3-32:あの声


 戦況はすでに混戦の極みとなっていた。



 こちらの戦える「鋼鉄に鎧騎士」は新型二体に旧型五体の合計七体。

 対してドドスの残った機体はまだ十体以上いる。


 スピードで上回っているこちらだが、相手に捕まればおしまいだ。

 唯一元初号機と三号機が対等以上に立ち回ってはいるが、それでも数の暴力にはかなわない。


 対魔処理をされている「鋼鉄の鎧騎士」ならば普通の魔法は通じない。

 当然普通の武器は全く役には立たない。


 巨人たちの戦いはそれほどすさまじいのだ。




「この戦い、我がイザンカが不利すぎますわ!!」


「でも、相手は『鋼鉄の鎧騎士』、それに対抗できるのは『鋼鉄の鎧騎士』しかないじゃないか? 普通の武器も普通の魔法も効かないんだかぁ……らぁ?」



 ん、ちょっと待てよ? 

 魔光弾ランチャーは基本魔光弾を強力にして対魔処理を凌駕する威力なので相手を倒せた。

 「鋼鉄の鎧騎士」と「鋼鉄の鎧騎士」が戦うのも物理攻撃が一般だが、それって武器が大きくなった質量兵器だからだ。

 つまり、魔法も物理攻撃も耐えられないほどの攻撃を加えればたとえ「鋼鉄の鎧騎士」でも倒せるわけだ!



「だったら!!」


 私はそう言って城壁の手すりの上に上る。



「アルム、何をするつもりですの?」


「うん、僕ってこの時のためにこんな力があったんじゃないかなってね。まぁ見ててね!」



 そう言って私は狙いを定めて魔力を高めてから両の手を目のまえでパンと手を打ってから差し出し、そして力ある言葉を叫ぶ。



「【地槍】アーススパイク!!」


 

 私のその言葉に攻め込んでくるドドスの「鋼鉄の鎧騎士」一体が地面からいきなり伸びでた腕の形をした突起に殴り飛ばされる。



 どバキッ!!



「はぁっ、ですわ!?」


 そのあまりの光景にミリアリア姉さんは口を開けて唖然とする。

 しかしそんなことに私は構わずに次々とドドスの「鋼鉄の鎧騎士」を殴り飛ばす。



 どバキッ!

 バキッ!!

 どどバキッ!!



「くーっくっくっくっくっ! 流石我が主です!! 相手を一思いに楽にせず屈辱を与えながら嬲るように痛める!! 素晴らしい屈辱の与え方です!!」


「あー、アルムがすごいのは知ってるニャ。しかしあれじゃぁ『鋼鉄の鎧騎士』の立場がないニャ」


「流石アルム様です♡」



 なんか後ろで外野が言ってるけど、久しぶりに魔力ケチらずに使ってみたら何故か槍でなく、げんこつでドドスの「鋼鉄の鎧騎士」をぶっ飛ばしていた。

 おかしい。

 本来なら槍が足止めくらいになったはずなのに、空高くぶっ飛ばされたドドスの「鋼鉄の鎧騎士」の中には地面に落ちてきて動かなくなった奴もいる。



「あ、あれは殿下がなされたのか?」


「あ、とりあえず足止めになればと思って。でもこれなら!!」


  

 動揺した声でそういう将校。

 うーん、なんか余計なことしたかな??


 

 あまりのことにうちの「鋼鉄の鎧騎士」たちも思わず動きを止めて呆然と立ち尽くしている。

 まあいい。

 じゃあ今のうちに!



「【爆裂魔法】ファイアーボム!!」




 ちゅっど~ん!!



 後ろ手にまだまだいるドドスの「鋼鉄の鎧騎士」たちを爆破魔法で吹き飛ばす。

 それに二~三体が巻き込まれて吹き飛ぶ。


 うん、やっぱり直接じゃなく地面を爆破して吹き飛ばす物理攻撃なら効くんだ。

 ならこれを緩める手はない。



「【地槍】アーススパイク、【爆裂魔法】ファイアーボム、あとえーと【暴風刃】! あ、これはあんまり効かないか? んじゃ【水壁】ウォーターウォール!!」



 とりあえず直接でなく間接で効きそうな魔法をぶっ放す。

 まぁ、規模と威力が段違いなので、だんだんと阿鼻叫喚の地獄絵図になってゆく。


 その光景は見る者を唖然とさせ、開いた口が塞がらない状況となる。



「アルムっ! 何やってんよよ!!」



 調子が出てきたところでいきなりエシュリナーゼ姉さんが私の後頭部を張りせんでたたく。



 すっパーンッ!



「痛っ! 何するんだよエシュリナーゼ姉さん!?」


「何するじゃないでしょうに!! なにあれ!?」



 そう言って指さす先にはボロボロになったドドスの「鋼鉄の鎧騎士」が倒れていた。

 どれもこれもぴくぴくしている。

 中には起き上がれないで沈黙している奴とか、「鋼鉄の鎧騎士」の弱点の一つである水攻めになる大規模な【水壁】ウォーターウォールに捕まって水の中でブクブクと動かなくなった奴がいる。

 あ、水の中の奴はもしかして操縦者が溺れているかもしれない。

 「鋼鉄の鎧騎士」って隙間だらけだから水の中に入ると操縦者がおぼれるという欠点があるんだよね~。


 ん? 

 じゃぁ、最初から水攻めにすればよかった??


 そんなことを思いながら頭をさすってエシュリナーゼ姉さんを見ると、腰に手をやって仁王立ちで怒っていた。



「名誉ある『鋼鉄の鎧騎士』どうしの戦いに何水差してるのよ!?」


「エシュリナーゼ姉さん、僕が【水壁】使ってるからって誰がうまいこと言えと……」


「そうじゃないでしょうに!!」



 びしっッとその惨劇に指をさすエシュリナーゼ姉さん。

 うーん、何がいけなかったのだろうか??


「い、いやエシュリナーゼ殿下、アルムエイド殿下のおかげでこの危機から脱せましたぞ。ドドスの『鋼鉄の鎧騎士』十数体が完全に沈黙しましたぞ」


 しかし将校はエシュリナーゼ姉さんをなだめながらもこの惨劇をもう一度見る。

 残ったうちの「鋼鉄の鎧騎士」はほぼ無傷。

 復活したドドスの「鋼鉄の鎧騎士」がいてもその数はほぼ同じかあちらの方がダメージが大きいから戦闘継続は難しいかもしれない。


 そう、みんなが認識した時だった。



『まったく、その力本当に素晴らしいがもったいないな…… やはり我がもとへ来るがいい』





 その声は確実にこの場にいる全ての者に聞こえるのだった。

 

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