2-9:岬のそこには
夕焼けが全てをオレンジ色に染めている。
夏の海を取り戻した王家のプライベートビーチであるここも、明日には立ち去る事となる。
ちょっと寂しい感じもするそんな雰囲気をしっかりと味わう暇もなく開かれたバーベキューパーティーが全ての雰囲気をぶち壊す。
「アマディアス様ぁ、子供は何人欲しいですぅ? ひっく!」
「あらあらあら、モアったらもう子供の話ですか? でもまあいいでしょう、元気な子供を産む為にはお母さんが秘伝のこの書をあなたに託しましょう。これは我が母、黒龍が女神である同じく我が母に無理を言って異界の夏と冬にだけ開かれる『祭典』と呼ばれるところから取り寄せた子作りの指南書です! この薄い本にはありとあらゆる叡知の知識が詰まっているのです!! ひっく!」
「アマディアス様ぁ~先にあたしと子作りするニャ~。先に出来てしまえばあたしの勝ニャ~、ひっく!」
すでに出来上がった人たちが何人かいる。
そしてこちはこっちでエルリック王子がやたらとバーベキューの串焼きを焼くのに気合を入れている。
「父親としてこここそが戦場! 確実な焼き加減、焦し過ぎず、しかしワイルドに! 中までしっかりと火を通すために特注で仕入れたこのミスリルのバーベキュー用の串こそが勝利への鍵! さあ、イザンカの諸君、心置きなく食べたまえ! ちゃんとジマの国自慢の浜辺焼きも準備してあるからな!! ちなみにバーベキューソースも各種取り揃えているよ!!」
いるよねぇ、バーベキューになると元気になるお父さん。
何故かこういうイベントだけは生き生きとしている。
エルリックご一家も一緒になってはしゃいでいるあたり、定番なのかもしれない。
「どうしました、アルム様?」
「いや、なんか疲れたなぁ~って」
「それはいけません、早く私と湯あみをして一緒に寝ましょう!」
いやマリーさん、あなたも大概なんですけど……
「アルムのあの魔力、そしてイータルモア殿のあのドラゴンブレス…… イザンカ王国にとってこれだけの戦力がそろうとは…… もし、ドドス共和国が攻めてきたとしてもこれならば我が国の『鋼鉄の鎧騎士』を使わずとも相手の兵力を激減させることも不可能ではない……」
女性陣に囲まれてはいるけど、ぶつぶつとアマディアス兄さんが言っている。
いや、いろいろとあったのは分かるけど、兄さんもこっちの世界に戻っておいでぇ~。
と、あっちの端っこで膝を抱えて縮こまっているアビスに気付く。
私はアビスの近くまで行って様子をうかがう。
「流石は我が主、第七冤獄の冷層獄の氷さえ超える氷であの呪縛者たちを凍り漬けとは! 何という魔力、何というお力!! くぅーっくっくっくっくっ、やはりこの私が仕えるにふさわしいお方だ!!」
あ、気落ちしているのかと思ったけど大丈夫そうだ。
「なぁ、アルム。お前本当にすごいよな?」
「ん? どうしたのエイジ??」
アビスがしばらくあの異界の扉に閉じ込められていたけど、平常運転の様で安心して戻ってきたらエイジに声をかけられた。
「いやさ、俺もイザンカの血を引いてるから魔法に関しては結構優秀なはずなんだが、お前と一緒にいると驚かされる事ばかりだよ。ここだけの話だけどさ、イザーガ兄ちゃんもミリアリア姉ちゃんもお前には一目所か次期国王候補になれると睨んでいるんだぜ?」
「おいおい、やめてくれよエイジ。僕はそんなつもりさらさらないんだよ? 僕はただ、平穏に暮らせればそれで良いと思っているんだから……」
「平穏ねぇ~。でもお前みたいなのがイザンカもこのジマの国も、いや、イージム大陸自体を変えてしまうかもしれないな! そん時は俺も手を貸す。お前ほどすごい事は出来ないかもしれないけど、俺だってまだまだ魔法を勉強してきっとすごい大魔法使いになって見せるからな!」
エイジはそう言いながら浜焼きをほうばる。
私は苦笑してから、そんなエイジを見て思う。
ずっと今みたいにみんなが仲良くこうしてやっていけたらいいなと。
* * *
なんだかんだ言ってどんちゃん騒ぎは夜遅くまでやっていた。
が、流石にこの体がもたない。
エイジやエルリック一家の子供たちも同じだ。
なのでお子様組はみんな先に部屋に戻って寝る事となる。
なるのだが……
「なんでマリーまで一緒にいるの?」
「私はアルム様の内縁の妻、アルム様のいる所それすなわち私のいる場所です♡」
マリーさん、完全に言い切ってるね?
もう私の奥さんになってるね??
はぁ~。
確かにマリーは美人で男だったら誰でもそんな彼女を放ってはおけないだろう。
しかし今の私はいくら男の子でもまだ五歳!
しかも中身はアラフォー女子だから、同じ女性に興味などこれっぽっちも無い!!
くぅ~。
これがアマディアス兄さんなら、せめてシューバッド兄さんやイザーガ兄さんならば!!
喜んで一緒にお布団に入ります!!
そう思っていたらどこからともなく声が聞こえる?
何だろう、この声??
男の人の声?
「アルム様?」
「しっ! マリーニも聞こえた?」
「……いえ。何か聞こえたのですか?」
「うん、男の人の声が聞こえた気がしたんだけど……」
私はもう一度耳を澄ませて周囲の音を拾う。
するとやはり男の人の声がする。
それは叫びとは違う。
しかしはっきりと呼んでいる。
そう、この私を……
「……行かなきゃ」
「アルム様?」
何故だろう、その声に呼ばれるとそこへ行かなければならない気がしてならない。
私は部屋に行く寸前でふらふらと呼ばれるその声方へと向かう。
「アルム様、何処へ行かれるのですか?!」
「……呼んでる。僕を呼んでいるんだ」
マリーの声がやたらと遠くに聞こえる。
しかし代わりにその男の人の声がはっきりと私に聞こえて来た。
私はその声に導かれてふらふらと歩き出す。
それをマリーが制止しようとするのだけど、勝手に展開された【絶対防壁】に阻まれてマリーは私に触れる事が出来ない。
一生懸命に私の名を呼んでいる様だけど、その声はどんどん小さくなっていって私には聞こえなくなってくる。
代わりに私を呼んでいる男の人の声だけが聞こえる。
そして気が付けば私は海を見下ろせる、岬へと来ていたのだった。
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