2-21:ユエバの名物料理


「なぁ、アルム。さっきの話だけどアマディアス兄ちゃんとイータルモアが婚姻を発表すればドドス共和国が手を出しにくくなるってのは分かるんだけど、そのジーグの民とかが呪いか何かを使えるのが何か問題なのか?」



 私たちはギルドに宿泊する事になり、個室で食事をする事となった。

 アマディアス兄さんとエディギルド長だけはまだやる事があるからと言って別の部屋に行っている。


 なので、とりあえず私たちだけで先に食事をする事になったのだが……



「それはね、黒龍様ですら呪えるほどの力があるから、地竜あたりじゃ抗えないって事よ。そしてその秘術がはぐれジーグの民が使えたなら、黒龍様クラスの竜に対しても対抗手段があるって事よ!」


 そう言ってカリナさんは一気にお酒の盃を飲み干す。



「ぷっはぁ~っ! この一杯の為に頑張ってるのよねぇ~♪」



「いや、なんでカリナさんがここに?」


「行かず後家はいつも誰かにお酒をたかっていましたからね」


 しっかりとカリナさんも食事の席にいる。

 そしてじゃんじゃんお酒を注文している。



「いいじゃないのよ、マリー。イザンカの王子様たちなんだもん、私の酒代くらい安いでしょう?」


「それだけの情報提供を要求します」


 マリーはそう言ってじろりとカリナさんを見る。

 するとカリナさんはきょとんとしてからにんまりと笑う。



「じゃぁ、ユエバの町の美味しい食べ物教えてあげる。マリーは昔はいつも一人で食事してたからそう言うの詳しくないでしょう?」


「それは……」



 カリナさんにそう言われ、マリーは言葉を失う。

 マリーさん、あなたぼっちだったの?


 私がそんなこと思っているとカリナさんはどんどんと注文をする。

 すると程無くしてカリナさんが注文した品々が到着する。




「さぁ、これこそが冒険者の町、ユエバの隠れたグルメよ! まずは食べてみて!」



 言いながらカリナさんは串焼きみたいなのを手に取りサクサクと食べ始める。

 私もエイジも顔を見合わせてからカリナさんが手に取った串焼きを手に取る。



「これ、なんだろうな?」


「さぁ、でもカリナさんが言うから美味しいのかもね?」



 エイジと一緒にその串焼きを見てみる。


 白っぽい塩焼きの鳥の皮みたいなのが串にささっている。

 カリナさんがそれをサクサクと食べながらお酒を飲んでいるので、私たちもかぶりついてみる。



 サクッ!



「うわっ! サクサクっ!」


「なんだろうね、薄味だけど食感が面白い。サクサクしてて美味しいけど」


 何と言ったら良いのだろう?

 癖はほとんど無く、油で揚げたワンタンの皮というか、とにかくサクサクと程よい脂がじわっと出てきて美味しい。



「カリナ、これは一体何ですか?」


「ん~、ドラゴンフライのお腹の皮ね~。このサクサクがたまらないのよ!」



 マリーもそれを食べながらカリナさんに聞く。

 そして帰ってきた返答が……


 ドラゴンフライ?

 ドラゴンフライってたしか、トンボ……



「と、トンボぉっ!?」



「アルム、トンボって何だよ?」


「虫、空飛んでる虫だよ!!」



 うげえっ! 

 まさか異世界に来て昆虫食だなんて!!



「あら、冒険者の間ではこんなの普通よ? こっちのエビみたいのはロックキャタピラー、こっちの鶏肉はコカトリス、そんでもって……」


 テーブルに出された物は何と全てが魔物食だった。

 しかしそれらを口にしたマリーが意外な事を言う。


「驚きましたね、意外と美味しい」


「でしょ? マリーはいっつも一人で食堂の端っこで黙々とシチューとパンだけ食べてたんだもん、人生損してたわよ?」


 上機嫌のカリナさんはそう言ってヤシの実みたいなものを差し出す。



「これも飲んで見なさい、美味しいんだから!」



 言われてマリーや私たちはそれを受け取る。

 見た感じはヤシの実。

 それに穴が開いていてストローが伸び出ている。


 私は恐る恐るそれに口をつけて飲むと、口の中に甘酸っぱさとさわやかさがばっと広がる。



「これ、美味しいですね!」



「でしょ? あ、飲み過ぎは注意ね。モノによっては当たりがあるから」


 にこりとするカリナさん。

 私は思わずカリナさんにそう言ってまた飲んでみる。

 何と言うか、味わい的には乳酸菌飲料。

 白い水で薄めるやつにかなり似ている。


 これは本当に飲みやすく、魔物料理と一緒だとついつい進んでしまいそうだ。



「これ、なんだったけニャ? 昔飲んだことがあるようニャ……」


「人の食べ物は私には分かりませんんが、我が主がご満悦ならばそれでよろしい」



 一緒に食事しているカルミナさんが首傾げながら飲んでいるけど、まんざらじゃ無いようだ。

 アビスはほとんどというか全く食べてない。


「これ美味しいですぅ! おかわりですぅ!!」


「あ、俺も!」



 イータルモアもエイジも、もう飲み終わった?

 二人しておかわりをしている。


 まぁ、確かに美味しいけどね。



「アルム様、私も知りませんでしたが魔物食も意外といけるものだったのですね」


「いや、流石に僕も知らなかったよ。でも考えてみればダンジョンとか携帯できる食料は限られているから、現地で食料調達考えるとこうなるのか……」



 私たちは生活魔法で何処でも水だけは出せる。

 なので水は基本携帯しなくとも何とかなる。

 しかし食料はどうしようもない。

 エルフ族が作ると言う容量以上にモノが入れられると言う魔法のバッグ等、特殊なマジックアイテムでもない限り携帯できる食料には限りがある。

 

 となれば後は現地調達で食えるものを喰うしかない。

 たとえそれが魔物相手でも。


  

「最初トンボ食べさせられて驚かされたけど、そう言う目で見れば食べられるもんだね」


「そうですね。これは盲点でした」


 なんだかんだ言ってマリーも魔物食をちゃんと食べている。

 そしてあのヤシの実の飲み物も飲んでいる。


 どうやら気に入ったようだ。



 私たちは珍しさも相まって食事に花が咲くのだった。




 * * * * *



「うーん……」



 あの後眠気が強くなって、早めに部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。

 そして夜半、柔らかいモノが押し付けられてきて目が覚める。


 うっすらと目を開くと、目の前に何か柔らかいモノが二つ……

 触ってみると、ほど良い弾力と、甘い香りがしてくる。

 

 えーと、これってもの凄くなじみがあるけど何だっけ?


 寝ぼけた頭で更にそれを触ってみると、何か突起がある。

 何だろうと思ってそれをつまんでみるといきなり声が上がる。



「ひゃうぅんっ♡」



 ん?

 今の声、マリー??


 そう思ってもう一度それをつまんでみたり引っ張っていたりすると、やはりマリーの声がする。



「あふっ、んぁっ、あああぁぁん♡♡♡」



 なんだ一体?

 そう思って目を凝らしてみると、目の前にあるものは前世の私も良く知っている物だった!!



「うわっ、これって///////」


「アルム様ぁ~♡」


 

 抱きっ!


 むぎゅっ!!



「むぐぅっ! プハっ! マ、マリーっ!? なんでマリーが僕のベッドに? それに何で裸ぁ!?」



 私のベッドに裸のマリーがいつの間にか入って来て抱き着いて来たのだ。

 そして私がさっきまでいじっていたのは、マリーのおっぱい!



「アルムさまぁ~、マリーはアルム様がだいしゅきですぅ~///////♡」


「マ、マリー??」



 あれ?

 マリーって酔っぱらっている??       

 

 おかしい、一緒に食事していた時にお酒なんか飲んでいなかったのに?



 ぎぃ~

 ばたんっ!



「くっ~、アマディアス様どこにもいにゃいニャ! これでは夜這いをかけられにゃいニャ!」



 そんな中、部屋の扉が開いてカルミナさんが入って来た。

 そしてベッドの上の私とマリーを見て固まる。





「にゃにゃにゃにゃにゃっ///////! お、お取込み中だったニャっ!」





「いや、五歳児を相手に何がお取込みなの!? それより、誰かマリーにお酒飲ませなかった?」


 ヘロヘロになっているマリーの腕から抜け出し、シーツを裸のマリーにかけてあげてから私はベッドの淵に座る。

 するとカルミナさんはハッと何かを思い出す。



「はっ! そう言えばあの飲み物、物によっては発酵していてお酒になっているのがあるニャ! 思い出したニャ!! 飲んでいる時は誰が酔っぱらうか分からないとんでもにゃい飲み物だったニャ!!」



 ロシアンルーレットかーぃいいっ!


 これ絶対にカリナさんの仕業だ!!

 こうなるの分かっていてワザとだ!!



「んうぅ~ん、アルムしゃまぁ~♡」


「うわっ! マリーッ!!」


「アルムしゃまぁ~しゅきぃ~♡」


 

 思わずカリナさんの悪戯が成功した時の会心の笑みが思い浮かんでいたら、マリーが抱き着いて来た。



「ちょ、ちょっとマリー! カルミナさん見てないで助けてぇっ!!」


「ふむ、年下を襲うとはメイドもなかなかやるニャ。あたしも頑張ってアマディアス様を襲わなきゃニャ!!」



 そう言ってカルミナさんは踵を返して部屋を出て行った。

 出ていく時に親指を立てて、ニカッと笑顔になったのは何なんだ!?



「んぅ~、アルムしゃまぁ~♡」


「ちょ、マリー! ダメッ、こらぁ、マリーっ!!」





 深夜に寝室で私の叫び声がこだまするのだった。


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