2-23:エイジ帰還
私のジマの国訪問は色々あったものの、無事終了をして何時もの日々が戻り始めていた。
「アルムエイド様、いつの間に魔力制御が出来るようになったのですか?」
教育係のエマニエルさんは私が使った魔法の様子を見て驚いていた。
まぁ、今までが今までだったのでジマの国から帰ってきたらいきなり魔力制御が出来るようになっていれば誰だって驚くだろう。
とは言え、シューバッド兄さんにもらった杖は使ってはいるけどね。
ある程度大きな魔法は瞬間的に魔力を入れて切ってをすれば扱えるようになったけど、魔力使用量の少ない魔法は相変わらず調整が難しい。
なので瞬間的に魔力を込めても、魔力を注ぎすぎる場合があるので補助として魔力量を制御するあの杖を併用する事できっちりと目的の魔法が使えるようになった。
問題は誰かに充填された魔力を使ってもらう事なのだけど、最近はもっぱらアビスに魔力を食べてもらっている。
魔人であるアビスはこちらの世界に存在する為の肉体を魔力で維持している。
本来は何かに憑依するのが一番魔力消費が押さえられるのだけど、私のように魔力が駄々洩れているとそれを吸収する事でこちらの世界で肉体の維持が出来るらしい。
さらに言えば、魔力が魔人の糧となるので、余剰魔力を多めに食わせる事は何ら問題にならないらしい。
「あははは、ジマの国でちょっと魔力操作のヒントをもらったので」
「ジマの国で魔力操作と言うと……『操魔剣』ですか?」
流石はエマニエルさん。
魔法学園を筆頭で卒業したのは伊達じゃない。
私は大きく頷いてそのことを話すと、エマニエルさんは大いに驚いた。
「なるほど、普通はアルムエイド様ほどの魔力を持つ者はいません。しかし目的の魔法に対して必要十分の魔力を投入してすぐに供給を切れば効果はしっかりと出る。アルムエイド様の場合、注がれる魔力量が予定以上になってしまうからその魔法の上位魔法が発動してしまうと言う事ですか。これは興味深いお話ですね!」
あ、なんかエマニエルさんのスイッチが入っちゃった?
エマニエルさんは眼鏡のずれを直しながら目をらんらんと輝かせて手帳に何か書き込んでいる。
となると、今私が考えている事にも興味を持ちそうだ。
「それで、思ったんですが予定する魔法とその魔力を例えばこのシューバッド兄さんからもらった杖に封じ込めたらどうなるかと」
「杖に封じ込める?」
「はい、ここの今は金色になっている石、今は金色なので魔力がもういっぱいなんですが、その魔力を誰かに使ってもらうとまた元の黒い石に戻るんですよ。だからこの石に意図的に使う魔法を魔力と一緒に封じ込められないかなと」
私がそう言うと、エマニエルさんは驚いたような顔をして私に杖を見せてくれるよう言う。
私は杖をエマニエルさんに渡してみてもらうと、エマニエルさんは眉間にしわを寄せて言う。
「これは、古代魔法王国時代の魔晶石ですね? しかし魔晶石は本来内包する魔力を使いきってしまうともう使えなくなるはず。それが再度魔力注入が出来ると?」
「僕が魔法を使う時、余分に発生する魔力を今まではこの杖が吸ってくれてました。いっぱいになると誰かに魔力を使ってもらってましたが」
流石にここでアビスに魔力を食べさせているとは言えない。
しかしエマニエルさんは更に目を細めて杖を見る。
「これは……杖自体に何か魔法陣が仕込まれてますね? この術式は……転移魔法に近いですが……」
しばしその杖を見ていたエマニエルさんはハッとなって金色に輝く石を杖から外す。
そしてその中を見ながら唸る。
「なるほど! 外部からそのまま使い終わった魔晶石に魔力注入は出来なくとも、魔晶石の中に座標を指定してそこへ魔力を転移させれば魔晶石の中に魔力が溜まる。それを杖自体の術式で補助していると言う事ですね!! これは凄い!」
あー、うん、一応第二王子がいろいろな所で作らせた逸品だからね。
考えても見ればもの凄い技術ではある訳だ。
「となると、魔法自体も封じ込める事が出来るかもしれない…… 古代魔法王国の失われた技術の再現が出来るかもしれない!! アルムエイド様、これは大発見です!! 今日の授業はここまでで、この杖、お貸しいただけないでしょうか!!」
「え、ああ、いいけど……」
あまりの迫力に思わずそう言ってしまうと、エマニエルさんは大喜びで教材をしまって今日の授業は終わりと宣言して行ってしまった。
「我が主よ、私の魔力は……」
「あっ」
エマニエルさんが行ってから、マリーと一緒に端っこで控えていたアビスが悲しそうにそう言う。
なんか、おやつを持って行かれた犬みたい。
私はため息を吐いてから仕方なくアビスに魔力を注ぎ込んでやるのだった。
* * *
「アルム、ちょといいか?」
アビスに魔力を与えてやった後にエイジがやって来た。
エイジのやつ、今日のエマニエルさんの授業さぼっていた。
私はエイジに向かって文句を言う。
「エイジ、ダメじゃないかエマニエルさんの授業さぼっちゃ!」
「悪い悪い、実はレッドゲイルに帰る支度で忙しくてな」
「えっ?」
そう言えば、エイジはそろそろレッドゲイルに帰る予定だった。
イザーガ兄さんからアマディアス兄さんに不在の間の引継ぎが終わったらレッドゲイルに帰る事になっていた。
「そっか、エイジ帰っちゃうんだ……」
「なんだよ、そんな顔するなよ。今度はアルムがレッドゲイルに遊びに来るんだろ?」
「そうだけど……」
何と言うか、やっぱりちょっと寂しい。
頭では分かっているのだけど、気持ちが焦ると同時に落胆する。
エイジと一緒にいるのはやっぱり楽しい。
年が近いと言うのもあるだろうけど、たわいのない遊び相手と言う感じがして安心感さえある。
多分これは今の私、アルムエイドとしての本音だろう。
中にいる私にしてみれば少々幼稚な感情だけど、この身体はまだ五歳の男の子だ。
体から来る感情はあまりにも純粋だった。
だから私はエイジに向かって言う。
「今度は僕が遊び行くからね! 絶対だよ!!」
「ああ、待ってるよ。レッドゲイルに来たら俺がいろいろ案内してやるからな!」
エイジはそう言ってニカっと笑う。
私はそんなエイジに聞く。
「それでいつレッドゲイルに戻るの?」
「ん? 明日だよ」
「えっ!?」
あまりに急だった。
普通は二、三日の間がある。
しかし明日とはちょっと急すぎるのでは?
「まぁ、イザーガ兄ちゃんが速い所レッドゲイルに戻りたがってるんだ。アマディアス兄ちゃんの婚約の発表もあるからな。親父殿にも早い所それを伝えたいのだろう」
確かに、アマディアス兄さんとイータルモアの婚約発表は近隣諸国どころか今の縁談の話が来ているガレント王国にとっても大きな話となる。
となれば同じ国の中にあるレッドゲイル領だっていろいろとあるだろう。
「そっか、ちょっと急だったね……」
「だぁ~かぁ~らぁ~、そんな顔するなって! あと少しすれば収穫祭だろ? その頃にでもレッドゲイルに遊びに来いよ!」
「……うん、うんッ!」
エイジにそう答えると、エイジはまた拳を上げる。
私も拳を上げてそれをエイジの拳にこつんとぶつける。
「約束だな」
「うん、約束!」
そう約束をして、翌日エイジたちはレッドゲイルに戻ってゆくのだった。
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