国の首都ガルザイルに落ちてきた。


 そしてその城から魔法生物や強力なゴーレムが出てくるので、街のど真ん中に塀を作りその「落ちてきた都市」を取り囲み、その塀の上に監視のために城を立てたという。


 ユーベルトの街とかも王家の血筋にゆかりがあり、ガレント王国には七つの衛星都市がある。

 すべての領主が王家の血筋であり、万が一にも王都でその「落ちてきた都市」で何かあってガルザイルが壊滅する羽目になっても、その血筋を絶やさないようにしているとか。

 そして、王都がマヒした時にはそれら衛星都市が代役を担い国を治めることになっているらしい。


 それらを聞いていると歴史的に古いけど盤石なシステムにはなっているようだ。



「で、うちのお母さんもその魔法王ガーベルの子孫らしいのよね~。だから私も今のガレント王とは遠い親戚であり幼馴染なのよね~」


「いや、エルさんの幼馴染とか年齢は置いといてお母さんって女性ですよね? エルさんはその、『女神の伴侶』って言われるエルフの女性から生まれたんですよね? そうするとガレント王国とか魔法王ガーベルは関係ないんじゃ?」



 エルさんのお父さんが誰かは分からないけど、女性どうしで子供は出来ない。

 だとすると、血縁関係はないんじゃないのだろうか?



「え? 生まれたのはママからだけどお母さんの血もちゃんと継いでるわよ?」


「いや、だって女性どうしで子供は出来ないじゃないですか」


「できるわよ?」



「へっ!?」



 今私はとんでもない事を聞いたような気がした。

 いやだって、おしべとめしべがあってそれで受粉すると実がなって……


 ぎぎぎぃっと首をマリーに向けると、マリーはしばし考えこんだような顔になってうなずく。



「できますね、女神信教の極意は同性同士で子供を授かる術があるとありましたから」



「はいっ!?」



 い、いやあるのそう言うの!?


「まぁ、基本的には女性どうしだけなんだけどね。あ、そういえばお母さんがまれに男性どうしで子供をもうけたってのがあったらしいけど、体の中では育成できないから特殊な方法で子供作ったって言ってたっけ」



 な、何ですってぇ!?

 お、男どうしではぁはぁして子供作れるデスってぇっ!?




「エ、エルさん! そこのとこもう少し詳しく、プリーズ!!」




「え、えっと確か……」


 私はエルさんのことなんかすっかり忘れて男性同士でどうやって子供を作るかについて詳しく聞き込むのだった。



 * * * * *



「見えてきたわね、ガルザイルの街よ」



 エルさんはそう言って馬車の外を見る。

 そこには大きな街並みが見えてきた。 


 私はエルさんの、とぉ~っても参考になる男性どうしで子供を作る方法について堪能させてもらったのでお肌てかてかになっている。


 いやぁ、まさかそんな方法だとは。

 確かに体内育成は難しいけど、そういう方法があるとはねぇ~。


 でも、男性でも女神信教の信者になれば授乳がある一定期間出来るとは!!

 パパ二人で子育てイクメン♡


 思わずそんなことを思っていると顔が緩んできてしまう。



「なんかアルム気持ち悪いニャ……」


「エル殿から変な話を聞いてからずっとこうですからね…… はっ!? アルム様もしや母乳にご興味が!? くっ、残念ながらこのマリー、胸の大きさにはそれなりに自信はありますが母乳までは…… あと数年でアルム様が男性になれば可能です、もちろんアルム様のお子をこの私が身ごもることで!!」


 にやにやしていたらカルミナさんがドン引きしてた。

 そしてマリーが顔を赤くして私にそんなことを言って詰め寄る。


「だぁああああぁぁぁ! しません、そんなこと!!」


「ですがアルム様は母乳にご興味がおありなのでは!?」


「そうだけどそうじゃなーいぃいいぃっ!」


 思わずそう叫んでしまう私。

 今日もいつもと変わらない。



「はいはい、じゃれていないでガルザイルに着いたわよ。検問はシーナ商会のエルで顔パスだからいいとして、とりあえずガルザイルのシーナ商会に向かうわよ」



 馬車の中で騒いでいる私たちにエルさんはそう言うのだった。




 * * *



「ユーベルトの街もすごかったけど、ガルザイルの街はもっとすごい!!」



 街に入ってまず驚いたのが、街の中央当たりの向こうに大きな壁があってその上にお城らしきものが高々と建っていることだった。

 あれが有名な「落ちてきた都市」を囲む壁で、それを監視するお城。

 多分街のどこからでも見えるだろうそのお城は本当に壁の上に立っていた。


 そして街なのだけど、石畳はもちろん路上に線路らしきものがあってそこを路線電車のようなものが行きかっていた。

 大通りは整然としていてガラスウィンドーの展示がされているお店もいっぱいある。

 街行く人はみんなこぎれいな格好をしていて、乞食らしき者は一切見当たらない。


  

「流石はガレント王国の首都ですね。冒険者らしき人も相当な腕前なのでしょう」



 隣に座っていたマリーは外の様子を見ながらそう言う。



「確かにすごい気配のも何人もいるニャ」


「くーっくっくっくっくっ、ここは昔から凄腕も集まる場所ですからね、全くやっかいなところです」



 カルミナさんもアビスもそう言って窓の外を見る。

 と、馬車が大きな建物の前で止まった。



「さぁ、着いたわよここがシーナ商会のガルザイル支店よ!」




 エルさんに言われて外を見ると、ユーベルトよりさらに立派な建物が建っているのだった。



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