4-16:館での日々
さて、もう少し情報を集めてから私たちはエルさんと一緒に魔法学園ボヘーミャに行く事となった。
「うーん、かなり混乱してるのね……」
エルさんはそう言ってどんどん入ってくる情報をもとにアルフェさんと整理をしている。
そしてベーダさんに指示をして伝書鳩や鏡、のろしの通信を駆使して各国のシーナ商会支店との連絡網を構築している。
正直はたから見ていると驚かされる。
今の時代にこういった情報伝達方法をすぐに再構築できるってことは、今まで風のメッセンジャー以外でもこういった古い伝達方法を使っていたという事だ。
さらに驚かされるのはすでに近隣の主要都市への連続の転移魔法による要人の転移ルートが出来上がり始めているという事だった。
これはベーダさんがところどころに構えていた拠点に贅沢にも魔晶石を潤沢に使って魔力不足を補いつつ、短距離転移を繰り返し要人を運ぶというものだった。
現在各支店の支店長をここベイベイの本店に呼ぶためにルート構築を進めているという。
全支店長が集まり次第、方針を固め指示をしてからエルさんはボヘーミャに向かうという事らしい。
「うーん、アルフェが育てた子たちも優秀だけど、さすがに一度に転移できるのは術者含めて二人までか」
「すみません、短距離転移とは言えその魔力消費は激しく、魔晶石を使ってやっとなもので……」
エルさんが予定表を見ながら全支店長集結までのタイムスケジュールを睨んでいる。
とはいえ、各国の支店長を呼び戻すのに遠ければ遠いほど時間も何もかかる。
今のスケジュールだと、どんなに早くてもひと月くらいかかってしまいそうだ。
「とはいえ、今はそれしか手がないものね。魔晶石は惜しみなく使っていいわ、緊急事態だからね。イザンカ産の魔晶石も全部使っても構わないわ」
「わかりました。すぐに手配をします」
そう言ってアルフェさんはすっと姿を消す。
いやいやいや!
だから一体何者なの彼女たちッ!?
「さてと、そう言うわけで申し訳ないけどこっちの事が終わるまでボヘーミャに出発できないの。だから君たちはこの屋敷で自由にしていてね。何かあれば遠慮なくデルザに言っていいから」
「はぁ、ありがとうございます」
エルさんは私たちに向かってそう言うとまた忙しくいろいろと指示を出し始めるのだった。
* * *
「自由にしていいと言われてもねぇ……」
私は中庭の鍛錬の様子を見ながらため息をつく。
正直やることがない。
「アルム様、お暇があればアルム様が失われた記憶についてお話しをしましょうか?」
「僕のこと? ……そうだね、今まで自分のことについてちゃんと考えたことがなかったね。僕が忘れたという僕について教えてよ」
「はい、喜んで。もちろん私との約束もきっちりとお話しますので♡」
なぜか最後の方がほほを赤らませて嬉しそうに言うマリーさん。
過去の私、一体全体彼女に何したんだ!?
しかし今のところ他にやることもないのでマリーの話を聞くことにするのだった。
* * *
「うーん、それ本当なの?」
「はい、間違いなくこれがアルム様です。そして私を身請けしていただいた大切な方です♡」
「マリーがジマの国の王族の忘れ形見で、竜の血がが濃く出ていて実は現在二十七歳ってのも驚いたけど。いや、見た目で二十歳くらいかとは思っていたよ? それでもうジマの国に戻る気はさらさらなくて僕がマリーを身請けしたってのは分かるけど、なんで僕の初めてとか言うのがマリーが相手なの!?」
「アルム様が立派な男性になるためには必要なことです! 私は妾で十分ですので、アルム様の初めては是非に私がお相手いたしますので!!」
鼻息荒いんですけど、マリーさん!!
いや、それってどうなのよ?
ほんと過去の私、一体何やらかした?
それにレッドゲイルのいとこや、異母姉弟の姉まで私の婚約者になっているって何っ!?
私が覚えているのはあの駄女神と異世界に転生して禁断の男性同士のはぁはぁ♡ がみられる環境がどうたらこうたらとか言う話だったはず。
なのに何故そんなハーレム状態?
しかも私はもうじき十一歳になるけど、そんなちっちゃな頃からたくさんの女たらしこんでいるの!?
思わず頭を抱えてうずくまってしまう私。
まずい、もしこの話が本当なら何も知らないままイザンカ王国とやらに戻ったらとんでもないことになりそうだ。
「ひゃ、百歩譲ってそれが本当だとして、僕って魔法もすごくて魔力量もすごいって本当なの?」
「はい、アルム様がおかげでイザンカ王国だけでなくジマの国や周辺の町も助かっていました。そして最大の問題であったドドス共和国との戦いも……」
マリーはそう言って最後に少し悔しそうにこぶしを握った。
「私の力不足でアルム様をこんな場所にまで転移させてしまうとは……」
「いや、話を聞く限りそれって誰にも対応できないんじゃ……」
私は最後に異界の悪魔の王と対決していたらしい。
ドドスも無謀とも思える戦争を仕掛けてきたのも実際にはその異界の悪魔の王にそそのかされていた節があるので、最後はどうなったかは分からないけどあまりいい状態ではないだろう。
イザンカ王国はマリーの話だと戦争には勝っただろうとの事。
しかし私がいなくなったことはイザンカ王国にとっても大問題で、現在はその事が原因で大騒ぎになっているだろうとの事。
一応、エルさんがベーダさんに言ってイザンカ王国には私の無事を伝えてくれることにはなっているらしいが、さすがに時間がかかるだろうとの事。
伝書鳩もまだまだそのルート構築が完全ではない。
他の連絡手段もそうで、シーナ商会としては自分のところの現状把握と情報収集が最優先となっている。
この辺は仕方ない事なので、とりあえずはお願いしておくしかない。
「しかし、イザンカ王国って大変な状態になっていそうだね」
「はい、ですのでせめてアルム様の無事だけでも伝えられれば……」
マリーはそう言ってしゅんとする。
別にマリーが悪いわけではないのに。
「アルムぅ~、これで大体のことは分かったかニャ?」
「くーっくっくっくっ、主様と私の良き思い出もしっかりと語ってただけましたね」
召喚者二人はお気楽な事を言っている。
とは言え、この二人は国に対しての忠義があるわけでも何でもない。
私と契約をして今ここいるわけだ。
「カルミナさんもアビスも、もう少しまじめに考えてよ。どうしたら僕のことが伝わるかを」
「そうは言っても今はどうしよもないニャ。あたしとしても早くアマディアス様の元に帰りたいニャ。そしてイータルモアに次いでアマディアス様の子供を産むニャ!」
「我が主には申し訳ございませんが、私はこの世界では主様の元を離れることができませぬ故。しもべを向こうに出現させるにも流石に距離がありすぎますので」
まぁ、期待はしていなかったけどね。
半ばあきらめた感じでもう一度窓の外を見る。
「そう言えば、僕ってものすごい魔力を持っているんだよね? そして前の時もそうだけど危ないとか思ったら勝手に魔法が発動してたらしいし…… 僕も鍛錬したら少しは自由に魔法を使えるかな?」
「アルム様?」
私のつぶやきにマリーが反応する。
私は振り返りながら言う。
「僕も鍛錬ってのをやってみようと思うんだ」
私の言葉にみんなが一斉に私を見るのだった。
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