4-6:旅は道連れ世は情け?


「それで、君って何者?」



 エルさんはそう言いながらソーセージをほおばる。


 エルフって肉とかも食べるんだ……

 いや、彼女はハーフエルフだからかな?



「エル殿、聞いてどうするつもりです?」


 しかしマリーが鋭い視線でエルさんを見る。


「ん~? 別に君たちを見ていて悪い人じゃなさそうだからだけど、魔人を使役するほどの人物なら相当のモノでしょ? 一応私は正義の味方だからあなたたちが何者で何の目的でこんなところをうろついているか気になったのよ」


 そう言いながらまたミード酒をくぴくぴと飲む。


 私はマリーに向かって無言でうなずく。

 するとマリーは小さなため息を吐いてから話出す。



「アルムエイド様は、イザンカ王国の第三王子、アルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカその人であられます。今イザンカ王国はドドス共和国と戦争となり、その戦火の中私たちは戦場から転移させられてここへ飛ばされたのです。そしてアルム様は……」



 マリーはそう言って悲しそうに私を見る。



「記憶を失っているのです。この私との甘い記憶も、小さなころからお世話させていただいたことも、あの時愛を語ってくれたことも!」



 いやちょっと待とう、マリーさん。

 私確か十歳だよね?

 その私が二十歳過ぎの大人のマリーさん相手に愛を語る?

 ちょっとそれ無理ないですかーっ!?



「ふーん、君って意外と年上が好きなんだ? まぁ、ガレントの王族とかも変態多いからなぁ~。王族ってみんなこうなの?」


「いえ、僕にそんな趣味はないです……」



 私がそう答えるとあっちでマリーが沈んでいる。



「まぁ、いいわ。そうか、イザンカか~。海の向こう、一番遠いこんなところにねぇ~。そりゃ難儀だわ。じゃぁそうすると君たちはそのイザンカ王国へ帰るつもり?」


「まぁ、よくわかりませんがそうなりますね。僕がその第三王子って言うなら……」


「ふーん……記憶、本当になくしているの?」


 エルさんはそう言ってまた瞳の色を金色に変える。

 そしてしばし私をじっと見てから言う。



「魂に何か枷がされているわね…… とはいえ、君の魂自体がやたらと強力で膨大な魔力を持っている。というか、これってどこからかものすごい力が流れ込んできている? うーん、ますます誰かさんと同じだわね……」



 エルさんはそう言って瞳の色をもとの青と緑の混ざった美しい色に戻す。



「あの、さっきから気になってるんですがなぜエルさんの瞳の色って変わるんですか?」


「ああ、これ? 『同調』って技なんだけど、先生に散々仕込まれたものなのよね~。魂の色とか大きさとか見えるし、マナの流れとか魔力の流れなんかも見えるのよ。だからそれをちょっといじるとこういう事も出来るの」


 そう言ってまたまた瞳を金色に変えてから手に持つフォークをさっといじると、スプーンに変わった。



「えっ? 手品??」



「違うって、スプーンに存在するマナをいじって形を変えたの。簡単なことなら私でもこのくらいできるんだけどね~」


 そう言ってもう一度手を触れると元のフォークに変わった。



「す、すごい!」



「どういたしまして。で、君の魂だけどその枷は多分この世界のモノには外せないわ。あの人なら…… うーんでも、今どこかに行っちゃったからなぁ」


 そう言ってまたフォークでソーセージを突き刺す。



「アルム様の記憶が戻るあてがあるのですか!?」



 あっちで沈んでいたマリーが復活した。

 目を輝かせ期待にエルさんを見る。


「いや、私じゃ無理よ。そうね、とりあえずうちに来ない? ベイベイの屋敷に戻ればお母さんの情報も入るかもしれないしね。それに、君たちもイザンカに帰りたいんでしょ? うちに来れば内緒でゲート使わせてあげてもいいわよ?」


「ゲート?」


 ゲートって確か、古代魔法王国時代に遠い場所を一瞬で行き来することができるやつじゃ?

 でも確か今は限られた場所にしかなくて、しかもそこから軍隊とか派遣されたら一大事だから各国が厳重に管理しているはずじゃ……



「まぁ、うちのシーナ商会には独自のゲートがあるからね。内緒だけど、君たち王族ならうちの商会ともゆかりがあるからね。第三王子が記憶なくしてこんなところをふらついているんじゃ、政局不安定にもなっちゃうしね。この辺じゃ風のメッセンジャーもないし、隣の冒険者ギルドも支店だから風のメッセンジャーないしね」


 うーん、シーナ商会?

 どこかで聞いたような……



「エル殿はシーナ商会の方でしたか……」


「まぁ、ママがね。で、どうする?」



 マリーは確認するようにエルさんにそう聞く。

 しかし、そのシーナ商会って、王族ともゆかりがあるんだ。



「はぁ、そうすると一緒にベイベイという町に行けばイザンカに帰れるっていう事ですか?」


「そういう事」


 そこまで言ってエルさんはまたまたミード酒をおかわりする。

 私はマリーを見てみると、しばし考えこんでからうなずく。



「では、エル殿に厄介になります。報酬はイザンカ王国に戻ってからしかる手続きをしてシーナ商会にお支払いします」


「いいって、そんなことしなくても。さっきのお礼よ。油断しちゃってもし怪我でもしたら大騒ぎだったもんね」


 エルさんはそう言ってにっこりと笑う。

 うーん、なんか流されて一緒にそのベイベイって町に行くことになったけど、ウェージム大陸からイージム大陸に行くのって確か一年以上かかるんんじゃなかったっけ?

 そう考えるとそのゲートを使わせてもらえるのはありがたい。

 それになんかいろいろと知ってるみたいだし、私の記憶を取り戻す方法もありそうだし。



「エルさん、それじゃぁお願いします」


「うん、泥船に乗ったつもりで任せて!」


「いや、泥船は……」



 この人本当に大丈夫だろうか?

 すごい人っぽいけどなんか不安になるなぁ。




 私はちょっと心配をしながらまたジュースを飲むのだった。 


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