4-2:状況


 私はどこ、ここは誰?



 などと変なことを思っているけど何故か不安感がない。

 あの悪そうな顔のお兄さんの話だと、私はイザンカ王国とか言う国の第三王子様らしい。


 うーん、あの乙女ゲーだったら確実にイベント発生してそうなんだけどなぁ~

 美形の王子様の周りに美形の騎士様とか美形のおつきとか美形の兄弟に美形のいろいろと。


 でも今は山の中。


 天気はいいし、日和もいいからついついほのぼのしてしまう。



 ぐう~



 でもお腹はすくんだよねぇ~。

 あの銀髪のメイドのお姉さんやネコミミのお姉さんが何か食べ物を探しに行ってるらしいけど、そんなに簡単に手に入るのかな?

 前世の知識から言うと、よほど豊かな山でもない限りそうそう簡単には食料なんて見つからないと思うんだけど……


 と、ふと残った悪そうな顔にお兄さんと目が合う。

 お兄さんは私と目が合うと悪そうな笑顔になる。



「我が主よ、本当に私のこともお忘れか?」


「ええぇとぉ、ごめんなさい。覚えてません」



 私がそう言うと、このお兄さんはがっくりと膝を地面について落ち込む。



「くぅ、私と主様のこの魔力の絆があるので少しは期待をしていたのですが……」


「なんか、ごめん」


 そこまで落ち込む事なのだろうか?

 しかしこのお兄さんはスクっと立ち上がって言う。



「たとえ我が主が私のことを忘れようとも、私めの忠誠は変わりません。どうぞ何なりとご用命ください」



 そう言って頭を下げる。

 しかしそう言われてもなぁ。



「あ、そうだお兄さんの事教えてよ、どうもいろいろと思い出せないことが多くてね」


「くーっくっくっくっくっ、もちろんよろしいですよ。ではまず私の正体をお見せしましょう!!」


 そう言ってこのお兄さんはぶわっと体から黒い霧を発生させる。

 それはお兄さんを一瞬で霧に包み、大体四~五メートルくらいの大きさになる。

 そしてその霧が晴れたらそこにいたのはまさしく悪魔。

 前世で言う悪魔そのものだった。



『我が主よ、私は魔人。異界から召喚された上位悪魔にございます。私は主様の魔力に惹かれ、主様と契約することによりこの世界で受肉をいたしました。主様から流れ出る膨大な魔力をいただきこちらの世界で具現化でいております。主様がお望みとあらば国一つ、いやこの世界をも支配して主様に献上いたしましょう!!』



「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまてぇぃいいいいいぃぃぃっ!! あ、悪魔? 魔人?? 何それいきなりラスボス!?」



 いや驚いた。

 まさか目の前にいきなりラスボスみたいのが現れるんだもん!!



「あ~何やってるニャ、アビス? 正体アルムに見せてビビらせてるかニャ?」


「ネコミミのお姉さん! なにこれ!? 悪魔? 魔人!?」


 ネコミミのお姉さんは自分の体より大きなイノシシを担いでやってきていた。

 でもこの悪魔見てぜんぜん驚かない?


「アビス、アルムがビビってるニャ。元のヒツジの姿に戻ってやるニャ!」

 

『ふむ、それはいけませんね。では!』


 そう言ってこの悪魔の魔人はまた体を黒い霧で覆って小さくなり、元のお兄さんの姿になった。



「ネコ、忠告は感謝するがヒツジではなく執事だ。私は我が主様の従順なしもべにして主様のために如何様なことも厭わなぬ存在だぞ?」


「なんでもいいニャ! それよりアルム見るニャ! うまそうなイノシシ捕まえてきたニャ!!」



 どンッ!



 ネコミミのお姉さんは嬉しそうにそのイノシシを地面に置く。


「いやこんな大きなの……というか、これどうやってさばくの?」


 見た感じ誰もそんな道具を持っていない。

 と、そこへ銀髪のお姉さんが戻ってきた。



「やはりネコは肉を取ってきましたか。しかし肉だけでは栄養バランスが悪い。それと岩塩を見つけてきました」


 そう言って前掛けのエプロンで包んでいたものを開いて見せる。

 そこにはキノコや薬草、ハーブみたいなものや果物、そしてピンク色の岩塩があった。


「でも肉の方がいいニャ! アルムだって肉食わないと大きくなれないニャ!」


「まぁ、それは否定しませんが、さっそく調理を始めます」


 そう言ってどこからともなく大きな鍋を引っ張り出し、近くにあった木をなぎなたで一閃すると、それらはお椀やまな板、スプーンやフォークになる。



「何それ!? 魔法!?」



「いえ、冒険者時代に身に着けた技術です」


 いや、技術って!?

 そんななぎなたで一閃しただけでそんなの出来るだなんて、「またつまらぬものを斬ってしまった」の人よりすごいじゃん!!



 私が驚いていると銀髪のお姉さんはちゃっちゃとイノシシも解体して串焼きの肉やキノコがたっぷり入ったイノシシ鍋を作ってゆく。

 しかもこれしか食材がないのにやたらとおいしそうな匂いがしてくる。



「できました。アルム様どうぞ。熱いのでお気をつけてください。あ、それとも私がふーふーして食べさせましょうか?」


「い、いや、自分で食べられるよ…… ありがとう」



 お椀や串焼きを受け取りつつお礼を言って食べ始める。



「ぱくっ! もごもご…… なにこれ! おいしい!!」



「よかったお口に合って」


「まぁ、マリーのご飯は確かにおいしいニャ。おかわりニャ!!」


 そう言ってみんなで食事を始めるけど、あの悪魔のお兄さんだけは食べない。



「あの、お兄さんは食べないの?」


「くーっくっくっくっ、私めは主様から頂いている魔力で十分です。私には食事は不要なのですよ」


 そう言って一礼してくる。


 うーん、確かに悪魔だから人間のご飯は不要なのかもしれない。

 そんなことを思って食事をすすめていると、銀髪のお姉さんがふと思い出したかのように言う。



「そういえばあちらに町のようなものがありました。食事が終わりましたら行ってみましょうか?」


「えっ? 人がいるの?? うん、じゃぁ食べ終わったら行ってみよう!」



 とにかく体制を整えて、ここがどこだか把握する必要がある。

 それに自分が誰だか思い出さないと今後どうしたらいいかわからないし。



 

 私はそう思いながら串焼きをほおばるのだった。 

   

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