3-33:元凶
「我が主よ、注意されよ!!」
いきなりアビスがそう言って私を抱きかかえ城壁の手すりの上から引き下ろす。
そしてマリーたちのいるそこまで下がると、またあの声が聞こえる。
『抗うな、我は王。汝らの欲望を満たす王である。汝らよ己が欲望に忠実であれ!!』
その声はそう言うと、頭痛がした。
いや、その声を遮るために私の本能がその声を拒絶したからだ。
「くぅ…… ア、ルムさまぁ♡」
アビスから離れ、頭を抱えているとマリーが抱き着いてきた。
そして私のほほにキスをする。
「アルム様ぁ、大好きですぅ♡ もう、食べちゃいたいくらいぃ好きですぅ♡」
「う、うわぁ、マリー?」
なんなんだ!?
マリーの奴いつにもまして??
「アルム、私と一緒になるのですわ……」
「アルム、弟は姉のモノよ! 私だけを見なさい!!」
そう言ってミリアリア姉さんやエシュリナーゼ姉さんも私に抱き着いてくる。
「ちょ、ちょっとみんな!?」
「アマディアス様ぁ~、交尾したいニャ! どこにゃぁ!!」
向こうではカルミナさんが盛っている!?
「くっ、ここまで強い精神支配とはですな…… 我が主よお気を確かに。あ奴の声には心を支配する力がありますぞ!!」
唯一アビスだけは大丈夫なようだった。
そして思い出す、この声の主を。
「この声、そうだ! あの悪魔の王かっ!?」
「いかにも! あ奴は主様の魔力を狙っております、しかしここまでこちらの世界に干渉するとは!!」
そう、この声の主はジマの国のあの岬で聞こえてきた「悪魔の王」七大冤獄の主と言っていた奴だ!
でもなんであいつが?
「一体どういうことだよ? あいつが何でここに?」
「多分、ドドスの愚か者は裏であ奴に心動かされていたのでしょう。自己の欲望を表に出す所など理性というタガを外していますしな」
魔人であるアビスはあの悪魔の王について私よりは理解をしている。
そのアビスが言うのだからそうなのだろう。
しかし。
「どこにいるんだよあいつは!?」
私はマリーや服を脱ぎ始めるミリアリア姉さん、私にキスしてこようとするエシュリナーゼ姉さんに【睡眠】スリープの魔法をかけて動きを止める。
本来ならエシュリナーゼ姉さんやマリー辺りはこの魔法に抵抗しそうなものだけど、今回に限ってはやたらとすんなり眠ってくれた。
「おそらくあの者たちの後ろにいるのでしょう…… 相変わらず人を操るのだけは上手い」
アビスはそう言ってドドスの「鋼鉄の鎧騎士」たちのさらに後方の森を睨む。
それを見て私は再び城壁の手すりの所まで行って大声で叫ぶ。
「ずるいぞ! 姿を見せろ!!」
私のその声にあの声はぴたりと欲望を解き放てと語るのをやめる。
そして笑い声がしてきた。
『ふふふふふ、そこにいたか。さあ、我がもとへ来るがいい!』
その笑い声はドドスの「鋼鉄の鎧騎士」の後ろの森の上にいた。
宙に浮いていて白い肌、真っ赤な瞳、銀色の髪の毛、そして年の頃三十路くらいの貴公子のような姿。
そいつは笑いながら大きく手を広げる。
『来るがいい、我がもとへ!』
「冗談じゃない!! 【爆裂核魔法】!!」
きゅぅ~……
カッ!
どぼごぃあぁああああぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!
そいつの呼びかけに私はいきなり【爆裂核魔法】をぶっ放す。
赤い光が収束した瞬間、相手に向かって灼熱の業火が解き放たれる。
しかし悪魔の王であるそいつは手を振ると一瞬で目の前にあの扉が現れて開き、その業火の炎を吸い取ってしまった。
その扉は何事もなかったかのように【爆裂核魔法】を吸い込んで扉を閉じ、再び消えてしまった。
『ふふふふふ、素晴らしい魔力だ。気を許せばこの我でさえ痛みを被るほどにな』
そう言って再度手を開くすると今度は扉が私を囲むように七つ現れた。
「我が主よ!!」
アビスが慌てて私と扉の間に入ろうとするが、悪魔の王が片手をあげて魔光弾を放つ。
その魔光弾は見たことがないほど早く、アビスもかろうじて防御をしたが遠くの城壁まで吹き飛ばされ壁に激突して砂煙を上げる。
「アビス!!」
『さあ、我がもとへ!』
吹き飛ばされたアビスの方を見て叫ぶ私にあいつ、悪魔の王はそう言って再度手を広げると、七つの扉は一斉に開くのだった。
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