2-11:タルメシアナの話


「そうですか……悪魔の王ですか……」



 戻った私たちは先ほどの「悪魔の王」についてタルメシアナさんに話をした。

 正直、この中で悪魔の王について知ってそうなのはタルメシアナさん位だと思ったからだ。



 最初はアビスに聞いたのだけど、どうやらあの異界の扉はアビスのいた世界とはまた別の世界らしい。

 アビスのいた世界とあの異界の扉はある世界は、お互いにある程度周知であったために、あの悪魔の王はアビスが魔人で邪魔だから消し去ろうとしたとか。


 アビスのいた世界は昔からこちらの世界に「召喚」される代償に「魔力」を供給をしてもらう、いわば共存関係を保っていたとか。

 では約千五百年前の魔人に滅ぼされた話はどうかと聞けば、それこそあの異界の扉の世界の連中を呼び出したのではとの事だ。


 うーん、私自身もあっちの世界から異世界転生しているから、異世界が沢山有っても否定は出来ない。



 私がタルメシアナさんの部屋を訪れた時にはもうイータルモアは寝ていて、今だにちびちびとお酒を飲んだタルメシアナさんがいた。

 しかし、真剣な顔つきでマリーやアビスを引き連れてきた私にタルメシアナさんはすぐに酔いを醒まし、私たちを部屋に招き入れてくれた。



「何か知っているんですか?」


「……これは私が生まれるずっと前、今から約千四百年前の話ですね。我が母である女神と黒龍が当時の悪魔の王と壮絶な戦いをしていたと聞いています。そして古い女神である天秤の女神アガシタ様が現役を引退になる原因だとも言っていました」



 とすると、あの悪魔の王は過去にもこの世界に何度もちょっかいをかけて来たと言う事か!?



「しかし、私の母である女神がこの世界の主神になってから彼らは手出しが出来なくなったと聞きます。事実、我が母である女神はそれまでの十二人の女神たちを凌駕する力を持った十三番目の女神だと言われているそうです。彼女はこの世界を愛する十四番目の女神と共に暮らす為に維持しているとお母様である黒龍は言っていました」



「え、ええぇとぉ、今の女神様って一体……」



「あの人は人の理解の外にいますからねぇ。娘である私だって何を考えているか分かりません。そもそも私の母となる女神は分体ですから、本体と考えが完全に同じとは思えませんからね」


 そう言ってタルメシアンさんは残りのお酒をくいっと飲み干した。



「この件に関しては母たちが帰ってきたら伝えておきます。多分、アルム君の魔力に引き寄せられて来たのでしょうけど、そうそうこちらの世界に簡単には手出しを出来ないでしょう。こちらに引き寄せることさえしなければ自力で異界から来るのは、今のあの連中は難しいはずです」


「では、僕がもう異界の扉を呼び寄せなければいい訳ですね?」


「そうですね、今回のきっかけは多分それだと思います。アルム君はもっともっと魔力の制御を鍛錬するべきですね。そうすれば君は偉大なる魔法使いになれるでしょう」



 タルメシアナさんはそう言って赤い瞳を金色に変えて私を見る。

 その瞳はまるで私の奥深くを見定めるかのように。



「なるほど……アルム君は……」




 ばんっ!



「タルメシアナ様! 先ほどの大爆発がありましたが、こちらは大事ありませんでしょうか!?」



 見れば扉を慌てて開いてエルリックさんが入って来た。

 それをタルメシアナさんはジト目で見て言う。



「これがお母様だったら今頃消し炭ですよ? 夜半に女性の部屋へノックも無しにいきなり入ってきたら殺されても文句言えませんからね?」


「あ、いや、これはすみませんでした。急な事でしたので。先ほど使いの者が確認しに行ったのですが、この先の岬で何かの爆発のようなものがありまして、岬が消し飛んでいたのです。イザンカの方々にも知らせをしたのですが、アルムエイド殿たちだけが部屋におりませんで、慌ててこちらにも…… おおぉっ! アルムエイド殿! こちらにおいでだったか!!」


 だいぶ慌てていたのだろう、エルリックさんは寝間着姿のままだった。

 頭にかぶっている三角棒がちょっとチャーミング。



「大事ありません、モアが寝ぼけただけです。寝ぼけてドラゴンブレスを吐いていたのですよ」


「イ、イータルモア様が??」



 しかしタルメシアナさんのその言葉にエルリックさんはベッドで寝ているイータルモアとタルメシアナさんを交互に見る。

 そして大きな安どの息を吐いてから言う。



「そうでしたか、原因が分かって一安心ですよ。万が一がイザンカの方々がいる時にあれば国としての面目もありませんからな」


「騒がせましたね。モアには明日良く言っておきます」


 タルメシアナさんがそう言ってにっこりとほほ笑むと、エルシックさんはお辞儀をしてから部屋を退出した。



「すみません……」


「かまいませんよ。それよりアルム君は…… まぁ良いでしょう、もう少し大きくなってからでも。ささ、夜も遅いですしそろそろ部屋に行って休みなさい。君くらいの子は良く寝ないといけませんからね。マリー、後はお願いね」


 そう言って、やはりにこりと笑って手を振る。

 私たちは仕方なしにタルメシアナさんの部屋を後にする。




「タルメシアナさん、僕を見て何か言いかけてた……」


「あの瞳、『同調』をなさっていたのでしょう。魂と肉体の結びつきを強くして全てを見渡すと言われてます……」


 最後にタルメシアナさんが何かして何か言いかけていたのが気になるけど、今は仕方ない。

 マリーはあれを知っている様だけど、とりあえずは部屋に戻る事にした。



「アビス、あの悪魔の王について知っている事を教えてもらえる?」


「それは構いませぬが、あのような者など……」


「アビスの世界と別世界なんでしょ? そうだ、アビスの世界についても教えてよ」


「御意」



 私は今までこの世界だけしか見てこなかった。


 しかし転生したこの世界は、他の世界ともまだまだ繋がりがある。

 今後自分の魔力をもっとうまく制御する鍛錬や方法を探して、そしてアビスたち異世界についても知る必要がある。


 

 私は自分の手の平を見る。

 まだ五歳の体。

 そのくせ莫大な魔力を保有する体。


 今の自分をもっとうまく制御できるようにならないと、「悪魔の王」の様な連中を呼び出し国を程ぼしかねない。

 

 それは伝説の「魔人戦争」の再来を引きおこす事になる。



「それだけは何としても阻止しないと……」




 私はそう言って手の平をぐっと握るのだった。


 

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