2-5:遭遇


「アルム様、じっとしていてください!」


「いや、マリーそこは自分で出来るからぁ、うぁっ///////」



 只今私はマリーに洗われている。

 もう、体の隅々まで。

 もちろん私のポークビッツも///////


 正直、こんなちっちゃな男の子でもそこはやっぱり敏感なんだ。

 そんな所をマリーに洗われるのは流石に恥ずかしい。



「いいなぁ~、アルムは洗ってもらえて~」


「なんニャ? 洗ってほしいニャ?」


「えっ? カ、カルミナさんが俺を洗ってくれるの??」


「別に洗うのは良いニャよ?」


「マジ!? やったぁっ!」



 なんかあっちでエイジが喜んでいる。

 あいつ将来大丈夫か?

 年頃になって色町通いするんじゃないだろうな??


 そんな事を思っていると、マリーに頭からお湯をかけられ奇麗になる。



 ざばぁ~



「はい、顔拭きますよ?」


「うん」


 奇麗に泡を流してもらってから顔を拭いてもらう。

 ジマの国にも石鹸があるんだね。


 こっちの世界では石鹸って高価で珍しいらしいけど、王族となると普通に使っている。

 前にマリーに聞いたけど、一般的には香油を使うらしい。

 洗うと言うより、垢を擦った後に肌を整えて良い香りを染み込ませるのが目的だとか。

 だから石鹸のようなさっぱり感はないんだとか。


 うーん、生まれてこの方、石鹸が当たり前なので香油は想像がつきにくい。

 そんな事を思いながらマリーを見る。


  

 ……相変わらずご立派なものをお持ちで。



「アルム様? 如何なさいましたか?」


「いや、マリーも香油って使った事あるのかな~って」


「ええ、もちろんありますよ。あれはあれで肌がしっとりとするのでいいですが、石鹸のようなさっぱり感はないですね。夏場は石鹸の方がいいですよ」


 まぁ、汗かいたらさっぱりするには石鹸の方がいいもんね~。



「うあがぁっ!!」


「こら、逃げるニャ! 垢が落せにゃいニャ!!」


 悲鳴が聞こえるのでエイジを見ると、カルミナさんに垢すりでガリガリやられている。

 こっちの世界ではあの垢すりって魔獣か何かの皮膚をなめして作っているらしいけど、強くこすると肌が赤く腫れあがるほどだとか。

 サメ肌みたいなものか?



「エイジも石鹸使えばいいのに」


「にゃ? 石鹸はだめニャ! 香りがつきすぎて気配が読まれるニャ!」


 そう言ってカルミナさんはガリガリとエイジを洗う。

 その都度エイジが悲鳴を上げるけど、自業自得だ。


 と、マリーも身体を洗い終わり、泡をお湯で流す。

 あれだけ色々と戦闘とかしているけど、マリーの体には傷一つない。



「アルム様? あの、私の体が何か?」


「いや、マリーって奇麗な身体だよねって思って」


「まぁ♡ アルム様、私にご興味が湧きましたか!? では今晩から私が夜伽に///////」



 いやちょっと待てマリーさん。

 あなた、五歳児相手に何言ってんの!?



「そうじゃないって! マリーってあれだけ戦闘してるのに体に傷一つないなぁって」


 マリーの肌は瑞々しく、そして白くてなめらかだ。

 前世の私も女だったからよく分かる。

 これほどの肌を保つのにどれだけ苦労するか!!

 さらに言えば、アラサー過ぎた頃からどうしても胸が緩んで垂れ始めるから、そのケアだって大変だった。

 なのにマリーさん二十二歳はまるで十代のような肌とはり。

 一体どうなってんのよ!?




「まぁ、竜の血がここまで濃く出ていれば当たり前ですけどね」 



 その声はいきなり聞こえて来た。


 驚きそちらを見ると、マリーよりちょっとお姉さんのような感じで、金色と黒が混ざったような不思議な髪の毛の色で、もの凄い美人のお姉さんが裸で立っていた。

 しかし私はそれよりなにより彼女の頭と腰に付いているそれに目が行く。




「に”ゃッ!? にゃ、にゃに者ニャっ!?」



 エイジを洗っていたカルミナさんは、慌てて髪の毛を逆立ててその女性に向かって警戒をする。

 すると彼女はぎろりとカルミナさんを見ると、カルミナさんはびくっとして尻尾を巻いてエイジの後ろに逃げる。



「ま、まさかあなた様はタルメシアナ様!?」


「やはりマリーですか? うーん、だいぶ成長しましたね。ちょっとわからなかったですよ」


 そう言って彼女はこちらにトカゲのような尻尾を揺らしながら近寄って来た。



「なるほど、君が噂の少年ですね? うーん、確かに膨大な魔力を感じますね。凄いですよ」


 そのお姉さんはそう言って、にこっと私に笑いかける。


「あ、えっと、あなたは?」


「私はタルメシアナ。うーん、なんて言ったらいいのかな? そうだ、黒龍の娘って言えば分かるかな?」



「はぁっ!?」



 い、今、黒龍の娘って言ったぁ!?


 確かによくよく見ると、頭の上には竜っぽい角が二本ある。

 トカゲのような尻尾もよくよく見れば確かに黒い竜のそれだ。


 そして何より、もの凄い美人!


 凛とした感じだけど、何処か優しさを感じる感じで、金色と黒の混ざった長い髪の毛を揺らし、マリーと同じく赤っぽい瞳の色をしている。

 こめかみの上には左右三つづつトゲのような癖っ毛がある。

 胸もマリーに負けず劣らず、もしかしたらカルミナさんクラスあるかも。

 手足はスラリと長いけど、女性としてのラインは正しく芸術の域に達している。

 

 私は暫し呆然と彼女を見ていたが、ある事に気付く。



「なんか、あの女神に似ている……」



「あら、分かります? 私は女神と黒龍の間に生まれたドラゴンニュートです。坊や、ところで君の名前は?」


「あ、僕アルムエイドって言います。イザンカの第三王子で、その」


「ふーん、やっぱりそうなんだ。ベルトバッツさんから聞いてたけど、ほんと、お母様にも会わせたいですね。ああ、勿論お母さんにも♪」


 何やら楽しそうにそう言うタルメシアナさんとか言うドラゴンニュートで黒龍の娘さんと言う人。


 

「タルメシアナ様が何故ここに?」


「ああ、マリー久しぶりですね。えっと、お母様がお母さんとちょっと冥界にまで行っているので、頼まれてジマの国の留守番を預かったんですよね~。そうしたら一緒に来たモアがどこかに行っちゃって。全くあの子ったら」


「イータルモア様も一緒なのですか? 確か、今は十五歳になられるはずでは……」


「そうそう、人族なら成人を迎える年ですしね。だからもう大丈夫だとは思うけど、あの子世間知らずだからですしね」


 そう言って少し困り顔をする。

 えっと、その何とかモアさんってのがこのタルメシアナさんの子供で、何処かに行っている?


 私はそれを聞いてあることを思い出す。

 あのローグの民の長、水銀みたいなハゲ髭面親父を。


 ベルトバッツと名乗った彼は誰かを探していると言った。


 つまりそれはこの人の子供って事?



「タルメシアナ様がジマの国の留守番ですか…… 旦那様はお元気で?」


「ああ、うちの亭主は先日寿命で死にました。なのでまた転生してすぐに記憶が戻るようにお母様とお母さんが冥界に出向いてるんですよ。冥界の女神セミリア様にお願いする為に」


 え、ええぇとぉ。

 なんかやばそうな単語の連発なんですけど……


 理解がなかなか追いつかず混乱して来た時だった。






「我が主よ! ご無事ですか!?」





 そう言っていきなり空間に黒い渦が出来て、そこからアビスが現れる。

 それを見て、タルメシアナさんがすごい形相になる。



「魔人!? なぜこんな所に!?」


「貴様は、竜かっ!? 我が主に害を成す気か!!」



 ぶわっ!!

  


 途端にこの場に殺気のオーラが立ち込める。

 それは暴風のように吹き荒れ、周りにあった花瓶や調度品を吹き飛ばす。



「に”ゃ、ニャぁっ!!」


「うわっ!!」


 カルミナさんやエイジが吹き飛ばされそうになっている。

 そしてこの威圧感にマリーでさえ身動きできなくなっている。






「アビス、まてっ!!」





 でも常に【絶対防壁】を張っている私はその風圧や威圧を全く受けない。

 それどころかいきなり現れたアビスにふつふつと怒りがこみあげて来る。


 私の魔力を含んだその言葉にアビスはびくつき、こちらに振り返る。



「しかし我が主よ! この竜めが主様を害しようと!」




「ちがーぅってぇ!! それよりお前、ここは女湯だよ!? なぁに、勝手に入って来てんのぉっ!! このスケベがぁッ!!」




 私はそう言ってアビスに手を向け、【転移魔法】を発動させる。

 するとすぐにアビスの後ろに扉が現れる。

 そして開かれた扉から延び来る黒い無数の手に捕らえられ、その扉の中に引きずり込まれてゆく。



「ぐわぁっ、我が主よぉォおおおおぉぉぉぉっ!!!!」



 あれ?

 【転移魔法】ってあんなんだっけ??

 なんか対価と同時に体の一部を持って行かれる扉に似ているような……



「くっ! ここまでの魔力があるとはですね! あの魔人を一瞬で異界の門に捕らえるとは、すごいです!」


 タルメシアナさんはそう言って消えて行ったアビスを見る。

 既に虚空にあったあの扉も消えて、涙目のアビスが何処へ行ったか分からなくなってしまった。

 まぁ、相手はあのアビスだから大丈夫だろう、きっと。


 うーん、しかし女湯に乱入するスケベに思わずとさかに来てしまって【転移魔法】のはずが【異界の門】を呼び寄せてしままうとは。

 これ、シューバッド兄さんにもらった魔力制御の杖使ってたら一発でキャパオーバーで壊れていたかもしれない……



「アルム様、ご無事で!?」


 マリーが慌てて私に抱き着いてくる。


  

「むぎゅっ!」



「アルムぅ~、こいつら怖いニャ! もう嫌ニャっ!」


「あ、アルム、なんだよ今の門!? なんだよあの瞳!? あの黒い手って何なんだよぉっ!?」   

 

「うーん、アルムエイド君かぁ。ほんとすごいですね。これ、うちのお母さんに匹敵するかもしれませんね」



 女湯でみんな裸のままで私に詰め寄って来る。

 もう、いい加減にしてよ! 


 ストライクゾーン以外の男の子と女になんか抱き着かれたり寄られたりしてもっちとも嬉しくないんだからぁッ!!!!




 やっぱりアマディアス兄さんと一緒にお風呂に入るべきだとつくづく思う私だったのだ。


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