2-6:宴


 私たちはジマの国の歓迎の宴に招かれていた。



「今宵はジマの国の特産である海鮮料理を楽しんでくれ、それでは我が国とイザンカ王国の良き同盟に!」


 そう言ってヨテューン王は盃をかかげ乾杯の音頭を取る。

 私たちもそれに同調するのだが、現在タルメシアナさん他一名以外はもの凄く空気が重い。


 それもそのはず、今から約一時間前の事だ。

 アマディアス兄さんの所で大騒ぎがあったからだ。




 ―― 約一時間前 ――



「しかし困りましたですね。モアったら一体どこへ行ったのでしょう?」



 お風呂からあがってみんな服を着てから宴に参加するために部屋に戻る。

 すると、部屋の方から騒ぎが聞こえる。




「ですから私はあなたとは初面識であなたの事は何も知らないのです!」


「いいですぅっ! お父さん死んじゃって寂しかったのにいきなりお婆様の故郷に行けだなんてみんな酷いですぅ!」



 なんかアマディアス兄さんと聞き慣れない女性…… いや、女の子の声がする。

 私たちは慌てて部屋に戻ると、そこにはアマディアス兄さんに抱き着いている美少女がいた。



 お”い”、ごぉるぅぁ!

 私のアマディアス兄さんになぁ~にぃ抱き着いてんのよ!?



「アマディアス兄さん!!」


「あ、アルムか!? ちょうどいい、助けてもらえないか? この娘がなぁ……」





「モアっ!」




「へっ? あ、お母様ですぅ」


 その光景にタルメシアナさんは声を上げる。

 そしてすぐに彼女の元へ行って彼女をアマディアス兄さんから引っぺがし、抱きしめる。



 抱きっ!


 めきめきめきっ!!



「モアっ! 一体どこへ行ってたのです!? お母さん心配してたんですよ!?」


「ぐぇえええええぇぇええですぅ! お母様、力緩めて! 力緩めてですぅ!!」



 なんか抱き着かれた彼女は体からめきめきと嫌な音をさせてタルメシアナさんをパンパン叩いている。




「ふうぅ、助かった…… しかしどうやら彼女が黒龍の孫と言うのは本当だったみたいだな……」


 アマディアス兄さんはタルメシアナさんとその美少女を見ながら、そう言って私たちの方へと逃げて来る。



「アマディアス兄~さ~ん、一体何があったんですぅ!?」


「ア、アルム? 何を怒っているんだ?」


「な・に・が、あったんです!?」



 怒り心頭の私に流石のアマディアス兄さんもやや気負けをされたようだ。


 だってそうじゃない!

 帰ってきたら知らない美少女に抱き着かれてるんだもん!

 アマディアス兄さんは私の兄さんだよ?

 他の女の人にはのらりくらりと言って興味を示さないストイックな美形だよ!?


 それなのにぃっ!



「いやな、風呂に入っていたらいきなり彼女が乱入してきて、『良い男だから、結婚しましょ!』とかいきなり言い出してな」



「お風呂に乱入!?」



 いやちょっと待て、アマディアス兄さんのあのジャーマンなフランクフルトを拝んだのか!?

 いやいやいや、その前にまさか彼女もお風呂に乱入と言う事は、は、裸かっ!?



「タルメシアナ様、もしやそちらの方は?」


「ああ、マリー。覚えている? この子があの時のイータルモアですよ。ほらモア、マリーお姉ちゃんですよ~」


「マリーお姉ちゃんですぅ?」



 しかしそんな彼女たちの所へマリーが進んで行き、そう話しかける。

 マリーに気付いたタルメシアナさんは、その美少女イータルモアと呼ばれた彼女を抱きしめるのを緩め、マリーを見せる。


 イータルモアと呼ばれた彼女は暫しマリーを見ていたが、いきなりマリーに抱き着く。



「ほんとだ、マリーお姉ちゃんですぅ!!」


「モ、モア様」



 抱き着かれたマリーは少し驚いたような、そして嬉しそうな感じで彼女を受け止める。


「うわぁ~、何年ぶりですぅ? でもマリーお姉ちゃん、なんでメイドの姿してるですぅ? お婆ちゃんの所のクロエと同じですぅ? もしかしてまだクロエの所で修行してるですぅ??」


「いえ、今の私はこちらのアルム様に娶っていただきまして、専属の内縁の妻になっております」


 いやちょっと待てマリーさん!

 今もの凄い事言わなかった!?

 娶ったぁ?

 内縁の妻ぁ!?

 

 マリーさん、ワタシマダ五歳ヨ、五歳!!



「ふーん、マリーお姉ちゃんそのちっこい男の子と結婚したんだぁ~ですぅ。なら私がそっちのイケメンと結婚してもいいですよね、お母様ですぅ!」


「モア、それは一体どう言う事なのです?」


「さっきその人とお風呂で裸で夫婦の営みしたですぅ♡」





「「「「な”っ!?」」」」   

 




 一瞬でこの場が凍り付く。

 そして一斉にみんなの視線がアマディアス兄さんに集まる!



「あなた、何処のどなたか知りませんがうちの娘に手を出したのですね?」


「アマディアス兄さん、どう言う事っ!?」


「モ、モア様が私より先に大人の階段上ってしまったっ!? アルム様、私たちも今晩!!」


「に”ゃ、にゃんにゃんニャぁーっ!! アマディアス様はあたしが狙っていたのにぃニャ! 泥棒猫にとられたニャぁっ!! あ、でも強いオスには複数のメスがつくのは有りニャ、アマディアス様、あたしにもニャ! あたしにもアマディアス様の子供くださいニャ!!」


 

 ぎんっ!


 ぎっぎんっ!!



 みんなの鋭い視線がアマディアス兄さんを睨みつける。



「ちょ、ちょっとまてお前たち。私は何もしてないぞ? 確かに風呂に入っていたらその娘が裸で乱入してきたが、私は何もしてないぞ!?」



「まぁっ! うちの娘に手を出しておいてシラを切るのですか!? この子はまだ男性を知らないはずだったのに、それなのに責任逃れをするつもりですか!?」


「アマディアス兄さんがそんな人だとは思いませんでした!!」


「モア様、その、どのような事でそうなったかもう少しこちらで詳しく…… 私も参考にしたいので///////」


「ニャぁ―っ、とりあえずアマディアス様の正妻はだめとしても……いや、先に子供を産めばあたしの勝ニャ! まあディアス様、子作りするニャ!!」


 

 一斉にわめく私たち。

 そりゃそうだ、あのアマディアス兄さんがそんなことしたのだから!!



「モア、こうなったら何が何でもこの人に責任を取らせます! うちの娘に手を出しておいて知らぬ分からぬ存じませぬは通用しません! 我が母、女神と黒龍の名において何が何でもうちの娘を娶らせます!!」


「え、お母様良いのですぅ? ほんとですぅ? やったぁですぅ! イケメンの旦那様ゲットですぅっ!!」


 タルメシアナさんはそう言ってびしっとアマディアス兄さんに指を指して言う。

 その横でイータルモアが大喜びしている。



「な、なんでそうなるのだ! ちょと待ってくれ、私は本当にその娘に手は出していない! その娘がいきなり口づけをして来ただけなんだぞ!!」


  

「「「「へっ!?」」」」



 今度はみんなの視線がイータルモアに行く。

 しかしニコニコ顔で喜んでいるイータルモアは首をかしげている。



「どうしたですぅ、みんなですぅ?」


 

 いや、あんたさっきアマディアス兄さんと裸で夫婦の営みしたって言ったじゃん!

 夫婦の営みって言ったらアレがこーで、それがあーで、合体しちゃって最後には$#%&がなかで*?$#して赤ちゃんできちゃうでしょうにぃ!!



「ちょっとモア良いですか? あなた、この人と『夫婦の営み』をしたのですよね?」


「うんそうですぅ。お母様とお父さんがよくチューしてたじゃないですかですぅ。あれが夫婦の営みって死んだエマ―ジェリアお母様が言ってたですぅ」



 はぁ?

 チューが夫婦の営み??

 それにまた知らない名前の母親が出て来た??



「タルメシアナさんの旦那さんて一体何者なの?」


「タルメシアナ様の旦那様ですか? 普通の人族…… であるはずですが、私がお会いした時はもうかなりの御高齢で、確か九十歳を過ぎていましたが。それでも手合わせていただいた時にあ当時の私は全く歯が立たなかったですけどね。そう言えば旦那様は複数の奥さんがいたと聞いてましたが、あの時タルメシアナ様以外は皆お亡くなりになられていたと聞いてましたね」


 思わずマリーを振り返って聞いてみるとそんな事を言っている。


   

「まったく、エマだったのですか…… 変な余計な知識ばかり教えるから…… とは言え、最後の方は少しボケてましたからねぇ。ですが……」


 タルメシアナさんはそう言ってアマディアス兄さんを見る。



「未遂とは言え、我が娘の裸体を見た挙句、接吻をしたのです。やはり責任は取ってもらいます!」


「な、なんでそうなるのだ! それに私はイザンカ王国の第一王子、そう簡単に貴殿の娘を娶る訳には……」



「イザンカ王国滅ぼしちゃいますよ?」



「ぐっ!」



 いやいやいや!

 ちょと待ってタルメシアナさん!

 あなた今凄い事言ってますけど!?



「イザンカ王国位なら今の私だってその気になれば滅ぼせます。流石にまだまだお母さんやお母様にはかないませんが、人族相手なら簡単に滅ぼせますよ?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。黒龍の娘にそこまで恨みを買うような事なのか!?」


「接吻、しましたよね?」


「そ、それは……」


 あー。

 アマディアス兄さんしたんだ。



 アマディアス兄さんは助けを求めるように周りを見るも、私はジト目でアマディアス兄さんを見ている。



「もらって、くれますよね?」


「ぐっぅ……」



 タルメシアナさんのその言葉にアマディアス兄さんは何も言えなくなるのだった。




 * * * * *



「して、本当にイータルモア様を娶る事になったのかの?」


「ヨテューン王、今はその話は…… 何とかならんのですか?」


「うーん、相手はあのタルメシアナ様じゃからのぉ。以前黒龍様が『将来我が娘は私を超えるでしょう。自覚が出れば【竜神】として女神に並ぶ力を宿すかもしれません】とか言っておったからのぉ。儂らにどうにかできるとは思えんがのぉ」



 あっちでアマディアス兄さんとヨテューン王がこそこそ話をしている。


 結局アマディアス兄さんが王族でしかも第一王子。

 そして黒龍の孫となるイータルモアが結婚するとなれば大騒ぎになるし、黒龍の許可がまだ得られてないから許可を得るまで内々にしようとなった。


 タルメシアナさんも流石にヨテューン王から黒龍の名前まで出されたので渋々そこは認めてくれたけど、イータルモアがうちのアマディアス兄さんの嫁になる事はほぼ確定になってしまった。



 くっそぅ~。


 アマディアス兄さんを取られてしまった!!



「なぁ、アルムこの魚うまいぞ? 生で食うのは驚いたけど、この魚醤って言うタレとわさびって言う辛いのつけると癖になるな!」


「そうだね!」


「どうしたんだよ、アルムもカルミナさんも??」



 驚いた事にジマの国では新鮮な魚を生け作りにして、更にわさびや魚醤と言うちょっと癖はあるけど醤油があった。

 他にもてんぷらや茶わん蒸し、魚の煮つけとかまさしく和食のオンパレード!

 更にどうやら輸入ではあるものの、白米まであって、押し寿司だけど、寿司まであった。


 本来は喜び食事を楽しむはずだったけど、私とカルミナさんはやけ食いに近い状態だったのだ。




 ほんとうに、アマディアス兄さんのばかぁ―っ!!  


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