4-17:鍛錬
「うわぁああぁあぁぁぁっ!!」
がきーんっ!
がっ!!
バリバリバリ、バシュッ!!
ただいま私は中庭でマリーとカルミナさん、そしてアビス相手に鍛錬をしている。
エルさんたちは相変わらず忙しく、まだまだ支店長たちが集まりきっていない。
なので数日経ったけどやることのない私たちは、私の鍛錬に付き合ってもらっている。
とはいえ、寸止めとかギリギリで外してもらっているのになんなのこの人たちの攻撃!?
シーナ商会の戦闘メイド他魔術師部隊、忍者みたいな黒装束の部隊の鍛錬もすさまじかったけど、こっちもそれに劣らない。
「流石アルム様です! 危ないと思われたら【絶対防壁】が何重にもかかっています。しかも身体強化である『操魔剣』を意識せずに使われている。流石です!」
「くぅ~、当てないようにしているとはいえあたしの攻撃が全く通用してないニャ!」
「くーっくっくっくっくっ、流石は我が主。私の電撃を土魔法の避雷針をとっさに作り上げ誘導するとは、流石ですぞ!!」
いや、別にそんなことしてる自覚はないんだけど。
言い出した手前、やっぱやめるとは言えずに必死に逃げ回ったりしてるだけなんですけど!!
「はぁはぁはぁ、で、でも自分じゃ魔法を使っているつもりは全くないんだけどな」
「ふーん、記憶が無い割には面白いことやっているわね?」
息を整えながら体勢を立て直しているとエルさんがやってきた。
エルさんは面白そうに私を見ている。
「記憶がなくても体が覚えているって感じね。アルム君が意識していないのに魔力が練られて魔法が発動してるわ」
よくよく見ればエルさんの瞳がまた金色にうっすらと光っていた。
あれって一体?
「ちょ、ちょっと休憩。エルさん前から気になっていたんだけど、エルさんの瞳の色って……」
「ああ、これ? 『同調』っていう技なんだけど、魂と肉体が完全に同調すると、人の魂が見えたり、魔力の流れやマナの動きが見れるのよ。それに合わせて例えばこんな風にマナの流れを変えると……」
エルさんはそう言って転がっていた石を拾い上げぐっと握るとそれが一凛のバラになる。
「えッ!?」
「この世界はすべての物質にマナが宿っている。マナによって構築された物体はマナの配列を変えればなんにでも変えられる、魂を持って意思による抵抗がなければね。この『同調』はその見えているマナの流れを変えることによってこうして物質を変えたり、魔法に準じることもできるのよ」
ぼっ!
エルさんはそう言いながらもう一度そのバラを握りしめると今度はそれが火の玉になって手の上に浮いていた。
「【火球】ファイアーボールを構成したわ。私は精霊魔法は使えるけど、魔術師が使う魔法は使えない。でもこうしてマナをいじることでそれに準じた同じような効果のことはできるの。これって魔力を一切使わずに、周りの魔力を使ってマナ構成を変えるから、周りに魔力さえあれば無限に何でもできるのよ」
そう言ってもう一度手のひらに火球を握りしめると元の小石に変わった。
「す、すごい!!」
「んふふふふ~そうでしょ、そうでしょう? これ習得するのに先生のところで十五年も修業したんだから。まったく最初は何させられるのかひやひやモノだったけどね~。まぁ、シャルおばさんもいたから口下手な先生よりいろいろ教えてもらったのは助かったけどね」
「先生って?」
「ああ、うーん、アルム君ならいいか。本当は秘密なんだけどティナの国の近くに『ジルの村』って言う所があって、そこって化け物の巣窟なのよ。ほとんどの人が輪廻転生で何度もその村に生まれ変わった勇者や英雄、偉人たちなんだけど、そこがまぁ前世の記憶とかよみがえるとそれはそれはもう生前の事が出来るようになるからとんでもない状態になるのよ。その実力はここにる子たちを圧倒するわ。まぁ、全員が勇者クラスと言えばいいのかしら?」
ちょっとマテぇえええぇぇぇぃいいいぃぃっ!!
全員が勇者クラスって、何それッ!?
どの程度の規模か知らないけど、勇者が何十人、何百人もいるような村?
「そういえば聞いたことがあるニャ。獣人族の一部がその昔隠れ里に移住して獣神クラスになったとかいう話をニャ」
「確か黒龍様もその話を以前にされていたような……」
「くーっくっくっくっくっ、そういえばその昔こちらの世界の魔王に呼びだされたらすぐに赤髪の女戦士に滅されましたな。あそこが有名な『ジルの村』でしたか」
みんなもそれぞれ何かを思い出しながら言う。
いやそこって隠れ里みたいで秘密の場所なんじゃ……
「ま、アルム君の場合魂がとても特殊でうちのお母さんみたいにどこかに繋がっていて、ものすごい力がそこから流れているように見えるのよね。そしてその力が魔力としてあふれ出していて意図せずに女神様たちのようにその奇跡を起こしている。魔法ってもともとは女神様の御業を人にも使えるように教えられたのが始まりって話だしね」
「それって確か天秤の女神アガシタ様が魔法王ガーベルに魔法を教えたって言う伝説の」
「そうそう、それよそれ。だから君みたいに魔力の扱いに長けていると無詠唱で魔法が使えるのよ。女神様たちは本来それすら意識せずにできていたから、今の君ってそれに近いんじゃない?」
いやそれって、神様の領域に私がいるってこと!?
思ったことが魔法となって具現化しているってこと!?
「流石アルム様です!!」
「アルム、それ反則ニャ!!」
「くーっくっくっくっくっ、我が主はこの世界で神にも等しい。至極当然ですな」
外野がうるさい。
しかし、もしそれが本当なら……
「それって、極めたら人は神様になっちゃうんじゃ……」
「気づいた? まぁその領域にたどり着く人はまずいないだろうけど。でもね、人族はどうやって生まれたか知ってる?」
エルさんはなぞかけをしながら人差し指を立てる。
確か伝説では、人族は女神戦争の前に竜族や巨人族を制するために女神様のしもべとして生み出されて……
「あっ!」
「気が付いた? 人族は女神様に作られたけど、その素材が『始祖なる巨人』の死したる大地の土から作り上げたのよ。つまり、おおもとの素材は女神様たちと同じってこと」
そう、私たち人族は女神様に作られた。
しかしその素材は女神様たちの父なる「始祖なる巨人」が倒れた大地の土から。
それは元をたどすと女神様たちと人族は同じ素体からできていることになる。
「もっとも、魂の器が違い過ぎるから人は神にはなれない。それが出来たのは後にも先にも一人だけ。それが今の女神様よ」
「今の女神様……『破壊と創造を司る女神』様」
知識では知っていた。
そしてそれは今の一般的にはすでに忘れられた伝説。
「ま、君もその素質はあるんじゃないかしら? 君の魂は本当にすごいと思うよ。底が見えない。ほんと、うちのお母さんそっくりね」
「エルさんのお母さんて一体何者なんですか?」
「うーん、それは秘密。あまり話しちゃいけないことになってるからね」
そう言ってエルさんはにっこりと笑う。
「ま、君の実力は分かったわ。支店長たちが集まるまで私も時間が出来たから一緒に鍛錬に参加させてもらおうかな? ビシバシ鍛えてあげるわよ?」
「え”っ?」
エルさんはそう言ってさっそく体の周りに風をまとわりつかせる。
「精霊魔法に対しても経験をしておくことは悪くはないわ、それじゃ行くわよ!」
「いやちょ、ちょっと待ってっ! うわっ、うわぁああぁあぁぁぁっ!!!!」
中庭に私の悲鳴がこだまするのであった。
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