4-3:見知らぬ町
私たちは銀髪のお姉さんが見つけたという町に向かっていた。
「うーん、にゃんかあたしのいたノージムよりは暖かい場所っぽいニャ」
「ネコミミのお姉さんってノージム大陸にいたの?」
「ネコミミじゃない、カルミナって名前があるニャ! カルミナって呼ぶニャ!!」
そう言ってネコミミのお姉さんはつんとすねる。
なんか猫みたい。
「ごめん、わかったカルミナさん。それで何でここがノージム大陸じゃないってわかったの?」
「あれニャ!」
そう言って指さすのは周りの木々。
それが一体何なのだろう?」
「あたしのいたノージム大陸には針葉樹っていうトゲみたいな葉っぱの木が多かったニャ。あの木の葉っぱは冬になると全部落ちちゃうやつニャ。そんな木ばかりだからここはノージムじゃないニャ」
なるほど、自生している木々でここがノージム大陸ではないことがわかるんだ。
「それにノージムだとあれほど大きなイノシシはいないニャ。寒さに強い別の動物ばかりニャ」
そう言いながら腕を組んでうんうんとうなずいている。
それを見て銀髪のお姉さんは言う。
「だとすれば、イザンカではもうじき冬になる頃でした。極寒の地でなければ活動の阻害にはならなくて済みそうですね。猫もたまには役に立ちます」
「にゃにおうニャ! あたしはいつだって役に立ってるニャ!!」
そう言ってにらみ合う二人。
もしかして仲が悪いのこの二人?
「くーっくっくっくっくっ、見えてきたようですね、その町とやらが」
しかし悪い顔のお兄さんはそんなこと気にもせず見えてきた町を見ていたようだった。
と、違和感がわく。
なんというか、外から見るそれはせいぜい獣除けの柵が張り巡らされているくらいで、魔獣などが攻め入ればすぐにでも町に被害が出そうな作りだった。
「確かに、ここはイージム大陸ではなさそうですね。この程度の獣除けの柵では魔獣の襲来に耐えられませんから」
「そうニャ。だからここはノージムでもイージムでもない場所っぽいニャ!」
そう言いながら町にさらに近づくと、一応見張りみたいな衛兵さんがいる。
簡素な詰め所もあって暇そうにしていた。
「ん? 旅人か何かか? その割にはずいぶん変わった姿だが……」
こちらに気づいた衛兵さんは私たちを見て声をかけてきた。
「すみません、ここはどこの町ですか?」
「変なこと聞く旅人だな? ここはノルウェン王国のギザの町だが?」
衛兵さんは変な顔をしてそういう。
するとカルミナさんが真っ先に反応した。
「ノルウェン王国ニャ!? じゃ、ここはウェージム大陸ニャ!?」
「変なこと言うな、そんなの当り前じゃないか?」
驚くカルミナさんに衛兵さんはさらに変な顔をしている。
そして最初の質問を繰り返す。
「それでギザの町になんの用かな?」
「はい、いろいろとありまして、いったん落ち着きたく宿を探しています」
衛兵さんに銀髪のお姉さんはそう答えると、衛兵さんは銀髪のお姉さんと悪い顔のお兄さん、そしてカルミナさんを見てから私を見る。
「なるほど…… 最近この辺でも盗賊が出るからな、気の毒に。町の大通りを行けば宿はすぐに見つかる。冒険者ギルドのすぐ近くにある宿が安くていいぞ」
「そうですか、ありがとうございます。では」
「ああ、命あってのものだねだ。気を落とさず頑張ることだな」
そう言ってあっさりと町の中に入れてくれた。
どうやらどこかの貴族か何かが野盗に襲われて身ぐるみはがされたと勘違いしたようだ。
とりあえず町に入り、その宿へと向かう。
「ところでカルミナさん、カルミナさんはここがどこか分かったの?」
「どこも何も、まずはここはウェージム大陸ニャ。そしてノルウェン王国と言ったら大陸北西の国、魔晶石の原石が取れる場所で有名ニャ!」
うーんなんか記憶があやふやだけど、確かこの世界には東西南北に四つの大陸があったはず。
細かくは思い出せないけど、そうなると私たちは西の大陸にいることとなる。
「とりあえずはアルム様にご休憩をとっていただくために宿に行きましょう。手持ちはこれだけあるので当面は大丈夫ですね。いざとなれば先ほどの話ではないですが冒険者ギルドがあれば仕事の一つ二つすぐにでもこなして路銀を稼ぎましょう」
銀髪のお姉さんはそう言って私の手をぐっと握る。
そして言う。
「アルム様の御身はこのマリーが必ずお守りしてイザンカ王国までお届けいたします」
「えっと、マリー、さん。ありがとう」
「何を言います。このマリー、アルム様に全てを捧げています。どうぞマリーとお呼びください」
「あ、うん、ありがとうマリー……」
「はい(にっこり)」
うーん年上のお姉さんを呼び捨てにするのは気が引けるけど、そういうのだから仕方ない。
そう言えば悪い顔のお兄さんの名前も聞かなきゃな。
「そういえばそっちのお兄さんはなんていうの?」
「うぐっ! 記憶をなくされているとはいえ、私と我が主の絆である我が名をお忘れになられるとは、メテオストライクを受けるよりこたえますな……私の名は『アビス』、我が主より賜わった高貴な名にございます。どうぞ、アビスとお呼びください」
うーんこっちのお兄さんも呼び捨てにしろってか?
まぁ、見た感じ二十歳そこそこなので精神年齢的には私の方が上だからいいか。
「わかった、アビス。これからもよろしくね」
「御意!」
そう言って胸に手を当て、一礼をする。
ほんと、私って何者なんだろうね?
アルムエイドとか言う名前らしいけど、みんな「アルム」って呼ぶ。
まぁそれはいいのだけど、第三王子って偉そうな存在らしい。
それにしてもマリーもアビスもそしてカルミナさんも何故に私なんかにここまで協力的なのだろうか?
もしかしてそのイザンカって国に帰ればご褒美とかたくさん貰えるのかな?
そう思っていると、宿屋らしきところへ着いた。
なんか食べ物のいい匂いがしてくる。
そう言えばそろそろ夕暮れ時になる。
まだ周りは明るいけど太陽もだいぶ傾いてきてオレンジ色になり始めている。
マリーがお金持っているからとりあえず食事と宿に泊まることはできそうだ。
そう思いながらカルミナさんが扉を開けようとしたら誰かが飛び出してきた。
バンッ!
「いい度胸じゃないの! 表に出なさいよ!!」
「うるせい! ハーフエルフごときが生意気なんだよ!!」
「なんですってぇ!!」
目の前に金髪で青と緑が混じったような瞳の美少女が飛び出してきて扉の所に立っている大男を睨んでいる。
いかにも傭兵か戦士風のその人に、年のころ十五歳くらいに見える彼女は啖呵を切る。
「このエル様に喧嘩売ったことを後悔させてやるわよ!!」
私の目の前で、彼女はそう叫ぶのだった。
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