2-22:ブルーゲイル帰還


 なんだかんだ言って私たちはブルーゲイルに帰って来た。



「おおっ! ブルーゲイルが見えて来たな、アルム!」


 エイジは馬車の窓から乗り出して、ブルーゲイルの城壁を見ている。

 なんだかんだ言って私もブルーゲイルの城壁を見てほっとしている。

 やはり、慣れ親しんだ所に戻ってくるのは家に帰ってきた安堵感がある。


 ユエバの町からこちらブルーゲイルまでは特に問題も無く、小物の魔物に数回襲われたけど、難なく撃退してきた。


 相変わらずこのイージム大陸は魔物が多い。

 なので普通は移動するのにキャラバンとかに同行する人がほとんどだ。

 単独で動くのは冒険者か、相当腕に自信のある人たちだけ。


 レッドゲイルに行くのだってそれなりに準備が必要なほどだ。

 

 そんなイージム大陸だけど、城壁の中は人の住まう世界だ。

 私たちは見えて来たブルーゲイルの街の城門が開かれるのを見守るのだった。



 

 * * * * *



「アルム!」


「アルム君!!」


「お兄ちゃん!」


「おかえり、アルム」 



 ブルーゲイルに戻って、城につくと既に玄関先にエシュリナーゼ姉さんやアプリリア姉さん、それにエナリアやシューバッド兄さんが出迎えに来ていた。



「ただいま~」



 私はそう言って馬車を降りると、アプリリリア姉さんが抱き着いてくる。



 抱きっ!



「アルム君、やっと帰って来た~!」


「ちょ、アプリリアずるいわよ!」


「お姉ちゃん、わたしも私もお兄ちゃん抱っこする!」



 相変わらずアプリリア姉さんのスキンシップは激しい。

 当然エシュリナーゼ姉さんがそれに文句を言うけど、疲れているのだから勘弁してほしい所だ。



「ご苦労、『鋼鉄の鎧騎士祭』は問題無かったか?」


「はい、ミリアリア姉さんがかなり苦労してたみたいですけどね。おかげでエシュリナーゼ姉さんはお鉢が回らずすみましたが」


 アマディアス兄さんがシューバッド兄さんに不在の間の様子を聞いてみると、シューバッド兄さんはこちらを見ながら苦笑をする。

 そしてアマディアス兄さんの腕にくっ付いているイータルモアを見て眉をひそめて聞く。



「ところで、アマディアス兄さん彼女は?」


「……後で話す」



 アマディアス兄さんも眉間にしわを寄せてからそれだけ言って城の中に入ってゆく。

 あっちはあちいで大変なんだろうなぁ。

 と、私を呼ぶ声がする。



「おかえり、アルムエイド。ジマの国はどうだったかな?」


 見上げると、そこにはイザーガ兄さんがいた。

 エイジと同じ髪の色の美青年。

 アマディアス兄さんも捨てがたいが、こっちのイザーガ兄さんだってドストライクなお兄様。

 わたしはにっこりと笑って答える。


「いろいろと勉強になりました。楽しかったですよ!」


「そうか、エイジのやつは大丈夫だったかのかな?」


「イザーガ兄ちゃん、凄かったぜジマの国! それに道中も色々あってさ! たくさん土産話あるぜ!!」


 そう答える私たちにイザーガ兄さんは笑顔で答えるも、その笑顔には何か陰りがあったように感じた。

 一体何なのだろうか?


 私のその思いに、今は誰も答える事は出来ないのだった。



 * * * * *



 その後の話はそれはもう宮殿中がひっくり返るほどだった。

 もちろん父王であるロストエンゲル王その人も大いに頭を抱えた。



 まずはイータルモア。

 アマディアス兄さんとしてはもうどうしようもないので、婚約発表と言う事でまずは国内外に通知をし、ジマの国との更なう強固な同盟をむずぼうとしている。

 そして予測されるドドス共和国の脅威に対してのけん制も兼ねるとして。


 問題は、貴族令嬢や他の国からの縁談に対してだった。


 無視できないのが何と、ガレント王国からの縁談が来ていたらしい。

 どう言う意図かは分からないけど、世界最大の国家であるガレント王国から縁談があるとはイザンカ王国としても無視は出来ない案件だったらしい。


 しかし、国家間以上の相手から責任取れと言われたとなるとその話もまた変わって

来る。

 イザンカ王国は一夫多妻制をとっているので、婚姻をすること自体は問題無いとしても、その順位が問題となる。


 ちなみに、うちの母たちも出は両方とも公爵家と伯爵家の貴族だった。

 異母であるエリーナ母様が公爵家の出で、実母のジェリア母様が伯爵家の出だった。

 知り合ったのはうちの実母の方が先だったらしいが、家柄の関係で婚姻はエリーナ母様が先と言う事となったらしい。


 その位に王族、貴族ではその順位と言うモノが大切とされているらしい。



「ふーん、見た目は普通の女の子なのにねぇ。あれが黒龍の孫娘とか」


「でも、彼女の母親は女神様と黒龍から生まれたと聞きますから、女神様の孫娘にもなるのですよね?」


「モアお姉ちゃんって、女神様の孫なの?」


「うーん、そんなのが義理の姉になるのかぁ……」



 はい、相変わらず私のとこところでお茶会やっている。

 エシュリナーゼ姉さんもアプリリア姉さんもエナリアもシューバッド兄さんもいる。



「イータルモアが女神様の孫娘ってどう言う事だよ、アルム?」


「いや、エイジそこから?」


 なんかエイジも混ざってお茶会にいるけど、みんなの視線は私とマリーから離れない。



「まぁ、アマディアス兄様の事はあっちで何とかするでしょけど、問題はアルムよ! アルム、この姉である私が納得いくように説明してもらえるかしら?」


 そう言ってエシュリナーゼ姉さんは腕を組んでぎろりと私とマリーを見る。


「そうですね、私の可愛いアルム君がいつの間にか妾を作っていたという事実にお姉ちゃんも驚いてます。どう言う事かな、アルム君?」


「お兄ちゃん、わたしと結婚するって言ったのに!」



 はい、女性陣の視線が痛いです。

 それなのにマリーったらポッとか頬を赤らませているから、姉や妹たちのイライラが募る事。



「マリーが王族の血を継いでいたってのは驚きだけど、もう王族との縁を切ってアルムの妾になるってのは、それであなたは本当に良いの?」


 エシュリナーゼ姉さんはぎろりとマリーを睨んで言う。

 しかし、マリーは幸せそうな顔で言う。


「はい、私は皆様の末席でも一向にかまいません。アルムエイド様が身請けしてくださったと言う事だけでこのマリー、十分に幸せにございます。今後もアルム様の身の回りの事は私にお任せください。あ、夜伽が必要であればいつでも大丈夫ですので!!」



 いや、それ五歳児の男の子に言うセルフじゃなぁ―ぃいっ!!



 うっとりとする表情のマリーをしばしにらんでいたエシュリナーゼ姉さんは大きくため息を吐いて言う。



「まぁ、あなたがそれで納得しているならいいけど。正妻の座は渡さないからね!」


「いや、エシュリナーゼ姉さん、姉弟で夫婦にはなれませんが……」


「愛があれば大丈夫よ! アルムはあと六年か七年すれば子供も作れるわ、作っちゃえばこっちのもんよ!」



 いやいやいや、姉弟でそれはダメでしょうに!!

 と言うか、私成人前に襲われちゃうの??

 異母姉弟の姉に!?



「そうですね、その頃には私もアルム君の子供が産める体になってますもんね♡」



 いや、実の姉のもヤバい!!

 それダメ、いろいろとダメなのッ!!



「お兄ちゃんわたしは? わたし、お兄ちゃんのお嫁さんだよ??」


「エ、エナリアはもっと大きくなってからね……」


「アルム、モテモテだな(笑)」


「エイジぃ~っ!」



 結局マリーが私に身請けされた事も父王にまで話して、そちらは父の「では頼むぞ、マリー」の一言で決まってしまった。

 だからマリーはここ数日上機嫌だ。


 まったくなんなのイザンカ王国の王族って!?

 変態だ。

 やっぱり変態の集まりだ!!



「おや、こんな所にみんないたのか。エイジ、そろそろ私たちはレッドゲイルに帰るよ?」


 そんな所にイザーガ兄さんがやって来て、エイジを探してからそう言う。

 そうか、「鋼鉄の鎧騎士祭」も終わって、イザーガ兄さんたちもレッドゲイルに帰っちゃうのか。


 エイジとまた分かれるのはちょっと寂しいけど、今度は私がレッドゲイルに行ってみたい。

 レッドゲイルに保管されているっていうオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」ってのも見てみたいし。



 そう思ってイザーガ兄さんを見ると、何故か私をじっと見ている。

 そしてふっと笑ってから踵を返して出て行ってしまった。



「さてと、楽しかったけど帰らなきゃな。アルム、また一緒に遊ぼうぜ!」


「あ、うん、そうだね。今度は僕がレッドゲイルに行ってみたいけど、良いかな?」


「ああもちろん大歓迎だぜ! 絶対に遊びに来いよな!」


 そう言ってエイジは拳を上げる。



 私も拳を上げてエイジとこつんとそれをぶつけ合うのだった。


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