4-7:心配


「アルム様、本当にあのエル殿と一緒にベイベイまで行くのですか?」



 エルさんのおごりで食事が終わり、そのままこの食堂兼宿というところで部屋をとり、湯あみをするべく服を脱いでいるとマリーが手伝いながらそう言う。


 今のところ私は記憶喪失だそうだ。

 そして周りにいるマリーやアビス、そしてカルミナさんの話を信じるならイザンカ王国の第三王子という立場らしい。

 イザンカ王国についてはなぜか知識だけはあった。


 イージム大陸というこの世界で東に存在する大陸にある一番大きな王国。

 大きな王国とは言え、その領地は魔物だらけで人が住むにはかなり厳しい環境。

 いや、イージム大陸自体が人が住むには厳しい環境で、古書にはその昔女神戦争で暗黒の女神様がその地で倒れたせいで魔獣がやたらと多い場所になったらしい。


 そんな場所の王国の第三王子。

 

 それが私らしいのだが……



「あの、マリーが湯あみの手伝いするってのは分かるけど、なぜ一緒に裸になるの!?」



 確かに私はまだ十歳の子供だ。

 しかし、いくらなんでもそんな男の子に前で大人の女性が裸になるのはよろしくないのじゃないだろうか?

 大きな胸のマリーは躊躇無く服を脱ぎ、ぶるんと大きな双丘を揺らす。



「アルム様、それもお忘れですか? いつもこうして一緒にお風呂に入ってお体を洗ってあげていたというのに!」


「はぁ、そうなんですか??」



 涙目でそう言ってくるマリー。

 記憶をなくす前の私っていったい何やらかしてるんだろう?


 そう思いながらも言われるままに一緒に盥のお湯に入り湯あみをする。



「あの、マリーそんなにくっつくと洗えないんだけど……」


「大丈夫です、私が隅々まできれいにしてあげますから、お任せください!」


 やたらと目をらんらんとさせるマリーさん。

 いいのか?

 本当に??


 一緒にに盥に入り手拭いで体をこすって汚れを取ってゆく。

 数日間一緒にいたけど体をきれいにする機会はなかった。

 今は男の子だけど、きれいになること自体は嫌いじゃない。


 ないんだけど……



「そ、そこは自分で洗うよ!」


「なにを言ってます、ここもちゃんときれいにしておかないといけませんからお任せください!」



 ちょっと待とうかマリーさん。

 そこはダメなところではないでしょうか?

 いや、なんか赤い顔して目をらんらんとして私のそこを見ているマリーさん。

 心なしか息が荒いんですけど!?



 バンッ!



「ねぇねぇ、そう言えばあなたたちってイザンカ王国のぉ…… のぉっー!! な、何やってんのよあんたたちぃッ///////!?」



 扉がいきなり開いてエルさんが入ってきた。

 エルさんは私とマリーが裸で体を洗っている様子を見て何やら驚いている。


 驚いている??


 ふと改めて自分たちの様子を見てみると、盥の中に立って体を洗われている私の前に裸のマリーがしゃがんである場所を見てはぁはぁ吐息が荒くなっている状態だった。


 エルさんに気づいたマリーは振り返りエルさんを見るけど、やたらと赤い顔ではぁはぁいいながらエルさんを見る。



「あ、あんた、ま、まだ子供相手に何やってるのよ///////!? まさか口で///////!!!?」



 しゃがんでいたマリーは立ち上がり首をかしげながらエルさんにこたえる。



「何を騒いでいるのですエル殿? 私はアルム様の体をきれいにして差し上げていたのですが?」


「か、体をきれいに? じゃ、じゃぁなんであんたも裸なのよ!?」


「一緒に湯あみしていただけですが?」


「い、一緒に湯あみぃ??」



 そう言ってエルさんは初めて私とマリーが盥の中にいることに気づく。

 そして顔を赤くしまたまま大きく息を吐く。



「な、なんだ私はてっきりこんな小さな子にお口でしてたのかとばかり思ったわよ……」


「お口で? ああ、なるほどアルム様の全身をくまなく舐めとってきれいにするという事ですね! なるほどそれはいいですね、アルム様っ!」  

 

「やめないなさいって!」



 それダメなやつです!

 お巡りさん、このおねーさんです案件です!!


 これ以上放っておくと危ない方向へと行きそうなので、私はさっさと体を拭いて服を着始めるのだった。



 * * *



「ま、まぁ王族は変態が多いからこんな小さなころから変なことしてるかと焦ったわよ」


「どういう偏見ですか?」



 エルさんにそんなこと言われて思わずジト目で見てしまうが、とりあえずマリーも渋々服を着てエルさんに何の用か聞いてみる。



「ところでエル殿、何の用ですかこんな夜遅くに?」


「そうそう、あんたたちイザンカって言ってたわよね? イザンカが戦争になったって聞いたのよ! それ本当?」



 エルさんにそう言われ、私は思わずマリーを見る。

 するとマリーは静かに頷き言う。


「はい、確かに戦争が始まっています。私たちはその渦中に転移させられてこんなところまで飛ばされました」


「なるほどね…… いや、国同士の戦争なんて久しくなかったからね。じゃぁ戦況はどうなったかは?」


「……客観的に見てアルム様のおかげでイザンカが勝つとは思いますが、結果については我々は」


 マリーはそう言いながら私を見る。

 とはいえ、その辺の記憶がごっそりないのでイザンカ王国がどうなったか心配になっていないのが実情だったりする。

 ただ、それでも私が第三王子であるとなればそこへ行くしかないだろう。



「そっか、まぁベイベイまで行けば状況は多少なりともわかるはずね。うちのイザンカ支店もあるから情報が入っていると思うわ」


「そう、ですか……」


 エルさんに言われてマリーは言葉を濁す。

 まぁ、戦争の結果はどうだかわからないけどマリーにしてみたら私の無事を一刻も早くイザンカ王国に伝えたいところだろう。

 なのでマリーは頷いてからエルさんに言う。


「アルム様の無事を一刻も早くイザンカ王国へ伝えなければなりません、エル殿どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言ってエルさんに頭を下げる。


「やめてよ、どちらにせよ私はベイベイの町に帰って情報を集めてからママたちを探しに行かなきゃ出しね、ついでだから気にしないでよ」


「ありがとうございます」


 そう言ってマリーはもう一度頭を下げる。

 それに苦笑するエルさん。

 しかし今のところ連絡を取る手段としてはベイベイの町に行くのが一番早いらしい。


 なので私もエルさんに向かってぺこりと頭を下げる。


「僕からもお願いします、エルさん」


「いいって、まぁとりあえずはベイベイに行くには険しい山道行かなきゃだから今のうちによく休んでおくことね。二、三日後にはここを出発したいから、準備しておいてね。じゃ、お休み」


 エルさんはそう言って手を振りながら部屋を出て行った。


 残された私とマリーは顔を見合わせる。



「とりあえずはベイベイの町を目指さなきゃだね」


「そうですね……」




 私とマリーはそう言って窓の外を見るのだった。

   

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