第四章:転移先で

4-1:どこか


「うーん……」



「アルム様!」


「我が主よ!!」


「アルム、気が付いたニャ?」



 なんか頭が重い。

 私はうっすらと目を開く。


 青い空が目に飛び込んできて、ちょっとその青さが目に染みる。


 すがすがしい空気を肌で感じながら、私は完全に目を見開くと、知らない大人たちがいた。



「アルム様! よかった!! お目覚めになられたのですね!!」



 そう言って銀髪のメイド姿のお姉さんが私に抱き着いてくる。

 でっかい胸で抱き着かれるので苦しい。


 と、そこで初めて気が付く。


 私って誰?

 いや、確か交通事故でひどい目にあって、そして……



「あ”あ”あっ! あの女神ぃッ!!」



 お姉さんに抱き着かれながら何があったか思い出す。

 思い出すのだが、なんか所々がよく思い出せない。


 ええぇーとぉ……



「アルム様、どこか痛いところなどはございませんか?」


「あ、えっと、大丈夫ですけどお姉さん誰?」



 ビキッ!



 私が素でそういうとお姉さんは固まった。



「我が主よ、まさかこの者が誰かお忘れか?」


「いや、お兄さんも誰? それとネコミミのお姉さんも……」


「ニャッ!? ア、アルムあたしがわからにゃいか!?」



 なんか悪そうな顔のお兄さんやネコミミのお姉さんも驚きを隠せないでいる。

 いったい何なんなんだよ……


 というか、私誰?

 私は大宮珠寿、三十九歳で彼氏無しの未婚、処女でバリバリのキャリアウーマンのはずだったんだけど、交通事故で死んであの女神に異世界転生進められて……


「おや?」


 そう言えば、なんでこっちに転生したんだっけ?

 それになんか甘美な条件を言われていたような……



「ア、アルム様、マリーにございます! あなた様の初めての相手です!!」


「はいっ? お姉さんが僕の初めての相手?? あれ? 僕ってまだ十歳だったような……」



 えーと、私って確か転生して男の子になって、確か今は十歳で……

 その辺は覚えているけど、同じ女性とそんな関係?

 というか、私って十歳でそんなことしちゃってるの!?



「これからアルム様の初めてのお相手をする予定の者です。アルム様が今後奥様を迎えるためには男性としての経験が必要ですから!」



 ずいっとこのお姉さんはそう言って迫ってくるけど、何なのこのお姉さん??



「え? お姉さんが僕のお嫁さんになるわけじゃないんだ??」


「なっ!? そ、そんな私を身請けしてくださっただけでも十分だというのに、そんな妻だなんて……恐れ多いです。私は妾のポジションで十分です♡」



 そう言ってほほに手を当て顔を赤らませていやんいやんしてる。

 いや、どう見てもこのお姉さん、二十歳以上に見えるから私との年の差が十歳以上?

 いいのかそれで??



「アルム、まさか本当にあたしたちのこと覚えてないニャ?」


「えーと、ネコミミのお姉さんってどなた?」


「に”ゃっ!?」


 ネコミミのお姉さんも私の回答に大いに驚いている。

 いったい何なんだよ。

 それにアルムって誰?



「我が主よ…… どうやら記憶を失っておられるようだ。我が主よ、あなた様はアルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカ様。イザンカ王国の第三王子にあらせますぞ」


 悪そうな顔のお兄さんはそう言って私の前で跪いて頭を下げる。


「僕がイザンカ王国の第三王子?」


「いかにも」


 うーん、そんな偉い人に転生してたんだ。

 じゃあ、ここはお城……



「って、ここどこぉっ!?」



 どうやら山岳部辺りらしい。

 周りには山々が見える。

 そしていま私たちがいる場所は開けた草原。

 山の中腹あたりだろうか?

 向こうには林が見える。



「アルム様、どうやら私たちはどこかへ転移させられたようです」


「転移?」



 銀髪のお姉さんはそう言って私に水筒を手渡してくれる。

 そう言えばのどが渇いていた。

 私はその水筒の蓋を取って中の水を飲む。


 と、こんな山奥で水は貴重だ。

 私は一口だけ飲んでそれを銀髪のお姉さんに返す。



「アルム様、ご遠慮なさらずにもっとのどを潤してください」


「でもこんな山奥じゃ水だって貴重でしょ?」


「飲み水くらいならいくらでも魔法で生成できますよ」


 そう言って銀髪のお姉さんは呪文らしきものを唱えてコップ一杯くらいの水の球が指先に現れる。



「うわっ! すごい!!」



 なにこれ?

 魔法!?

 目の前でそんな光景を見せられれば異世界転生したって実感できる。

 

「アルム様なら無詠唱でこんなことはたやすいのでは?」


 銀髪のお姉さんはそう言いながら、その水を水筒に入れてからまた手渡してくれる。

 私はそれを見てまた飲んでから言う。


「いや、すごいですよお姉さん。僕にもその魔法教えてほしいくらいですよ~」


「ア、アルム様!?」


「ちょっといいかニャ、アルム」


 そう言って今度はネコミミのお姉さんが来る。

 そしておもむろに胸元を開くと、そこに何かの文様がった。


「あたしとの契約は続いているニャ。アルムがあたしの主であることには変わりないニャ。アルムはこの契約の印との魔力のつながりを感じるかニャ?」


「魔力のつながり??」


 うーんどうもよくわからない。

 このネコミミのお姉さんと私はどうやら何かの契約をしているらしい。

 しかし、魔力のつながりといわれても全く感じられない。



「ふむ、どうやら我が主はそう言ったことの 記憶が失われているという事か……」


 悪そうな顔のお兄さんはそう言ってにんまりと笑う。



「さすれば我が主よ、この世界を御身のために私が征服しましょう! 我が主には世界の長となる資格がある! ああ、我が主がこの世界の頂点に君臨する姿、なんと素晴らしい!! くーっくっくっくっくっく」



「いや、そんな世界征服したいとか思わないし……それよりお腹すいたよ……」



 くきゅぅ~



 悪そうな顔のお兄さんはなんかあっちで悦になっている。

 美形でかっこいいんだけど逝っちゃってる人なのかな?



「そうですね、まずは体制を整えることが先決。食糧の調達をしてまいります」


「ニャら、あたしもいくニャ!」


「では私は主様の御身を守りましょう」




 そう言って三人はそれぞれに動き出すのだった。

 

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