2-10:そこに立つ者


「アルム様っ!」




 なんかマリーの声が聞こえるけど、うるさいなぁ……


 私は呼ばれる声に導かれていつの間にか岬へと来ていた。

 そこは下の海が見渡せられる、やや高い岬で、崖のようになっている。


 そしてそこに目を凝らすとうっすらと黒い靄のようなものが見える。

 私はそれを見るとあの声が聞こえる。



『こっちへこぉおおぉぉぃぃいいいぃ』



「誰……だよ? 僕を呼ぶのは……」


 なんかぼうっとした頭のままそちらにフラフラと歩く。



「我が主よ!!」



 が、そんな私の前にアビスが立ち塞がる。



「メイド! 貴様がいながらこれはなんだ!? 我が主よ、奴の声に耳を傾けてはなりません!」


「ア……ビス?」


 目の前にアビスがいるのは分かる。

 でも邪魔だ。

 私は片手あげて邪魔なアビスをどかす。



「どいて、【火球】」



 ぼっ!

 ぼぼぼぼぼぼぼっ!!



 片手をあげた私の周りにも何十ものファイアーボールが浮かび上がる。



「我が主よ! 正気に戻られよっ!!」



 どがぁ~んッ!!


 

 私の【火球】は全弾アビスに着弾する。

 業火の中、燃え盛るアビス。

 しかし、アビスの体がふいに大きくなり、魔人本来の姿になる。

 まあ、アビスならこのくらい平気か。



『我が主よ、お気を確かに!!』


「さっすが…… 魔人だよねぇ~。じゃあこれはどうかな?」



 そう言って私はアビスに向け手ををかかげる。

 が、その前にマリーが飛び出して来る。



「アルム様ぁツ!」



「マリー…… 邪魔だよどいて。僕は岬のそこへ行かなきゃならないんだから……」


「何故です!? そこに何があると言うんです!?」


 マリーはそう言って両手を開いて私の行く手を阻もうとする。

 そこに何がある?

 

 そりゃぁ……

 そりゃぁ?


「え、えっと…… 僕を呼んで…… いる、から?」



 あれ?

 私って誰に呼ばれていたんだっけ??


 ぼうっとした頭にそんな疑問が浮かぶと、ややも思考がまともに動き始める。



『ちっ、邪魔が入ったせいか……』



 あの声がそう言う。

 ああ、そうだ、この声だ。

 私の心の奥底にいつの間にか入って来て、そして私の心をつかむようなその声。



『主よ! しっかりしてください!! 奴は、奴は主様のその魔力を狙っているのです!!』

 

『魔人風情が…… 消えろ!』



 その声がそう言った瞬間だった!



 私の意識はアビスの周りに【絶対防壁】を展開する。

 それも多重結界。

 アビスを三重の【絶対防壁】で囲むとその防壁が一気に二枚ほど破られる。



『ほう、流石だな…… それ程の魔力、我が手に入れられればこの世界も容易く手に入れられるというモノを…… 幼子ゆえに簡単に操れると思ったのだがな』



 その声は岬の先に黒い塊となって現れる。

 その威圧感にマリーも気付き、そちらを見るとひとりの男性が立っていた。


 真っ白な肌、真っ赤な瞳、銀色の髪の毛、そして年の頃三十路くらいの貴公子のような姿をしている。

 彼はこちらに向かって優雅に胸に手を当て、腰を折り挨拶をしてくる。



「お初にお目にかかる。我は七大冤獄の主、貴殿らで言う所の悪魔の王。こちらに我が門が呼ばれ様子を見てみれば、膨大な魔力を持つ者がいるではないか。その魂、我が存分に使ってやろうと思ったのだがな」



 そいつはそう言ってゆっくりと顔を上げる。

 そしてその瞳を見た私は即座にそこへ【爆裂核魔法】を叩き込んでいた!

   

 

 きゅぅ~……


 カッ!



 どぼごぃあぁああああぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!



「アルム様!?」


「我が主よ!?」



 今の一撃で目の前にあったはずの岬は完全に吹き消し飛んだ。



「はぁはぁはぁ、お、お前はぁ……」


「流石であるな。しかし残念ながらあとわずかに我に届かぬな……」



 完全に吹き飛んだ岬があったその場所に球体の防御壁を保ったそいつが宙に浮いていた。

 私の【核爆裂魔法】をしのぐとは。

 これは魔人ですら消し飛ばす程の威力なのに。



「ふっ、まぁいいだろう。今日はここまでとしよう。いずれまた会う事もあろう。今日は挨拶とでもしておこう」



 そう言ってそいつはニヤリと笑いながら虚空にその姿を消してゆく。

 全身に鳥肌が立っている。

 あいつは一体……



「アルム様!」


「我が主よ!!」



 がっくりと膝を落している私にマリーも人の姿に戻ったアビスも慌て寄って来る。

 私はあの虚空を睨んだままつぶやく。



「悪魔の王……」





 それはアビスを超える存在だったのだった。


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