4-15:報告


「エル様、ご無事で何よりでした」



 エルさんについて行って入った部屋には一人の黒装束の少女がいた。

 見た感じは成人したばかりくらいの年齢で多分十五、六歳くらいだろう。

 彼女はエルさんが部屋に入ると恭しくその場に膝をついてそういう。



「ごめんごめん、なんかみんなに心配かけたみたいね。でもまぁこうして無事に帰ってこられたし。それより状況はどうなの?」


 ベーダさんと呼ばれるその少女の手を取りながらエルさんは彼女を立ち上がらせる。

 そしてまじめな表情で彼女に聞く。


「最悪ですね。わかっている限り近隣諸国も同じく風のメッセンジャーが使えなくなり混乱しております。ゲートも同じくどこもかしこも使えなくなっており、事態究明には時間がかかりそうです。こんな時にシェル様がいてくれれば……」


 そう言ってベーダさんは悔しがる。

 

「まぁ、ママがいたとしてもどうかな? こんなことは初めてだし、お母さんじゃないとどうにもできないことかもしれないわね……」


 そう言ってエルさんもため息を吐く。

 そんなエルさんにしかしベーダさんは顔を真っ直ぐに向けて言う。


「すでにティナの国、ガレント王国、ノルウェン王国、そして学園都市については我々の別通信網である伝書鳩の活性化に取り組んでおります。冒険者ギルド所属の渡りのエルフたちにも協力要請をしてエルフのネットワークによる伝達依頼もしております」


 それを聞いたエルさんは頷く。


「流石ね。そちらの伝達網の構築は任せるわ。問題はゲートだけど……各支店の情報を集めて。アルフェならもう動いているとは思うけど、転移魔法自体はどうなってるの?」



「それにつきましては」



 エルさんが次々に状況を聞いて指示を始めていると、いつの間にかアルフェさんがいた!?

 いや、デルザさんまでいる!?

 いったいいつの間にこの部屋に入ってきたんだ!!



「各支店は緊急時のマニュアルに沿って行動を開始しています。魔術師部隊はすでに状況解明を始めていますし、短距離の転移魔法は使用可能が確認されています」


「こちらも緊急時対応マニュアルに則って活動を開始しています。全戦闘メイドは各支店の防衛にまわっています」


「我々暗部も裏社会のルートからの安定も指示済みです。むしろこういう時は裏社会の情報網の方が早い場合がありますね。鏡による暗号送付やのろしによる合図など既に使われなくなった情報伝達がまだ使えますので」



 三人はそう言ってエルさんの前に再度跪き言う。



「「「すべては我らが主の為に!」」」



「お母さんの名代に変わってで命ずる、世界の秩序を守れ!」


「「「はっ!」」」



 そう言って三人はその場から一瞬で消える。


 ちょとマテぇえええぃぃぃいいぃっ!!



「いやいやいや! 何それっ!? どういうこと? アルフェさんもデルザさんもベーダさんもいったい何者!?」



「どうしたのよアルム君? そんなに慌てて??」


 いや普通慌てるでしょう、何その忍者みたいな連中!!



「私は正義の味方、そしてお母さんがいつも言っていたけど穏やかで優しい世界を守るため、私だってやれることは全部やるつもり! とりあえず困ったときは魔法学園ボヘーミャの学園長に相談するといいってママも言ってたし、情報がもう少し集まったら私はまずは学園都市ボヘーミャに行ってみるわ! アルム君たちはどうする?」


 エルさんは鼻息荒くなにやら使命に燃えるような瞳で嬉しそうにそう言う。


 

 学園都市ボヘーミャ。

 たしかどこの国にも属さない中立の学園。


 学園とは言え、その規模は一国家並みに大きく学園を中心に街が出来上がっていると言われている。

 魔道に関する研究とその育成は貴族から庶民にまで幅広く門を開き、優秀であれば学費免除、生活費まで支給されるという夢のような学園。

 数々の優秀な魔導士たちを輩出しているまさしく魔道の為の学園。


 そんな学園都市の学園長は確かもう千年以上変わっていないとか。

 どういう事かはわからないけど、その学園長は「魔人戦争」の勇者と共に戦いぬいた英雄ユカ・コバヤシとか言う。

 異世界から召喚された英雄と言われているらしいけど、よくよく考えてみたらその名前って日本人?

 

 もしかして彼女もあの駄女神に騙されてこっちに来た部類??



「マリー、イザンカ王国に帰るには南回りか北回りって言ってたよね?」


「はい、現在の位置は大海を挟んでちょうど真逆の場所にいます。ウェージム大陸とイージム大陸の間の大海は大型の魔獣の生息が多く、彼らの縄張りに入ると有無を言わさず船を沈められるので基本船での移動は難しいでしょう。そうなると陸路を行くしかありません。北回り、南回り共に最低一年以上はかかってしまいそうです……」


 マリーは言いながら申し訳なさそうにする。

 でも、それなら南回りでその魔法学園に向かえばもっといろいろな情報も手に入りそうだし、もしかしたらその頃には魔法学園でも通信手段とか回復する方法が見つかるかもしれない。



 だったら。



「エルさん、僕たちも一緒に魔法学園に行くよ。そして南ルート回りでイザンカ王国を目指すよ。ずっとこのままここにいるわけにもいかないからね」


「うん、わかった。じゃぁ準備が出来たら一緒に行こう!」


「はい」




 エルさんは楽しそうにそう言う。

 私もつられて元気にそう返事をするのだった。

 

 

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