3-34:悪魔の王


「我が主よ!!」



 アビスが城壁にのめり込みながらも叫ぶ。

 私の周りには七つの大きな観音開きの扉が現れ、一斉にその扉が開く。



『さあ、我がもとへ来るがいい!!』



 悪魔の王がそう言うと開かれた扉から一斉にアビスを捕まえたあの手が伸び出てきて私を捕まえようとする。



 うーん気持ち悪い。

 こんなのに捕まりたくはない。


 そう思って私は周り三百六十度に【絶対防壁】を展開する。


 だが、その黒い手たちは私の張った【絶対防壁】をすり抜けて迫ってくる。



「おおぉ? じゃあ、これだ」


 そう言って私は【念動魔法】で自分自身を宙に持ち上げる。

 だけど、しっかりと伸び出てきた手たちは私を捕まえようと伸び来る。



「結構しつこいな、じゃぁ!」



 そう言って自信を空中で飛び回らせ追跡してくる手に向かって何百という【炎の矢】をぶち込む。



 ちゅどどどどっどんっ!!



 それらは見事に伸び来る手に命中したが、全くの無傷?

 こいつはもしかして並みの魔法じゃ効かないかな??



「【爆裂核魔法】!」



 なので今度は射線の後ろに影響が出なさそうなところで【爆裂核魔法】をぶっ放す。



 きゅうぅ~

 かっ!



 どばごぉおおおおおおぉおぉぉぉんっ!!




 速度をやや抑えて伸び来る手を一網打尽で【爆裂核魔法】で吹き飛ばす。

 流石にこの魔法は通用したようで、業火に焼かれ吹き飛ばされた手たちが塵になる。


 が、すぐさま次の手が伸びてくる。



「ああ、もうしつこいなっ! しつこい男は嫌われるんだぞ!?」



 そう言いながらもう一発【爆裂核魔法】を撃ちだすもまたまた次の手が伸びてくる。



『あきらめるがいい、我が支配する七大冤獄の扉より伸び出る業の手はその業の重さ故消えることはない』


 そう悪魔の王はこの状況を腕組みしながら見ている。

 

 あーもう、高見の見物しやがって!

 なんかむかつく!!


 伸び来る手を退けてもきりがないだなんて。


 ん?

 ちょっと待て。


 そう言えばアビスをどこかに飛ばそうとして転移魔法使ったらこいつら出てきたんだよね?

 じゃあ、こいつら飛ばしたらどうなるのかな??



「だったら!!」



 私は伸び来る手を振り切って七つの門に対して転移魔法を魔力制限なしに使ってみる。

 すると、門の後ろのさらに一回り大きな門が現れ扉が開く。



『なんだと!? 我が支配する七大冤獄以外にも冤獄が存在するというのか!?』



 悪魔の王が驚くその中、扉の後ろに現れた扉の開かれたそこから今度はまるでカニのはさみのようなものが何本も出てきて目の前の扉をつかみ引きずり込む。



『バカなっ!? 我の知らぬ上位世界があるとでもいうのか!?』

   


 悪魔の王がそう叫ぶ中、七つの扉は新たに表れた更に大きい七つの扉に引きずり込まれて消えてしまった。



「うーん、なんか更にヤバいモノ呼び出しちゃった? でもまあ消えたからいいか」



 私はそう言って悪魔の王の前まで飛んで行く。



「お前がドドスを扇動してたんだね?」


『ありえん! 低級世界の貴様等が上級世界の我を凌駕するなど!! いくら魔力が膨大だからと言って我が七大冤獄を凌駕するなどありえん!!』


「いや、そう言われてもね。それより、お前だよ。僕をどうにかするつもりだったみたいだけどそうはいかないよ!」



 私はそう言って悪魔の王に向かって前触れもなく【爆裂核魔法】をぶっ放す。


 

 かっ!


 どばごぉおおおおおおぉ大おぉぉぉんっ!!



『ぐぉっ!』


 でもまぁ予想通り体全部を球体の防壁で包んで私の放つ【爆裂核魔法】を防ぐ。

 しかし今回は前とは違う。

 手から放つ業火を絞りに絞って赤い光の線にする。



『な、何だとぉっ!?』



 前回のように防壁でぎりぎり耐えるつもりだったのだろう、集束するその光は悪魔の王の全面の防壁にひびを入れ始める。



 ビキッ!

 ビキビキビキっ!!



 そしてとうとうその光は悪魔王の防壁を貫く!




 ばぎゃん!


 すびずばぁーん!!



 ボシュっ!!



『ぐわぁああああぁぁぁぁっ!!』



 赤い閃光は悪魔王の左腕を吹き飛ばし、肩から左胸を吹き飛ばす。

 人間だったら即死のダメージだけど、さすがに人とは違う異形のモノ。

 傷口を押さえ私を睨みつける。



『貴様、一体何なんだ!? この我にこれほどの手傷を負わせるなどこの世界ではありえんっ!!』


「ん~? 僕は僕だよ。僕は静かに暮らせればそれでいいのにお前らみたいなのが問題を持ち込む。まったく、いい加減にしてほしいものだよ」



 そう言ってため息をつく私に悪魔の王は私を睨みつけながら言う。




『化け物め!』




「失敬だな、僕はアルムエイド。イザンカ王国の第三王子でそれ以上でもそれ以下でもないよ。さて、お話はここまでだね。そろそろ消えてもらうよ。お前がいなくなればドドスの連中も正気に戻り、『鋼鉄の鎧騎士』があれだと流石に戦争継続はできないだろうからね」



 私はそう言って悪魔の王に向かって片手をあげる。


「さよなら」


 私がそう言った瞬間だった。



「アルム様!!」


「アルムニャ!」


「くぅっ! 我が主よ!!」



 みんなの声がしてそちらをちらっと見ると、なんとまたあの七つの門が現れていた。

 そして開いた門から伸び出る手が私に迫っていた。



『くはははははっはっ! 油断したな!! 捕まえたぞ! これで貴様の魔力を我が物にすればこの程度の痛手など!!』



 私は扉から出てきた手に包まれてぐるぐる巻きにされていた。

 捕まって分かった。

 なるほど、この手は物理的に捕縛するのではなく、精神とかを捕まえるモノだったのか。

 だから魔人であるアビスは抗う事が出来ず捕まっていたのか。


 でも、ネタがわかれば!


「【精神攻撃槍】スピリッツアタックランス!!」



 カッ!!



 私が魔力をふんだんに使った精神に攻撃をできる魔法、【精神攻撃槍】が私の体を覆うように現れて一気に放たれる。

 それは私を捕まえていた手を引きちぎり爆散する。



 ぼしゅぼしゅぼしゅ!



『なんだとっ!?』


「まぁ、ネタがわかれば対処方法があるよ。お前がそれだけの手傷を受けても死なないのは、精神体だからだよね? だから!」



 神聖魔法に近いそれはちょっと複雑な術式だったので、ところどころイメージを固めるために呪文を思い出しながら唱える。



『そ、その呪文は、まさか!? いや、今の時代にこちらの世界でその呪文が使える者がいるというのか!? 神代魔法のはずだぞ!!』


「魔力が足らないから今までは使える人がいなかっただけさ。でもイザンカの禁書庫にはそういった古い呪文もあるんだよ!」


 言いながら私は最後に力ある言葉を放つ。



「【裁きの剣】ホーリーソード!!」



 これは天秤の女神アガシタ様の従者が使ったという神代魔法。いや、女神様たちからすると自分の力の一端で、魔力を単に剣の姿にして振るっていただけらしい。

 しかし人である私達にはその理がわからず、気まぐれでアガシタ様が人に伝えた呪文がこれだったらしい。


 当然今までの歴史上、これを使えた人族はいなかったらしい。


 でも今の私なら!




 私は手を天高く掲げてその先に光る刃を発生させるのだった。

 

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