2-20:ユエバの町再び


 私たちは何だかんだ言ってユエバの町まで戻っていた。



「おかえりなさいませ、アマディアス殿下、アルムエイド殿下」


「すまぬな、また厄介になる」


 とりあえず町のギルドに来て話を聞くことにした。


 この町には領主がいない。

 町自体を取り仕切るのはギルド連合がやっているとの話だ。

 なので、カリナさんもいる冒険者ギルドに真っ先にやって来た。



「それで、エディ殿に聞きたい。最近ユエバの町付近で異変はなかったか?」


「異変ですか? 狩人たちが近くの林や森から獲物が少なくなったと言うのは聞きましたが、それ以外は特にはないですな」


 アマディアス兄さんはそれを聞き、しばし考える。

 そしてエディギルド長に向かって言う。


「地竜をこの近辺で見かけた者は?」



「地竜ですと!? どの程度の地竜でしょうか??」



 アマディアス兄さんからその名を聞いたエディギルド長は少し興奮気味に聞き返す。

 アマディアス兄さんは苦笑してから言う。



「齢千五百年の成竜だ」


「何とっ!」



 エディギルド長はそれを聞き仰天する。

 まぁ、普通はこれが正常な反応だ。



「ま、まさかこのユエバの町付近に地竜が現れたのですか!?」


「もう話はついた。地竜は自分の縄張りの南方へと帰って行った」


 それを聞いたエディギルド長は大きく息を吐きながら椅子に座り直す。



「それは良き知らせです。成竜の地竜ともなればそれこそブルーゲイルかレッドゲイルに支援要請をして『鋼鉄の鎧騎士』でも回してもらって追い払わなければ町が壊滅してしまいますからな」


 普通、こう言った対応が当たり前だ。

 それだけ竜と言うのは人類にとって脅威なのだが、話が出来る竜だともう少し対応が違う場合もあるらしい。



「殿下、その地竜はどこへ行ったのですか?」



 当然のように横にいるカリナさんが聞いてくる。

 カリナさん、貴女ってギルドの一体何なのですか?

 一応冒険者だけど、良いのかギルド長とイザンカの王子様の会談の場にいて?

 

 しかし、アマディアス兄さんは気にする事無く言う。


「ドワーフのいる岩山が縄張りらしいとの事、今はそちらに向かっております」


「ドワーフの岩山……と言う事は、もしやその地竜はゴメズと言う名では?」


「ご存じで??」


「古い、知り合いです」



 うーん、流石に長く生きているといろいろ知り合いが増えるんだ。

 しかも竜にまで。


 あ、でも、カリナさんは黒龍とも知り合いみたいだし、長寿族はこういう時に色々話が聞けそうで助かる。


 が、ここでカリナさんはアマディアス兄さんの右腕にくっ付いているやつを見る。



「それで殿下、先程から気になっているのですが、そちらのお嬢さんは? 何と言うか、何処かでお会いした様な気がするのですが……」


 カリナさんがそう言うと、エディギルド長も頷いている。

 まぁ、ずっとアマディアス兄さんの腕に抱き着いていればそうなるだろう。

 反対側にはカルミナさんもくっ付いているし。



「黒龍の孫、イータルモア殿です……」


「「はいッ?」」

  


 アマディアス兄さんのその答えにカリナさんもエディさんも同時に変な声を出す。

 まぁ、そうなるだろう。

 多分、カリナさんもタルメシアナさんとは面識ありそうだけど、イータルモアはまだ十五歳。

 もしかしたら初めて会うのかもしれない。



「イ、イータルモア様ぁっ!? って、それじゃぁタルメシアナ様が戻っておられるのですか?」


「ええ、黒龍不在のジマの国の留守番を預かっているとかで」


 カリナさんやエディさんはそれを聞いて驚きと同時に安堵の息を吐く。

 そしてエディギルド長はアマディアス兄さんを見ながら聞く。



「殿下、差し支えなければなお話していただけるでしょうか?」


「まだ、非公式だがな。正式な発表があるまでは内密に願う」



 そう言ってアマディアス兄さんは渋々と話を始めるのだった。




 * * *



「そのような事になっていましたか……」



 話しを聞き終わったエディさんとカリナさんはまたまた大きく息を吐く。

 それはある意味安堵の息であり、アマディアス兄さんに対する同情の息でもあった。



「しかし、ジマの国にタルメシアナ様がおられる事実が知れ渡れば、ドドスも動きようがなくなりますな」


「そうならばいいのだが、今回の地竜の件や以前のグリフォンの件、もしやドドスではテイマーの手練れが動いているのではと勘ぐってしまっている」


 アマディアス兄さんのそれを聞いてカリナさんがぴくんと反応をする。



「殿下、多分それはないかと思います。グリフォンならいざ知らず地竜のゴメズをテイムできるほどの人材など聞いた事がありません」


「しかし、事実『竜笛』なるモノが使われた形跡があるそうだ」


「竜笛……ですか。しかし、地竜、しかも成竜となるゴメスに影響を与える程のモノとは……」


 そう言ってカリナさんはしばし考えこむ。

 確かに竜笛は一般的には亜種であるワイバーンを操るための道具らしいけど、成竜であるあのゴメズを操るのは考えにくい。

 だとするとそれ以外にもゴメズを操る方法があったと言う事か?



「ドドスの件に関しては確定は出来ないが、私は早急にブルーゲイルに戻り、イータルモア殿との婚姻を発表しようと思う。それによりドドス共和国が何か企んでいても強力な抑止力になるからな」


「アマディアス様ぁっ♡」


 苦渋の表情でそう言うアマディアス兄さんに対して、目にハートのマークを浮かべたイータルモアが抱き着く。



 国の為とは言え、イータルモアめぇっ!

 私のアマディアス兄さんを取るなんて!!



「くっ、正式に発表されたらかなわなくなってしまうニャ! こうなったらアマディアス様に夜這いをかけて先に子供を作るニャ!!」


 隣でカルミナさんも不穏な事言い出す。

 あんたもかぁっ!



「エディギルド長、また風のメッセンジャーを使わせてほしい。いち早く本国へこれらの事を報告して防備の増強をさせなければだからな。下手をすると地竜クラスの魔獣がまだまだ我がイザンカ王国領内に侵入する羽目になりそうだからな」


「ええ、勿論ですとも。ユエバの町も監視を強めさせましょう。国境の砦やジマの国のギルドにも連絡を取ります」


 アマディアス兄さんとエディギルド長はそう言って頷きあう。

 が、ここでカリナさんがマリーを見て口を開く。



「その昔、黒龍様がジーグの民の森で呪いをかけられたと聞いた事があるわ。マリーは知っている?」


「黒龍様が? それは初耳です。それは一体どう言った呪いですか?」


「ジーグの民が黒龍様を呪って作り上げた秘術と聞いているわ。もしはぐれのジーグの民がその秘術を知っていたなら……」


 カリナさんのその言葉にここに居る全員が驚く。


 

 私を襲ったのははぐれジーグの民だった。

 そして彼らが今仕えるのがもしドドス共和国だったら。




 アマディアス兄さんは急ぎ立ち上がりエディギルド長と一緒に部屋を出るのだった。

  

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